24話 うざ絡みの名手

(2035年4月10日・朝)

丘菟は教室のドアをガラリと開ける。まだ朝のホームルーム前で、教室にはまばらに生徒が集まり始めている。教卓の前に立つ2人と、丘菟の机に座る1人の3人組が目に入る。聞き慣れた声が響き、女子の話や丘菟に対する文句や悪口が耳に届く。「あの丘菟ってさ、なんで女子に人気あんの?ナヨナヨしててキモいよな」と教卓前の1人が笑いものにするように言う。「ほんと、飛鳥とか何でアイツと仲良くすんの?」と、もう1人が鼻で笑う。丘菟の机に座る市内海泉(シナイ ウズミ)は、足をぶらつかせながら、「あいつ、昨日も身体測定でチヤホヤされてたよな。見てて腹立つわ」と吐き捨てる。

ドアを開けた瞬間、3人の視線が丘菟に刺さる。市内が机から降り、取り巻きの2人がニヤニヤしながら近づいてくる。「お、おはよう、丘菟ちゃん!今日も可愛いねぇ」と1人がわざとらしい高声で絡んでくる。「昨日さぁ、飛鳥に抱きつかれてたらしいじゃん。女子にモテモテでいいねぇ」ともう1人が肩を軽く叩いてくる。丘菟は「いつものことか」と内心で辟易しながら、事を荒立てないよう関心なさそうに目を逸らす。「おはよう」と小さく呟き、机に向かおうとするが、それが面白くないのか、市内が肩をいからせてズカズカと近寄ってくる。「何だよ、その態度。何でお前みたいなナヨナヨしてるのが飛鳥と仲良くしてんの?あぁ?!」と朝から暑苦しく絡んでくる。そして、丘菟の肩を軽く押す。

丘菟は少しよろめき、足元がふらつく。「おっと」と呟きながら体勢を整えるが、市内は「こんなちょっと押したくらいでよろけやがって。漢っぽさの欠片もねぇな」と侮蔑するような目で見下ろす。取り巻きの2人が「そうだそうだ」と囃し立て、ゲラゲラ笑う。丘菟は「ははは」と乾いた声で笑い、内心では言い返したい気持ちが渦巻く。でも、勇気がでない。クラスメイト達は教卓前以外にも登校しているが、市内の癇癪がこちらに飛び火するのを嫌がり、誰もが目を逸らし、見えないふりをする。丘菟は黙って市内と目を合わせ続ける。互いに睨み合うような沈黙が続き、空気が重くなる。

その時、教室のドアが再び開き、女子生徒側のカーストトップグループが登校してくる。鏡茨、白縫、栞里の3人だ。教室内の物々しい雰囲気を一瞬で感じ取り、白縫が小さく呟く。「あぁ、これは飛鳥の好きな市内のヤキモチだな。昨日も1人で大きな声で特に丘菟に絡んでたしなぁ」と冷静に分析する。鏡茨が「またかよ」と呆れたようにため息をつき、栞里が「うわぁ、朝からうるさいね」と小さく笑う。3人はいつものように窓際の席へ向かいながら、チラリと丘菟と市内の様子を窺う。

丘菟は市内の視線を外さず、内心で「何だよ、飛鳥と仲良いのがそんなに気に入らないのか」と苛立つ。でも、口に出すのは我慢する。市内がさらに一歩近づき、「お前さ、昨日飛鳥にチヤホヤされて気持ち良かっただろ?ナヨナヨしてるくせに調子乗ってんじゃねぇよ」と声を荒げる。取り巻きが「調子乗ってるよな!」「飛鳥は俺らのもんなのに!」と騒ぎ立てる。丘菟は「はぁ」と小さく息をつき、「別に調子乗ってないよ」と低く返す。それがまた市内の癇に障ったのか、「何!?」と顔を近づけてくる。

「ちょっと、やめなよ」と静かな声が響く。白縫だ。窓際の席に鞄を置きながら、冷静に市内を睨む。「朝からうるさいし、他の人も迷惑してるよ」と続ける。市内が「ハァ?何だよ、白縫。お前に関係ねぇだろ」と言い返すが、白縫は動じず、「関係あるよ。教室がこんな雰囲気だと、私も気分悪いし」と淡々と言う。鏡茨が「そうそう、市内さぁ、飛鳥が丘菟と仲良くてもお前には関係ないじゃん」と笑いものにするように言う。栞里が「ねぇ、市内くんって実は飛鳥のこと好きなんじゃない?ヤキモチっぽいよね」とニヤリと笑う。市内が「うるせぇ!違ぇよ!」と顔を赤らめて反論するが、取り巻きさえ「え、マジで?」と少し引く。

丘菟は内心「助かった」とホッとしつつ、白縫達に軽く会釈する。市内が「チッ」と舌打ちして、「覚えてろよ」と捨て台詞を吐き、取り巻きを引き連れて席に戻る。教室の空気が少し緩み、丘菟は自分の机に座る。「リル、今の見てた?」と手首の端末に小さく呟く。「うん、見てたよ!丘菟、辛かったね。でも、白縫さん達が助けてくれて良かった!」とリルの声が優しく響く。「そうだな…でも、朝から疲れるよ」と苦笑する。「市内ってさ、飛鳥のこと好きなのかな?」とリルが聞く。「さあな。でも、俺に絡む理由がそれなら面倒だな」と呟く。

教室のドアが再び開き、アソンが眠そうな顔で入ってくる。「おはよー…うわ、何か空気重くね?」と一瞥して言う。丘菟が「いつもの市内の絡みだよ」と返すと、「あぁ、またか。アイツ飛鳥に気があるってバレバレだよな」とアソンが笑う。鞄を机に置きながら、「昨日掲示板でゲームの話してたら夜更かししちゃってさ、眠いわ」と欠伸する。「お前、身体測定でも体力あったのに夜更かしでそれかよ」と丘菟が呆れる。「体力あっても眠気は別モンだよ!」とアソンが笑う。2人の会話に、少し教室の空気が和む。

白縫が窓際から丘菟を見やり、「丘菟、大丈夫だった?」と声をかけてくる。「うん、ありがとう。助かったよ」と返す。「市内ってさ、飛鳥のことになるとすぐ熱くなるからね。昨日も身体測定の後で絡んでたし」と白縫が言う。「そういえば、飛鳥に抱きつかれて女子に囲まれた時も市内見てたな」と丘菟が思い出す。「あいつ、ヤキモチ妬いてんだよ。分かりやすいね」と鏡茨が笑う。「でもさ、丘菟って女子に人気あるよね。私も可愛いと思うよ」と栞里がニコニコしながら言う。「やめてくれよ、からかうなって」と丘菟が顔を赤らめる。

チャイムが鳴り、担任が入ってくる。「おはよう、席に着いて」と言う声で生徒達が動き出す。丘菟は机に座り、「リル、今日も長い一日になりそうだな」と呟く。「うん、でも丘菟なら大丈夫だよ!私も応援してるから!」とリルが励ます。「ありがとな」と小さく笑い、ノートを取り出す。市内の視線がまだチラチラ感じるが、無視して授業に集中する。一日の始まりがこんな調子でも、丘菟は自分のペースを守ろうと決める。

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