25話 敵か味方か委員長ちゃん

(2035年4月10日・昼過ぎ)

学食での昼休みを終え、丘菟とアソンはトレーを片付け、教室へ戻る道すがらトイレに寄る。男子トイレで手を洗いながら、「午後も頑張ろうぜ」とアソンが言う。「お前、眠そうだけど大丈夫か?」と丘菟が笑うと、「カルボナーラで復活したから平気だよ!」とアソンがニヤリと返す。トイレを出て、Aクラスの教室前でアソンと別れる。「じゃあな、ゲームでまた会おう」とアソンが手を振ると、「おう、今夜な」と丘菟も軽く手を上げて応える。アソンがAクラスのドアをくぐり、丘菟は隣のBクラスへ向かう。廊下を歩いていると、予鈴のチャイムがカーンと鳴り、学校全体がザワザワと急ぐ足音で満たされる。

Bクラスの教室に戻ると、ドアを開けた瞬間に鏡茨、白縫、栞里の3人組が入ってくる。鏡茨と目が合うと、彼女がニコッと笑って手を振ってくるので、丘菟は軽く会釈をし、微笑みを返す。すると、鏡茨が頭の上に電球が点灯したような表情で、「おっ!」と丘菟の方へ向かおうとする。だが、白縫が首を振って栞里に目配せし、栞里が素早く動いてガシッと鏡茨の腕を掴む。「ステイ、飛鳥!」と栞里が言うと、鏡茨は「えーっ」としょんぼりした顔で自席へ向かう。白縫と栞里はニヒルに親指を立て、無言で「やりきったぜ」と丘菟に合図を送る。丘菟は「何だこのやり取り」と内心で笑いつつ、軽く首を振って自分の席に座る。

すると、教室のドアがガラッと開き、本鈴ギリギリでちょっとカイ男子3人組が入ってくる。朝の市内海泉とその取り巻きだ。「危ねぇ、やっと間に合った」と市内が息を切らして言う。「お前らが遅刻しそうだったから焦ったわ」と取り巻きの1人が笑う。「やれやれ、危なかった」と丘菟は内心で呟きつつ、窓の外に目をやる。春の風が桜の花びらを舞わせ、教室の中とは対照的な穏やかさが広がっている。

チャイムが鳴り終わり、担任の英語教師、白米猛(ハクマイ タケル)先生が教室に入ってくる。「おーし、席に着け」と少しだるそうな声で言う。下はスーツのズボンだが、上はYシャツにジャージというラフな格好。黒髪の前髪が若干寂しくなりつつあるが、まだ御年29歳の独身だ。「今日は午後の授業じゃなくて、ロングホームルームな。クラス委員を決める会議やるぞ」と黒板にチョークで「クラス委員」と書き込む。丘菟は内心、「美化委員か保健委員か図書委員あたり狙いたいな」と考え、手を挙げる瞬間を待つ。

白米先生が「まずはクラスの学級委員を決めて、板書や進行を頼みたいと思う。誰かやる気ある奴いるか?」と言うと、教室の前の方からスッと手が上がる。新顔の女子生徒だ。背筋がピンと伸び、メガネの奥の目が鋭く光る、いかにも委員長タイプの雰囲気。「私がクラスをより良い方向へ纏めてみせます」と自信満々に言うと、市内とその取り巻き、そして丘菟をチラリと見やる。丘菟は「何で俺を見るんだ?」と少し困惑するが、黙って様子を見る。その女子生徒の隣に座る男子が渋々といった表情で手を挙げる。「俺、幼馴染だから支えるよ。副委員長でいいなら」と少し投げやりに言う。「おお、いいコンビじゃん。決まりな」と白米先生が板書に「学級委員長:綾瀬美琴」「副委員長:高木翔太」と書き込む。

「綾瀬美琴か…初耳だな」と丘菟が内心で呟くと、手首の端末からリルが小さく「丘菟、あの子、しっかりしてそうだけどちょっと怖いね」と言う。「そうだな。でも、クラス纏めるなら頼もしいかも」と返す。美琴が立ち上がり、「皆さん、クラスの秩序を守るために協力お願いします。特に問題起こす人には厳しくしますから」と市内達を再度見やる。市内が「何だよ、その目」とムッとするが、取り巻きが「まぁまぁ、落ち着けよ」と宥める。「やれやれ、また絡まれそうだな」と丘菟は苦笑する。

白米先生が「次、他の委員な。美化、保健、図書とかあるけど、希望者いるか?」と聞くと、丘菟は少し緊張しながら手を挙げる。「俺、図書委員やりたいです」と言う。「おお、丘菟か。読書好きそうだし、いいな」と白米先生が頷く。綾瀬美琴が「図書委員なら私からも賛成。静かに仕事してくれそう」と意外にも好意的なコメントをくれる。「ありがとう」と丘菟が軽く頭を下げる。すると、栞里が「私、保健委員やりたいな。怪我とか病気とか、みんなの世話焼くの好きだし」と手を挙げる。「いいね、栞里なら安心だ」と白米先生が板書に追加する。

鏡茨が「じゃあ私、美化委員やるよ!掃除なら任せて!」と元気に手を挙げるが、白縫が「飛鳥、お前掃除中に遊ぶだろ」と冷静に突っ込む。「遊ばないよ!ちゃんとやるって!」と鏡茨がムキになる。「まぁ、飛鳥の元気なら美化も悪くないか」と白米先生が笑いながら書き込む。市内が「俺ら3人で何かやりてぇな」と手を挙げ、「体育委員とかどうだ?」と言う。「お前ら、身体測定でも体力あったし、体育ならいいかもな」と白米先生が「体育委員:市内海泉、他2名」と書き加える。「よし、これで決まりだな」と先生がチョークを置く。

教室が少しざわつき、「綾瀬って誰だっけ?」「高木と幼馴染なんだ」と生徒達が囁き合う。丘菟は「リル、図書委員になれたよ」と端末に呟く。「やったね、丘菟!本に囲まれて楽しそう!」とリルが喜ぶ。「そうだな。静かで俺に合ってるかも」と笑う。白米先生が「じゃあ、委員長の綾瀬と副委員長の高木、早速進行頼むわ。自己紹介とか今後の予定とか適当にやってくれ」と席に座り、ジャージのポケットに手を突っ込む。美琴が立ち上がり、「では、私から。綾瀬美琴です。クラスの規律を保ちつつ、みんなが楽しく過ごせるようにしたいと思います。よろしく」とキリッと言う。高木が「えっと、高木翔太。美琴の幼馴染で、補佐する感じ。よろしくな」と少し照れながら言う。

丘菟は「この2人、バランス良さそうだな」と内心で感心する。鏡茨が「ねえ、丘菟、図書委員なら一緒に本借りに行こうよ!」とこっそり言う。「飛鳥、お前美化委員だろ」と白縫が呆れる。「掃除の合間に本読むんだよ!」と鏡茨が笑う。「楽しそうだけど、ちゃんと仕事しろよ」と丘菟も笑う。ロングホームルームは和やかに進み、委員決めが終わる頃には教室も落ち着きを取り戻す。丘菟は「午後も意外と平和そうだな」と呟きつつ、次のゲームの予定を考える。

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