25話 学食での語らい

(2035年4月10日・昼)

4月10日の学校は、3年生と2年生の身体測定が終わり、今日は1年生がその順番を迎えている。丘菟達2年生は、8日に実施されなかった科目の小テストを午前中に数科目こなす。丘菟のBクラスでは、数学の関数問題や国語の読解問題を解き終え、頭が少し疲れた頃、チャイムが鳴って昼休みになる。丘菟は手首の端末に手をやり、隣のAクラスのアソンに「一緒に学食どう?」とメッセージを送る。「了解、すぐ行く」と返信が来る。Aクラスの教室が学食に近いため、丘菟は鞄を手に廊下に出て、アソンと合流すべくAクラスへ向かう。廊下を歩き、Aクラスのドア前でアソンが眠そうな顔で出てくる。「お、丘菟。お疲れ」と手を振るアソンに、「お前もな」と笑い返す。2人で階段を降り、一階の別棟にある学食へ話しながら向かう。

道中、手首の端末からは見えないが音声のみでリル、ピヨニット、セバスが会話に参加する。「やっと昼だよ。午前の小テスト、数学の最後が難しかったな」と丘菟が言うと、アソンが「だろ?俺、グラフの交点出すのに時間かかってさ。脳みそ溶けそうだった」と笑う。リルが「丘菟、アソン、お疲れ様!頭使った後は美味しいご飯だよ!」と弾んだ声で言う。小柄な猫獣人の女の子でドジっ子メイドのピヨニットが、「私が、釜揚げしらす丼を推しますわ、アソン様、丘菟様!栄養満点ですわよ!」と少し慌てた口調で言う。セバスが「いやいや、嬢様にはカルボナーラとサラダの組み合わせがよろしいかと存じます。栄養バランスが取れますございます」と落ち着いた執事調で提案する。学食の自動ドアがスーッと開き、2人は中へ入る。

券売機の前に立ち、ガラス越しに並ぶ見本料理の作り物を見ながら何を食べるか吟味する。朝はバタートーストとチーズの洋風だったため、丘菟は少し迷うが、「麻婆豆腐定食」のボタンを押す。「辛いのが食べたくなった」と呟く。アソンは「俺、セバスの勧めでカルボナーラとサラダにするわ。セバスの感なら間違いないな!」と言い切り、券売機で注文を確定させる。ピヨニットが「私が、しらす丼とツミレ汁を押したんですけど…あぅ、ダメでしたわ」と少ししょんぼりする。「ピヨニット、次はそれにするよ」と丘菟がフォローすると、「ほ、本当ですわ!?丘菟様、優しいですわ!」とピヨニットが耳をピクピクさせて喜ぶ。学食は効率よく動き、待ち時間が短いのが特徴だ。今日は1年生の昼休憩が前倒しのため、2年生の時間帯は席が空いていて、余裕を持って座れる。丘菟とアソンはトレーを手に、カウンターで料理を受け取り、窓際の4人掛けテーブルに座る。

丘菟は麻婆豆腐をスプーンで掬い、口に運ぶ。「うまい!辛さがちょうどいい」と舌鼓を打つ。アソンはカルボナーラをフォークで巻き、「セバス、やっぱ正解だわ。クリーミーで最高」と満足げだ。サラダのドレッシングをかけながら、「朝から市内に絡まれた話、廊下でチラッと聞いたよ」とアソンが言う。丘菟は「うん、いつものヤキモチだよ。飛鳥と仲良いのが気に入らないみたいで」と苦笑する。「アイツさ、飛鳥のこと好きだろ。昨日も身体測定の後でうるさかったし」とアソンが笑う。リルが「丘菟、朝辛かったよね。でも、白縫さん達が助けてくれて良かった!」と励ます。「そうだな。あれで少し楽になったよ」と丘菟が返す。「白縫様達、かっこいいですわね」とピヨニットが言う。「確かに冷静でございましたな、丘菟様」とセバスが頷く。

話題を変え、「そういえば、ゲームの浮島の遺跡解放の台詞、噛まずに言えたかい?」とアソンに聞く。アソンはカルボナーラを頬張りながら、「あんなの俺にとっては朝飯前よ!まぁ、言ったのは夕飯後のログイン時だったけどなぁ!がはは」とオッサン臭いギャグをかます。ピヨニットが「素敵でしたわ、アソン様!右目を押さえて唱えた瞬間に手をバッと広げる姿、私、シビレましたわ!」と目をキラキラさせる。セバスが「わたくしも感服致しました。嬢様の堂々たる姿、さすがでございます」と丁寧に褒める。「おいおい、照れるぜ」とアソンが笑い、フォークをくるくる回す。丘菟は内心、「この従者も主人も無敵じゃね?」と思いながら声には出さない。

リルが「私、ママに聞いたことがあるわ!恥ずかしげもなくあーいう台詞を言えるのは中二病?っていうのよ!あれ、アソン大丈夫?身体どこか悪いの!?」と心配そうに言う。アソンが「グサッ!今は身体的にダメージ食らったよ」と笑い、カルボナーラを口に放り込む。「中二病って何だよ」とアソンが首を振ると、リルが「えっとね、ママ曰く、かっこいい台詞とかポーズに憧れる時期なんだって!」と説明する。「じゃあ私が今全盛期ってことですわね!」とピヨニットがドジっぽく胸を張り、テーブルに肘をぶつけて「あぅ!」と小さく叫ぶ。「ピヨニットちゃん、大丈夫?」とリルが心配し、「大丈夫ですわ、リルちゃん!」とピヨニットが慌てて返す。「ピヨニットさん、ご注意くださいませ」とセバスが優しく言う。「お前ら、賑やかだな」と丘菟が笑う。

「ゴホン」と一つ咳払いし、丘菟が「それで、アソンはどこまで進めたの?」と聞く。アソンはサラダを食べながら、「平原の安全地帯で角兎と戯れてた後、遺跡の入口まで行ったよ。丘菟が言ってた石碑の台詞、俺も試したら光ったけど、中に入る前にログアウトしちゃった」と言う。「おお、同じとこまで来たんだな。トランジット・コアのヒントっぽい水晶があったよ」と丘菟が言う。「マジか!じゃあ今夜一緒に探索しようぜ」とアソンが目を輝かせる。「いいね。リルも楽しみにしてるよな?」と丘菟が言うと、「うん!私も水晶見たい!」とリルが弾む。「私もですわ、アソン様、丘菟様!遺跡で大活躍したいですわ!」とピヨニットが気合を入れるが、「あ、でも敵にぶつからないようにしないと…」と少し不安そうに耳を伏せる。「執事長、私を守ってくださいですわ!」と頼むと、「勿論でございます、ピヨニットさん」とセバスが穏やかに返す。

「俺と丘菟、リルにピヨニット、セバスでパーティー組めば無敵だろ」とアソンが胸を張る。「でもさ、ボーンウォーリアーとボーンマジシャン出てきて結構強かったぞ」と丘菟が言う。「マジかよ。俺、新アバターのスキル試したいからちょうどいいわ」とアソンがニヤリとする。「私、魔法で援護するよ!」とリルが言う。「私が、前衛で頑張りますわ!…転ばないように気をつけますわ」とピヨニットが決意する。「丘菟様、嬢様、リル様を私がお守り致しますございます」とセバスが言う。麻婆豆腐を食べ終え、丘菟が「学食って安くて美味いから助かるよな」と言う。「だな。俺、カルボナーラもう1皿いけるかも」とアソンが笑う。「お前、身体測定で体力あったのに食欲もすごいな」と丘菟が呆れる。「食って動くのが俺のモットーだよ!」とアソンが返す。昼休みのチャイムが鳴るまで、5人でゲームや学校の話を続け、笑い声が学食に響く。丘菟は「午後も頑張れるな」と呟き、アソンと教室へ戻る準備を始める。

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