22話 お風呂場での語らい

玄関の鍵を開ける音がカチャリと響き、丘菟がドアを押し開ける。「ただいま」と小さく呟きながら中に入る。靴を脱ぐ前に、ふと「あれ、リルどうしたんだろう?」と心の中で思う。何かおかしい気がして、頭を軽く振る。すると、思い出した。「そういえば、体操着に着替える時に端末を外して電源落としてリュックにしまってたんだ!」と納得し、ひとまず靴を脱いで揃える。スリッパに足を滑らせ、リビングへ向かう。リビングのテーブルにそっと鞄を置き、端末を取り出して電源ボタンを押す。ブーンと軽い起動音が響き、ホログラムが投影される。そこには腕組みをしたリルが、少し不機嫌そうな顔で立っている。「やれやれ、ご機嫌がよろしくないなぁ」と丘菟は内心で苦笑する。一方、リルは丘菟の疲れた顔を見て、「こんなお疲れ具合じゃ怒れないな」と内心で諦める。すると、同じタイミングで二人とも深い溜息をつき、その音が重なる。「ふぁっ」と丘菟が驚き、「ぷっ」とリルが小さく笑う。

気を取り直したリルが、「ねえ、身体測定どうだったの?」と聞く。丘菟は立ち上がり、キッチンへ向かいながらスピーカーを通して「追々話すよ」と返す。2035年の技術では、ゲームAIとは別に進化したホームAIが普及しており、家中にスピーカーが設置されている。リルの声はどこにいても聞こえ、防犯対策も万全だ。丘菟は身体測定で運動した後で、汗が乾いたとはいえべたつきが気になり、「お風呂入りたいな」と思う。「リル!お腹空いてるけど、まずお風呂入りたいから準備してくれる?」と頼むと、「はーい、任せてね!」とリルが元気よく答える。丘菟は「とりあえずリュックと制服を片付けてくるか」と呟き、リビングを出て階段を登る。2階の自室へ向かい、ドアを開けて入ると、壁に設置された2つのフックにリュックを掛ける。制服を脱ぎ、衣紋掛けに吊るして除菌スプレーをシュシュシュと吹きかける。Tシャツとパンツ、靴下という「お客さんが来ても対応できない格好」になり、脱衣場へ向かおうとするが、「あ、体操着」とリュックを思い出し、中から取り出して小脇に抱える。部屋を出て階段を下り、脱衣場の扉を開ける。

すると、リルが「今日は運動して疲れてるから、お風呂の設定温度を40度に下げておいたよ!気が利くでしょ!」と得意げに言う。「おぉー」と感心した丘菟がお風呂場の戸をガラガラガラ〜と開け、湯気と温度を確認する。「ナイス!リル、確かそうすると体に良いんだったね」と笑顔で返す。戸を開けたまま、体操着を洗濯機に放り込み、着ていたTシャツ、パンツ、靴下も脱ぎながら次々と投入する。「そろそろ溜まってるなぁ、洗濯するか」と裸のまま洗剤を入れ、洗濯機をスタートさせる。一人頷き、お風呂場に入って戸を閉める。シャワーの水音が響く中、丘菟はリルに今日の出来事を軽く話し始める。「身体測定、上体反らしは50センチだったよ。柔軟性はあるって褒められたけど、男子に『女の子みたい』ってからかわれてさ」と笑う。リルが「丘菟って柔らかいよね!でも、からかうなんてひどいよ!」と少しムッとする。

シャワーを浴びながら、「反復横跳びは55回で、持久力がなくて息切れしたよ。アソンは45回で足が絡まってたけど」と続ける。「アソンって不器用そうだもんね」とリルが笑う。「垂直跳びは58センチで、アソンが55センチ。握力は俺が30キロで平均、アソンが40キロで強かったよ」と湯船に浸かりながら話す。「アソンって現実でも強いんだね」とリルが感心する。「校庭の50メートル走は俺が7.3秒、アソンが6秒で速すぎて驚かれたよ。1500メートルは俺が7分30秒でバテたけど、アソンは6分20秒で余裕だった」と笑う。「丘菟、持久力は鍛えた方がいいかもね」とリルがアドバイスする。「ボール投げは俺が15メートルで平均、アソンが42メートルで遠すぎって驚かれてた。幅跳びは俺が4.1メートル、アソンが4.5メートル。懸垂は俺が5回で、アソンが12回だったよ」と湯船で肩まで浸かりながら話す。「アソンってほんとすごいね!丘菟も頑張ったよ!」とリルが褒める。

「保健室で体重は俺が47キロ、アソンが68キロ。身長は俺が160.5センチ、アソンが181センチだった。聴力と心音はどっちも正常だったよ」と話し終える。「丘菟、軽いね。華奢って言われるのも分かるよ」とリルが言う。「男子には『ウサギみたい』とか散々言われたよ。女子には可愛いって撫でられてさ、思春期だから恥ずかしいって言ったのに全然聞いてくれなくて」と苦笑する。「丘菟、可愛いもんね。私も撫でたい!」とリルが笑う。「やめてくれよ、リルまで」と湯船で顔を赤らめる。お風呂場のスピーカーからリルの笑い声が響き、丘菟は「はぁ、リルには敵わないな」と呟く。湯船に浸かりながら、「そういえば、朝にぶつかった男子、誰だったんだろう?」と思い出す。「同じ制服だったし、背が高くてがっしりしてたな。名前聞くの忘れたけど」と呟くと、リルが「丘菟、友達増えたらいいね!でも、ラブコメって言われたんでしょ?」とからかう。「やめてくれって、そういうんじゃないから!」と慌てて否定する。

40度のぬるめのお湯が疲れを癒し、「気持ちいいな」と目を閉じる。「リル、準備ありがとな。40度ってほんとちょうどいいよ」と言うと、「でしょ!疲れてる時はぬるめがいいんだよ。ママに教えてもらったの!」とリルが得意げだ。「ママってほんと色々知ってるな」と感心する。洗濯機がブーンと動き始め、「洗濯も済ませたし、後は上がって何か食べるか」と考える。「お腹空いたな。コンビニのパン残ってるけど、温かいものがいいな」と呟く。「リル、お風呂上がったら何か作るの手伝ってくれる?」と聞くと、「うん、いいよ!何にする?」とリルが返す。「冷蔵庫に卵とネギがあったはずだから、卵かけご飯と味噌汁でいいかな」と提案する。「簡単でいいね!私、味噌汁の味付けアドバイスするよ!」とリルが張り切る。

お湯から上がり、体を拭いて脱衣場の棚から替えの下着とTシャツ、短パンを取り出す。着替えながら、「身体測定で疲れたけど、お風呂入ったら少し元気出たよ」と言う。「良かった!運動した日はちゃんと休まないとね」とリルが優しく返す。洗濯機の残り時間を確認し、「あと20分くらいか。干すのは後でいいや」と呟く。お風呂場の戸を開け、リビングに戻る。端末を手に持つと、リルのホログラムが「丘菟、お風呂気持ち良かった?」と笑顔で聞く。「うん、最高だったよ。リルのおかげだな」と返す。「えへへ、嬉しいな!」とリルが照れる。キッチンへ向かい、「さて、卵かけご飯と味噌汁作るか」と冷蔵庫を開ける。卵とネギを取り出し、味噌汁用のインスタント味噌を棚から出す。

「リル、味噌汁ってどれくらいの味噌入れるのがいいんだっけ?」と聞くと、「お湯150ミリリットルに対して味噌小さじ1くらいだよ。ネギ入れるなら少し濃いめでもいいかも!」とアドバイスする。「了解」と鍋にお湯を沸かし、味噌を溶かす。ネギを刻みながら、「身体測定の後、飛鳥さんに抱きつかれてさ、女子たちに囲まれて大変だったよ」と笑う。「飛鳥さんって元気だよね。私も会ってみたいな!」とリルが言う。「現実じゃ無理だけど、ゲームなら会えるかもな」と返す。卵を丼に割り、ご飯をよそって醤油を垂らす。味噌汁にネギを入れ、火を止める。「できた!」とテーブルに運び、座る。「いただきます」と手を合わせ、卵かけご飯をかき込む。「うまい!」と満足げに言うと、「良かった!私も嬉しいよ」とリルが笑う。

食べながら、「そういえば、アソンが掲示板に書き込んで夜更かししてたって言ってたな。明日学校で眠そうだ」と呟く。「アソンって熱心だよね。ゲームのこと現実でも頑張ってるんだ」とリルが感心する。「そうだな。俺も見習わないと」と味噌汁を啜る。食事を終え、皿をシンクに運ぶ。「洗濯物干したら寝るか」と立ち上がり、脱衣場へ。洗濯機が止まっており、濡れた衣類を取り出して物干し竿に掛ける。「リル、今日もありがとな。おやすみ」と言うと、「おやすみ、丘菟!ゆっくり休んでね」とリルが優しく返す。端末の電源を切り、自室へ戻る。ベッドに潜り込み、「明日も頑張ろう」と目を閉じる。静かな夜が丘菟を包み、深い眠りに落ちていく。

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