12話 丘菟は賢くなった!

丘菟は安全地帯の柔らかな草地に立ち、端末を手に角兎カウントを眺める。「51200匹か…他のユーザーがいないのに、結構な数の角兎が倒されてたようだね」と呟く。アソンは扇を軽く振って、「そこ?まぁ、丘菟のことだから外部で情報収集せずに自分で考えて得た知識で楽しそうだけど」と内心で思案する。その様子を横目で見ていたピヨニットが、リルに近づき、「リルちゃん、丘菟様にはここがどんな意味合いの場所か最初に伝えてないの?」と小声で聞く。リルが「うーん、あ!!」と思い出したように目を丸くし、「丘菟にお手伝いは頼まれてるけど、前情報は要らないから、しーだよって言われた!」と鼻先に人差し指を立てる。

セバスが「ははは、合点がいきましたな、お嬢様」と低く笑い、カイゼル髭を微かに揺らす。丘菟は頬を掻きながら、「なんだい、僕以外はここがどんな場所で目的も定まってるの知ってるってこと?」と少し困惑した顔だ。アソンは扇を手に顔を覆い、「まぁ、仕方ないな。これに誘ったのも俺だし、丘菟がVRゲームというかゲーム自体したことなかったのも知ってて放っといたのも俺だしな」と呟く。丘菟が「いや、そんな深刻に考えることじゃないよ」と笑うと、アソンは「取り敢えず腰を据えて話すことにして、セバスや、レジャーシートを出してくれる?」と指示する。セバスが「はい、畏まりました、お嬢様」と答え、執事服の内ポケットから畳まれたレジャーシートを取り出す。そのサイズは隙間から出すには不釣り合いなほど大きい。

「ピヨニットさん、お手伝いを頼めますかな?」とセバスが言うと、ピヨニットが「分かりました、執事長!」と頷く。リルが「私も私も!」と手を高く上げ、ぴょんぴょん跳ねながら手伝いを宣言する。3人がかりでレジャーシートを広げ、草地に敷き終えると、一同は靴を脱いで座る。丘菟が「皆ありがとうね、アソン以外は!」と冗談めかすと、アソンが「おいおい、これからが解説で俺が頑張る番だから」と扇をパチンと閉じる。そのやり取りを上目遣いで見守るピヨニットが、アソンの前に頭を差し出す。セバスが「そしてサポートの一言を。お嬢様、ピヨニットさんにご褒美がまだですよ」と言うと、アソンが「そうだったそうだった。済んだら説明な!」とピヨニットの頭を猫可愛がりする。

リルが「いいなぁいいなぁ、ピヨニットちゃんいいなぁ」と流し目で言うので、丘菟も「仕方ないな」とリルの頭を人撫でし始めると、リルは満面の笑顔だ。セバスは「微笑ましいですなぁ」と呟き、いつものキリッとした表情が消え、陽だまりで日向ぼっこするおじいちゃんのようになる。アソンが「じゃあ、説明開始よ」と扇を膝に置き、「ここはチュートリアル専用のフィールドで、パーティーを組まない限りはそのユーザーとAIだけに個別で用意されたマップなの」と切り出す。丘菟が「個別マップ?」と首をかしげると、リルが「うん、ママが言ってた!他の人は入れないし、私達だけの場所なんだよ!」と補足する。

ピヨニットが「だから、他のユーザーがいないのに角兎が51200匹も倒されてたんです。丘菟様がここで毎日狩ってた数も含まれてるんですよ」と付け加える。丘菟が「なるほど、僕が倒した分がカウントされてたのか」と納得する。アソンが「そうよ。通常だと武器の練習やAIとの戦略の組み立ての練習に使う場所なの。ドロップしたアイテムを次のフィールドが開放された時に売却して、物を買う為に集めるのが目的だったりするわ」と続ける。セバスが「さらに言えば、このフィールドでは武器も防具も損傷せず、不壊でございます。お嬢様達が安心して戦えたのもその恩恵ですな」と説明する。

丘菟が「不壊か。それで剣や盾が壊れなかったんだな」と頷きつつ、「でも、日中で夜にならないのは知ってたよ」と笑う。アソンが「ふふ、そこは気づいてたのね。でも、他にも細かいルールがあるから、質問があれば聞いてちょうだい」と言う。丘菟は「じゃあ、ビックラビットはどうして出てきたんだ?カウントがリセットされたってことは、何か条件があったんだろ?」と聞く。リルが「うん、ママが前に言ってたよ!カウントが一定数超えると、レアモンスターがポップする仕組みなんだって!」と答える。ピヨニットが「51200匹がそのラインだったみたいですね。お嬢様と丘菟様の活躍で超えたんです!」と耳をピクピクさせる。

アソンが「まぁ、私の美貌が引き寄せたってのもあるけどね。で、次はどうする?チュートリアルは終わりだけど、このまま次のフィールドに行くか、もう少しここで遊ぶか」と扇を手に持つ。丘菟が「ちょっと待て、まだ頭整理しきれなくてさ。個別マップで不壊で、カウントがレアモンスターに関係してるってことは、僕らがここで何をしても他のユーザーには影響ないってこと?」と確認する。セバスが「その通りでございます。丘菟様がどのように楽しもうと、このマップは貴方様だけのものです」と微笑む。アソンが「だから、丘菟がゲーム初心者でも放っといたのよ。失敗しても大丈夫だしね」と笑う。丘菟は「なるほどな…でも、なんか勿体ない気がしてきた。せっかくならもっと戦略練って遊びたいな」と呟く。話はまだまとまらず、一同はレジャーシートで語らいを続ける。


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