10話 ログアウト、フレンド登録

 浮島の風が静まり、ふと気づくとログインしてから数時間経っていた。


 空の色が夕暮れに近づき、水晶の光が柔らかくなっている。


「そろそろ食事の準備しないと」と呟き、僕は皆に目を向ける。


「リル、フィア、ガルド、今日は楽しかったよ。ありがとう」と言うと、リルが「またね!」と手を振る。


 桜色のワンレンロングが揺れ、ウィッチ帽子が軽く傾く。


 ガルドに目を向け、「良かったらフレンドになってくれないか?」と頼む。


 彼は狼耳をピクリと動かし、白銀髪を掻きながら照れくさそうに笑う。


「俺、ここで初心者待つことが多いけど、それでいいならな」と返す。


「全然いいよ」と僕が頷くと、互いにフレンド登録を済ませる。


 視界に「ガルド:フレンド追加完了」と表示され、安心感が広がる。


 それを見ていたリルとフィアが「良かったね!」とハイタッチを交わし、桜色の髪と虹色の羽根が揺れる。


 フィアが「これでまた一緒に遊べるね!」と笑い、緑のドレスが風に翻る。


 ガルドが「次はお前がリーダーやってみろよ」と冗談めかして言う。


 僕は「考えておく」と笑う。


「皆、ありがとう。また会おうね」と言い、遺跡の出口へ向かう。


 剣を鞘に収め、革鎧の擦れ音が心地よい。「ログアウト」と呟くと、光が視界を包み、現実の部屋に戻った。


 ヘッドギアを外し、静かな部屋に春の風がカーテンを揺らす。


 胸に残る温かさを感じながら、僕は階段を降り2階の自室から台所へ向かった。


 冷蔵庫を開け、豚肉と野菜を取り出す。


 ゲーム内の自分が、現実の僕に少しだけ元気を与えてくれる。


 鍋に油を敷き、生姜の香りが漂う中、今日の冒険を振り返る。


 ガルドの頼もしさ、リルの明るさ、フィアの賑やかさが頭に浮かぶ。


 現実では両親が不在で静かな家だけど、この時間があれば大丈夫だ。


 フライパンを手に持つと、ゲームでの仲間との絆が、現実の孤独を埋めてくれる気がした。


 夕飯の準備を進めながら、明日またログインしようと心に決める。


 この世界が、僕にとっての居場所だ。


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