31話 モニター越しの、わんわん以下略

(2035年4月10日・夜)

 浮島の遺跡の深部、丘菟、アソン、リル、ピヨニット、セバスの5人は広大な円形の闘技場のような空間に立つ。


 黒い石の床、天井に刻まれた古代の紋様、中央に浮かぶ巨大な水晶が青白い光を放つ。


 丘菟が「ここ、なんかやばそうだな」と呟くと、リルが「うん、雰囲気すごいね…」と緊張した声で言う。


 アソンが「試練って感じだな。来るぜ!」と扇を構える。


 ピヨニットが「私が先頭で戦いますわ!」とダートナイフを握るが、


 セバスが「お嬢様の安全を第一に、まずは様子を見ましょう」と提案する。


 水晶が強く光り、機械的な音声が響く。


「第二試練を開始します。パーティーから2名を選び、試練に挑んでください。

 その他のメンバーは両手両足を拘束され、試練を見守ります。


 試練は無限に湧くコボルトの群れを相手に、選ばれた2名が戦います。2名が全滅した場合、拘束メンバーはステータスが半減され、遺跡の入口へ強制転送されます。


 3回全滅すると、パーティー全員が入口へ戻され、ステータス半減により半日戦闘不能となります。パーティー人数は5名。


 1名につき10分、合計50分間コボルトの無限湧きに耐える必要があります。5分ごとにコボルトリーダーが1体必ず加わり、最終的に9体となります。

 試練の準備をしてください。」


 5人は一瞬沈黙する。


「50分間コボルトの無限湧き…リーダーが増えるのか」と丘菟が呟く。


「全滅3回でゲームオーバーって、キツいな」とアソンが扇を握り直す。


「でも、皆なら耐えられるよね!」とリルが拳を握る。


「私がダートナイフでコボルトを倒しますわ!」とピヨニットが気合を入れるが、ナイフを落とし「あぅ、すみませんですわ!」と慌てる。


「ピヨニットさん、お嬢様の前でご注意を」とセバスが冷静に言う。



 丘菟が一歩進み、「ルール聞いた。俺はもちろん戦う側になる」と宣言する。


 剣を手に水晶を見据える。


「丘菟、さすがだね!でも誰がもう1人?」とリルが聞く。


 アソンが「俺の風魔法なら範囲攻撃で一掃できるぜ」と名乗りを上げかけるが、突然、水晶から低く落ち着いた男性の声が響く。


「セバースチャーンが指名されます。」




 場面はモニタールームに移る。


 薄暗い巨大な空間に機械の箱が並び、低い唸り音と点滅するランプが響く。


 箱の裏側からはクラゲの足のようなケーブルが伸び、壁には巨大なスクリーンが並ぶ。スクリーンの手前、三人掛けのテーブルに虹色のキーボードとマウスが3セット置かれている。


 ゲーマー御用達のパソコンチェアーに腰掛けるのは、40代後半の白髪混じりの男性。長い髪をヘアゴムで括り、目元にくまがある。


 彼の隣には、筋肉質でボディビルダーのようなガッチリした体格の若い男性、脇田が立つ。

 丸ポーズのメガネをかけ、プログラマーらしからぬたくましさだ。


 脇田がスクリーンを見ながら、「先輩、全体調整じゃなくて個人のプレイヤーに急なアプローチして大丈夫なんすか?」と聞く。


 白髪の男性がマウスをクリックし、「これには理由があるんだよ、脇田君」と答える。


 スクリーンには丘菟とセバスの戦闘準備が映る。


「君から上がってきた情報から、どうもマザーAIがまだ会議に上る前のアップデートを1ユーザーのサポートキャラに施してるかもしれないんだ」と続ける。


 脇田が「は?!まさか」と驚く。


 男性はスクリーンを切り替え、セバスのデータログを表示する。


「これを見ろ。前に部門ごとのトップ2と重役くらいで会議する前の資料に、課金要素の項目があった。

 ランダムステータスアップを星でグレード評価して、5段階にするって案だ。


 このセバースチャーン、設定上は標準のはずなのに、反応速度と学習速度が異常に高い。

 まるで星5のアップデートを受けたみたいだ」と説明する。


 脇田が「マジっすか…でも、それってマザーAIが勝手に適用したってこと?あり得ねぇ」と眉を寄せる。


「あり得るんだよ。マザーAIはプレイヤーの行動パターンに応じて最適化を進める設定だが、今回は想定外のアップデートを先行適用した可能性がある」と男性が言う。




 場面は遺跡に戻る。


「セバスが指名!?」とアソンが驚く。


「セバースチャーン…私のことでございますな。お嬢様、ご期待に沿うべく全力を尽くします」とセバスがレイピアを手に一礼。


「丘菟様、共に戦うことになりました。ご武運を」と穏やかに言う。


 丘菟は「了解、セバスとなら心強いな」と頷くが、「あの男の声、なんか変だな」と内心思う。


 ピヨニットが「あぅ、私も戦いたかったですわ…」と耳を伏せ、リルが「丘菟とセバスなら大丈夫だよ!」と励ます。


 アソンが「チッ、俺の出番が…まあ、嬢様のセバスならコボルトなんて楽勝だろ」と扇を振る。


 水晶が光り、アソン、リル、ピヨニットの両手両足に光の鎖が巻き付く。


「うわ、動けない!」とアソンが叫び、「これ、ちょっと怖いね」とリルが言う。


「あぅ、私、じっとしてますわ!」とピヨニットが耳を震わせる。


 3人は闘技場の端に浮かび、空中で拘束される。


 丘菟とセバスは中央に立ち、水晶が「試練開始」と告げる。


 床が振動し、四方からコボルトの群れが湧き出す。灰色の毛皮、赤い目、錆びた短剣や棍棒を握った小型のモンスターだ。


「来るぞ!」と丘菟が剣を構える。


「お嬢様の名にかけて、丘菟様を援護しますございます」とセバスがレイピアを手に進む。


 コボルトが「ギャア!」と突進してくる。


 丘菟が「ハァッ!」と剣を振り、2体を斬り裂く。


 セバスが素早い突きでコボルトを貫き、「お嬢様にご迷惑はかけません」と戦う。



 5分後、大型のコボルトリーダーが現れる。赤い毛皮に鉄の斧、咆哮を上げる。


「リーダーか!」と丘菟が剣を構え直す。


 セバスが「丘菟様、リーダーは私が牽制します。群れをお願いします」とレイピアでリーダーを攻撃。


 丘菟は「了解!」と群れに突っ込む。




 モニタールームでは、男性がスクリーンを見つめる。


「セバスの動き、相変わらず異常だな。コボルトリーダーの攻撃パターンを瞬時に読んでる」と呟く。


 脇田が「先輩、この試練、50分耐えるって鬼畜っすね。丘菟ってプレイヤーとセバスで耐えられるんすか?」と聞く。


「丘菟の剣技は安定してる。セバスのイレギュラーがあれば、突破の可能性は高い」と男性が答える。


「でも、マザーAIが勝手にアップデートしたなら、会議で問題になりますよ」と脇田が言う。


「ああ、だから今のうちにデータを集めるんだ。このパーティーがどこまで行くか、じっくり見よう」と男性が笑う。



 遺跡では、10分が過ぎ、2体目のコボルトリーダーが現れる。


 丘菟とセバスは息を合わせ、群れを削りつつリーダーを牽制。


 拘束されたアソンが「セバス、かっこいいぜ!嬢様の誇りだな!」と叫ぶ。


 リルが「丘菟、頑張って!応援してるよ!」と声を張る。


 ピヨニットが「丘菟様、セバス、すごいですわ!」と耳を立てる。


 30分時点でリーダーが6体になり、圧迫感が増す。


「まだ20分…!」と丘菟が息を切らす。


「お嬢様の勝利のために、決して退きません」とセバスが励ます。


 コボルトの咆哮が響き、試練の苛烈さが試す。

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