11話 風呂と夕飯、母からの電話

 現実に戻った僕は、まず風呂の準備を始める。


 浴室の蛇口をひねり、湯船に温かいお湯を張る。水音が静かな家に響き、少しだけ心が落ち着く。


 次に台所へ向かい、豚肉の生姜焼き、サラダ、味噌汁、ご飯を用意する。


 冷蔵庫から豚肉とキャベツを取り出し、まな板に置く。生姜をすりおろすと、鋭い香りが鼻をくすぐり、フライパンに油が跳ねる音が響く。


 両親が転勤で不在の家は静かで、料理の音だけが空間を埋める。


 テレビをつけると、ニュースキャスターの声が流れ、海外の天気予報が画面に映る。テーブルに料理を並べ、箸を手に持つ。


 一口食べると、生姜の辛さが舌に広がり、少し疲れた体に染みる。


 食事が終わり、ソファに少し横になると、ゲームでの出来事が頭をよぎる。


 浮島の風、ガルドの大剣、リルの魔法。食休みの後、お風呂へ向かう。


 温かい湯に浸かると、「今日は初めてフィールド以外の遺跡に行ったなぁ」と呟き、頬が緩む。


 湯気が立ち上り、体の緊張が解ける。その時、スマホが鳴り、画面に母の名前が表示された。


 父の転勤に付き添う彼女からの電話だ。「新学期になったけど大丈夫?」と心配そうな声。


「いつも通りだよ」


 と答え、湯船の縁に肘をつく。「お風呂中だから切るね」と言うと、母が「あ、待ちなさいまだ…」と慌てる声が聞こえたが、僕は笑って通話を切った。


 湯気の中で、ゲームと現実の繋がりに少しだけ幸せを感じる。


 ガルドやリルとの時間が、現実の孤独を和らげてくれる。


 風呂から上がると、バスタオルで体を拭き髪も軽く水気を取ると別の小さめのタオルを頭に巻いて、部屋に戻る。


 静かな家に春の風が流れ込み、カーテンが揺れる。


 ベッドに腰掛け、髪をドライヤーで乾かすとヘッドギアを手に持つ。


 明日もあの世界に戻れると思うと、心が軽くなる。


 この日常とゲームのバランスが、僕を支えているのかもしれない。


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