23話 2人のルーティン
(2035年4月10日・朝)
朝が訪れ、部屋に軽やかなアラーム音が響く。時計の針は6時30分を指すが、その5分前、丘菟はベッドの中で目を擦りながら目覚ましを止める。端末からリルの声が優しく響く。「おはよう、丘菟!モーニングコールだよ!」と少し弾んだ調子だ。丘菟は寝ぼけ眼をこすりながら、「おはよう、リル!昨日は身体測定でたくさん運動したし疲れてるはずなんだけど、身体も痛くないし、夜中も目を覚まさずに心地よく寝れたよ」と呟く。声に少し驚きが混じる。リルが「良かった!おはよう、よく寝れたみたいだね」と返すと同時に、カーテンレールを操作する音がカシャカシャと響き、カーテンがスルスルと開く。朝日が窓から差し込み、眩しさに丘菟が目を細めるが、その陽射しは柔らかく、心地よく眠気を覚ましてくれるようだ。「うん、気持ちいいな」と呟きながら、丘菟はベッドから起き上がる。
隣の勉強机に置かれた飲みかけのペットボトル入りの緑茶に手を伸ばし、キャップを外して一気に飲み干す。昨夜は途中で起きなかったせいで喉がカラカラで、まるで砂漠に水を撒くように吸収されるのが分かる。「ふぁ、生き返る」と小さく笑う。パジャマを脱がず、そのまま2階の洗面台へ向かうことにする。トイレを済ませ、洗面台で顔を洗うと冷たい水が肌を引き締め、目がしっかり覚める。タオルで顔を拭き、部屋に戻って制服に着替える。昨日除菌スプレーをかけたおかげで、汗の匂いは残っておらず、爽やかなシトラス系の香りが漂う。「いい感じだな」と満足げに呟く。リュックを開け、本日必要な教科書とノート、筆記用具が入っているか確認する。問題ないと頷き、上部の取っ手を持って立ち上がる。空になったペットボトルを空いた手に持ち、階段を下りてリビングへ向かう。
リビングに着くと、リュックをテーブルとセットの椅子の背もたれに掛ける。ペットボトルをリサイクル専用の袋に分別し、キャップと本体を分けて入れる。キッチンへ移動し、手を洗って朝食の準備を始める。トースターに食パンをセットし、バターを塗る準備をする。ケトルに丘菟が使う分だけの水を入れ、火にかけて沸かす。カップに顆粒状のインスタントコーヒーを入れ、沸騰したお湯を注ぐと、ふわりと香ばしい匂いが広がる。「パンだけじゃ味気ないな」と呟き、冷蔵庫からサンドイッチ用のスライスチーズが4つに袋分けされたパックを取り出し、そのうち1つを開けてバタートーストの上に適当に乗せる。トースターがチンとなり、チーズが少し溶けたトーストが完成。「よし、朝食できた」と満足げにテーブルに運び、椅子に座る。
「リル、お天気と占い見たいからテレビつけてくれる?」と頼むと、「はーい!」とリルが返事し、リモコンを操作する音が響く。テレビがつき、朝のニュースが流れ始める。お天気コーナーでは、「今日は晴れ、最高気温22度、最低気温14度、降水確率10%」とアナウンサーが伝える。「いい天気だな」と丘菟が呟き、トーストを齧る。チーズの塩気とバターのコクが混ざり、「うまい」と笑顔になる。コーヒーを啜りながら、占いコーナーに耳を傾ける。「牡羊座のあなた、今日は新しい出会いが待っているかも。ラッキーカラーはオレンジ」と流れる。「新しい出会いか…昨日ぶつかった男子かな?」と少し考えるが、「まぁいいや」とコーヒーを飲み干す。食事を終え、食休みのために少しテレビを見ながらぼんやりする。「リル、昨日のお風呂のおかげでほんと疲れ取れたよ。40度って絶妙だな」と言うと、「でしょ!ママが『疲れた時はぬるめがいい』って言ってたの、当たりだね!」とリルが得意げに笑う。
時計を見ると7時10分。そろそろ準備を整える時間だ。テーブルの食器類を流しにある桶に冷やかし入れ、ガス元栓を閉めたか確認する。「よし、大丈夫」と呟き、「リル、テレビ消して」と頼む。「了解!」とリルが消すと、画面が暗くなる。持ち歩きの端末を手に持ち、「リル、こっちに移動して」と言うと、「オッケー!」とリルのホログラムが端末に移る。手首に端末を装着し、リュックを背負う。洗面台へ移動し、歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨く。ゴシゴシと丁寧に磨き、口をゆすいで顔を拭く。洗面台の備え付け鏡で身だしなみを確認し、髪を軽く整える。「リル、どう?」と聞くと、「バッチリだよ!オッケー!」とリルが笑顔で返す。「よし、じゃあ行くか」と玄関へ向かう。
靴を履き、トントンとつま先を馴染ませる。ドアを開け、外へ出ると春の朝の空気が頬を撫でる。鍵を閉め、「リル、学校まで語らおうぜ」と言う。「うん、いいよ!昨日ぶつかった男子のこと、どう思う?」とリルが聞く。歩き出しながら、「さあな、同じ制服だったし同学年か先輩だろうけど、名前聞かなかったから分からないよ」と答える。「でもさ、ラブコメって言われたんでしょ?丘菟、モテるかもね!」とリルがからかう。「やめてくれよ、そういうんじゃないって」と苦笑するが、内心少しドキッとする。「まぁ、新しい出会いって占いでも言ってたし、今日何かあるかもしれないな」と呟く。「楽しみだね!学校でアソンにも会えるし!」とリルが弾んだ声で言う。「そうだな、アソン昨日夜更かししてたみたいだから眠そうだぞ」と笑う。
通学路を歩きながら、春の風が制服の裾を揺らす。道端に咲く桜の花びらが舞い、リルが「綺麗だね」と言う。「そうだな、もう散り始めか」と見上げる。学校までの道のりは15分ほど。歩き慣れた道だが、朝の陽射しとリルの声でいつもより新鮮に感じる。「そういえば、ゲームの遺跡どうするんだっけ?トランジット・コアのヒント見つけたけど」と丘菟が言う。「うん、アソンと一緒に探索する約束だったよね!今日ログインする?」とリルが聞く。「学校終わったらな。身体測定で疲れてたけど、よく寝れたし元気あるよ」と返す。「良かった!私も楽しみにしてるからね」とリルが笑う。
十字路に差し掛かると、昨日ぶつかった場所を思い出す。「ここか…」と呟き、周りを見渡すが誰もいない。「丘菟、気にしてる?」とリルが聞く。「いや、別に。ただ、変な縁だったなって」と笑う。信号が青になり、渡り始める。学校の校門が見えてくると、生徒たちの声が聞こえ始める。「おはよう!」と誰かが挨拶し、丘菟も「おはよう」と返す。「リル、今日もよろしくな」と呟き、校門をくぐる。「うん、私も頑張るよ!」とリルが元気よく返す。朝の喧騒の中、丘菟は教室へ向かい、一日が始まる。
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