2話 浮島の遺跡1度目の解放
丘菟は前回行った遺跡のある浮島の入口に立ち、目の前の苔むした石碑を見つめる。星明かりの下、石碑に刻まれた文字がかすかに光を放ち、古代の魔法のような雰囲気を漂わせている。リルが隣でタクトワンドをくるりと回し、「ねえ、丘菟。この石碑、前回はただの飾りかと思ったけど、何かありそうだよね?」と目を輝かせる。丘菟は剣を腰に下ろし、「そうだな。『トランジット・コア』に関係あるかもしれない」と呟き、石碑に近づく。表面は冷たく、指先で触れると微かな振動が伝わってくる。文字をよく見ると、古代語のような模様が浮かび上がり、丘菟の頭に直接響くように意味が流れ込む。「試練に打ち勝ちし者、ここに触れ、隔絶せし空間を解除せよ」と。
丘菟は一瞬目を閉じ、深呼吸をする。ゲームとはいえ、この世界のリアルさが胸を高鳴らせる。「よし、やってみるか」と呟き、石碑に両手を置く。リルが「何!?何かするの?」と慌てて言うが、丘菟は構わず声を張り上げる。「試練に打ち勝ちし者、ここに触れ、隔絶せし空間を解除せよ!」と中二っぽく詠唱する。言葉が浮島の空気に溶け込むと、一拍の静寂が訪れる。丘菟は「…何も起こらないのか?」と首をかしげかけるが、次の瞬間、低い「ヴゥゥン」という音が足元から響き始めた。ソナーのような、水面に波紋が広がるような空気の振動だ。遺跡を中心に、外へ外へと広がり、5回連続で「ヴゥゥン、ヴゥゥン、ヴゥゥン、ヴゥゥン、ヴゥゥン」と鳴り響く。
その衝撃が丘菟のお腹の辺りに「ズシン」と重く響き、思わず「うっ」と小さく声を漏らす。剣を支えに膝をつきそうになるが、何とか踏ん張る。リルが目を丸くして「うぁー!遺跡の周りに合った膜みたいなのが無くなったね!」と叫ぶ。丘菟は息を整えつつ、「え?そんなのあったの??」と驚く。リルが「うん!前回は丘菟が試練クリアしたから気づかなかったみたいだけど、遺跡の周りに透明な膜があって、他のプレイヤーは入れなかったんだよ!」とドヤ顔で説明する。丘菟は目を瞬かせ、「いや、前回はそのまま入ったし、出たらそのままログアウトしたから知らなかったよ」と返す。リルが「まあ、そういう仕様なんだね。試練クリアした人しか入れない特別なエリアだったみたい!」と笑う。
丘菟は立ち上がり、石碑を見上げる。振動が収まり、遺跡全体が微かに光を帯びている気がする。「隔絶せし空間ってことは、この遺跡、隠された何かがあるってことか?」と呟くと、リルが「そうそう!トランジット・コアに繋がるヒントじゃないかな?」と興奮気味に言う。丘菟は剣を手に持ち直し、「じゃあ、中に入ってみよう」と遺跡の入口へ足を踏み入れる。石造りの通路は前回と変わらず薄暗く、足音がコツコツと響く。だが、前回とはどこか空気が違う。リルが「ねえ、丘菟。なんか雰囲気変わったよね?」と囁く。丘菟は頷き、「うん、試練を解除したからかな。新しい仕掛けがあるかもしれない」と警戒しながら進む。
通路の奥に差し掛かると、前回はなかった小さな部屋が現れる。中央には浮かぶ水晶のような物体があり、淡い青光を放っている。丘菟が近づくと、水晶から微かな音が聞こえ、リルが「これ、トランジット・コアじゃない!?」と声を上げる。丘菟は「まだ分からないよ。触ってみるか?」と手を伸ばしかけるが、リルが「待って!何か罠があるかも!」と慌てて止める。丘菟は苦笑し、「そうだな。慎重にいこう」と周囲を見回す。水晶の周りには細かい紋様が刻まれた円形の台座があり、触れると何かが起動しそうな予感がする。リルが「丘菟、こういうのってさ、試練の続きだったりするよね?」と首をかしげる。丘菟は「かもな。前回のストーンガーディアンみたいに、何か出てくるかもしれない」と剣を構える。
その時、水晶が一瞬強く光り、低い唸り声のような音が部屋に響く。丘菟とリルは一斉に身構え、通路の奥から足音が近づいてくる。影が揺れ、金属の擦れる音が聞こえる。リルが「丘菟、来たよ!」とタクトワンドを握り直す。丘菟は「よし、リル。準備しろ」と低い声で言い、剣を前に突き出す。浮島の遺跡が再び試練を仕掛けてきたのだ。
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