4話 遅れて来た女(中身は漢)

丘菟は息を整え、ボーンウォーリアーとボーンマジシャンを倒したばかりの遺跡の部屋で剣を下ろす。額の汗を拭い、水晶の淡い光を見つめる。次の試練が来るかと身構える中、突然、聞き慣れたメロディーが耳に飛び込んでくる。丘菟が好きな3分間で料理を完結させる番組のテーマソングだ。「ピロピロピロ~♪」と軽快な音が響き、丘菟は一瞬目を丸くする。「えっ、何!?」と呟くと、リルが「丘菟、どうしたの?」と首をかしげる。丘菟は革鎧の腕に嵌めた端末を見やり、「ああ、現実の外部端末と同期してるからだ。ボイスチャットみたい」と説明する。ワールド内で知っているのはガルドかアソンしかいない。アソンが新アバター調整でログインしていないと言っていたが、「まあ、アソンだろうな」と推測し、通話を受け入れる。

「もーしもーし、アタシアソンよ!」と、高飛車なお嬢様口調の女性の声が耳元に響く。丘菟は「やっぱりそうか」と苦笑し、「どう、アバター作り終えたのかな?」と返す。アソンが「なんだよ、おどろいてよ?普通だと驚くでしょ!」と少し拗ねたように言う。丘菟は「いやいや、最初から似せて作り直すって言ってたんだから、それで音声だけ男性だったら逆に怖いでしょ?」と冷静に返す。アソンが「なんだよなんだよ、元男性の整形美女って感じで、ゲームの中まで変な設定にするかもしれないじゃん!」と勢いよく反論する。丘菟は見えないのに顎に指を当て、「まあ確かに、君ならその可能性もあるか…」と納得しかける。現実のアソンは背が高く短髪の男だが、妙なこだわりを持つ奴だ。

アソンが「さてさて、ログインしたのは伝わったし、落ち合うぜ。完成したばっかりだから、まあ平原の安全地帯なんだけどね」と提案する。丘菟は「了解したよ。今は遺跡の中だから、10分ほど角兎と戯れて待っててくれる?」と返す。アソンが「はいはーい、ちょっと大っきい兎さんが来るまで兎ちゃんと戯れてるよ!」と軽快に答え、そのまま通話が終了する。丘菟は剣を鞘に収め、リルに振り返る。「リル、前は男だったけど女性になったアソンが待ってるから、入り口へ出て平原に戻ろう」と言う。リルが「なになに??男の子が女の子??」と目をぱちくりさせ、理解しきれていない様子だ。丘菟は「まあ、後で分かるよ」と笑い、足早に通路を戻り始める。リルが「うーん、よく分かんないけど!」と首をかしげつつ、小走りでついてくる。

遺跡の石造りの通路を抜けると、星空の下に浮島の入口が広がる。丘菟は端末を操作し、「トランジット!」と唱える。光の粒子が二人を包み、次の瞬間、エアルーン平原の安全地帯に降り立つ。風がマントを軽く揺らし、遠くで草がざわめく音が聞こえる。丘菟は周囲を見回し、アソンの姿を探す。すると、草原の中央に立つ人影が見える。背が高く、華やかなドレスを纏った女性アバターだ。長い金髪が風に流れ、腰に手を当てたポーズが妙に自信満々に見える。「おおーい、丘菟!こっちよ!」とアソンの声が響く。お嬢様口調だが、確かにアソンの癖が混じる。丘菟は近づき、「おお、完成度高いな」と感心する。

リルが「ええっ、この人がアソンなの!?」と驚き、丘菟が「そうだよ。現実じゃ男なんだけど、ゲームで女アバターにしたんだ」と説明する。アソンが「ふふん、アタシの美貌に驚いたかしら?」とドヤ顔で言うが、丘菟は「いや、驚くより納得の方が強いかな」と笑う。アソンが「なんだよそれ!もっと感動してよ!」と膨れるが、リルが「でも、すっごく綺麗だね!」と純粋に褒めると、アソンは「ほほっ、やっと分かる子が来たわね!」と満足げだ。丘菟は「さて、アソンも来たし、次は何しようか?」と提案する。アソンが「アタシ、角兎と戯れてたけど、ちょっと大きいのが出てきてさ。3人で倒しちゃう?」と目を輝かせる。丘菟は剣を手に、「いいね。リル、準備は?」と聞くと、リルが「うん、いつでも!」とタクトワンドを構える。平原に新たな冒険の風が吹き始めた。アソンは「ちょっと大きい兎さん」と丘菟のことも兼ねて言っていたのだが、どうやら平原でレアモンスターを引き当てたようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る