27話 自習と母の大変さを思う日々
(2035年4月10日・放課後~夜)
ロングホームルームでクラス委員が1時間ほどで決まり、白米猛(ハクマイ タケル)先生が教卓に立ち、「よし、残りの1時間は各自煩くしないように自習な!」と少しだるそうに言う。教卓横にパイプ椅子をガタガタと直し、腰を下ろすと、ジャージの内ポケットから手鏡を取り出し、前髪を気にし始める。指で髪を摘まみ、左右に動かして整える姿は、1年時から小テストや自習時間に見慣れた光景だ。クラスメイト全員が一瞬視線を向けるが、「いつも通りだ!ヨシ」と心の中で思うのか、誰も何も言わず目を逸らす。この瞬間だけは、クラス全体に妙な一体感が生まれる。丘菟も「またか」と苦笑しつつ、机に目を落とす。
丘菟は手首の端末を操作し、机の上にキーボードとテキスト入力欄をホログラムで照射する。静かに指を動かし、リルと会話を始める。「リル、委員決め終わったよ。俺、図書委員になった」と打ち込むと、「やったね、丘菟!本に囲まれて楽しそう!」とリルの声が小さく返ってくる。「うん、静かで俺に合ってるかも」と返す。そんな中、鏡茨が手を挙げ、「ねえ、席の移動しても良いですか?」と明るく聞く。だが、学級委員長の綾瀬美琴が即座に「駄目です」とスパッと答える。そのキレの良さに、丘菟は内心「先生より先生に向いてるんじゃないか」と思う。鏡茨が「ちぇ~」とアヒル顔で唇を尖らせると、副委員長の高木翔太が「ごめんね、飛鳥。でも僕も静かにした方が良いと思うよ」と優しく諭し、綾瀬に同意する。「うーん、分かったよ」と鏡茨がしょんぼり自席に戻る。
教室は静寂に包まれ、各自が自習に励む。丘菟はノートを開き、午前の小テストの復習を始めるが、頭の片隅で「今夜のアソンとのゲームが楽しみだな」と考える。リルが「丘菟、綾瀬さんって厳しそうだけど頼もしいね」と言う。「そうだな。市内達も大人しくしてるし」と丘菟が返す。市内海泉とその取り巻きは窓際でノートを広げているが、時折チラチラとこちらを見る。「また何か企んでるんじゃないか」と少し警戒するが、綾瀬の視線が効いているのか、特に動きはない。白縫と栞里は窓際で教科書を読みつつ、時折小声で笑い合う。教室全体が穏やかに時間が過ぎていく。
自習時間が終わり、掃除の時間になる。丘菟は図書委員としての初仕事はないが、教室の掃除に参加する。箒を持ち、床を掃きながら「掃除って地味に疲れるな」と呟く。鏡茨が「丘菟、掃除上手いね!美化委員の私より良いかも!」と笑う。「お前、遊んでるだけだろ」と白縫が突っ込む。「遊んでないよ!ちゃんとやってるって!」と鏡茨が反論する。掃除が終わり、ショートホームルームで白米先生が「明日もちゃんと来いよ」と言い残し、帰り支度が始まる。丘菟はリュックに教科書を詰め、アソンにメッセージを送る。「部活もないし、冷蔵庫の中身が心もとないからスーパーで買い物してから帰る。家の事が諸々済んだ20時に待ち合わせにしないか?」と提案すると、すぐに返信が来る。画面には「◯」と書かれたフリップを持つ、可愛らしいデフォルメピヨニットが動くアニメーション。「了解だな」と丘菟が笑う。
学校を出て、駅前のスーパーへ向かう。リルが「丘菟、一人暮らしのお食事事情に合った食材、買おうね!」と提案する。「そうだな。一週間分くらい簡単にできるものでいいか」と言い、カートを押す。まずは野菜コーナーでキャベツ、ニンジン、玉ねぎを手に取る。「これなら炒め物やスープに使える」と呟く。次に肉コーナーで鶏むね肉と豚こま切れをカゴに入れ、「安いし調理しやすいな」と考える。冷凍食品コーナーでは餃子とチャーハンを選び、「疲れた日はこれでいい」とリルに言う。「うん、楽ちんだね!」とリルが賛成する。パンコーナーで食パンと菓子パン、インスタント食品コーナーでカップ麺を数個手に取る。「シーフード味、久々に食べたいな」と呟く。最後に牛乳と卵を加え、レジへ。パッケージされた物はリュックに、両手にはエコバッグを持って帰宅する。
家に着くと、玄関で靴を脱ぎ、「ただいま」と呟く。リルに「お風呂の準備お願い」と頼む。「はーい!昨日湯を抜かなかったから、今日は適切な温度で温めるね!」とリルが言う。丘菟はキッチンへ行き、食料品を冷蔵庫や棚にしまう。野菜は野菜室に、肉は冷凍庫に、パンは棚に整頓する。作業を終え、水道からコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。「ふぅ、喉乾いてた」と息をつく。外に干していた洗濯物を取り込み、リビングに置く。自室へ上がり、リュックをフックに掛け、制服を衣紋掛けに吊るして除菌スプレーをシュシュと吹きかける。いつものズボラな格好――Tシャツとパンツ、靴下のまま――でお風呂へ向かう。
脱衣場で服を脱ぎ、洗濯機に放り込む。リルが「40度に設定したよ!」と言うので、「ナイス」と呟き、お風呂場へ。シャワーを浴び、汗と疲れを流す。「気持ちいいな」と湯船に浸かりながら目を閉じる。10分ほどで上がり、体を拭いて脱衣場の棚から替えの下着とTシャツ、短パンを着る。取り込んだ洗濯物を畳み、棚に収める。体操着は「面倒だな」と思いながら2階へ上がり、机の上に置く。時計を見ると19時30分。「やばい!時間ない!」と焦り、「久々にカップ麺にするか」と決める。買ってきたシーフード味のカップ麺を選び、お湯を沸かして注ぐ。3分待つ間、冷蔵庫からレモンの天然水を取り出し、蓋を開ける。出来上がったカップ麺をキッチンテーブルで食べ、割り箸を燃えるゴミに、容器をリサイクルの袋に分別する。「うまい、懐かしい味だった」と満足げに呟く。
天然水を持って自室へ上がり、机に置く。ヘッドギアを手に持ち、頭に装着する。「よし、行くか」と呟き、「コンタクト・スタート!」と唱える。視界が暗転し、光の粒子が舞う中、エアルーン平原の夜が広がる。星空の下、風がマントをはためかせ、剣の重みが手に馴染む。リルがふわりと現れ、「丘菟、おかえり!20時ピッタリだね!」と笑う。「うん、アソン待ってるかな?」と返すと、遠くから「おおーい、丘菟!」とアソンの声が響く。金髪の女性アバターが手を振って近づいてくる。「お嬢様、お揃いでございますな」とセバスが言う。「私が遅れてすみませんでしたわ、アソン様、丘菟様!」とピヨニットが慌てて現れる。「準備できたか?」と丘菟が笑うと、「おう、今夜は遺跡攻略だぜ!」とアソンが拳を握る。冒険の夜が始まる。
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