4話 第三の試練(絆を示せ)

 広間の奥に別のプレイヤーの姿が見えた。


 薄暗い空間に立つその男は、獣人族型のアバターだ。


 白銀色の髪が肩まで伸び、狼のような耳がピクリと動く。ふさふさの尾が背後で揺れ、前髪は眉毛辺りまで、後ろ髪は刈り上げ気味に短く整えられている。


 左目の上から頬近くまで傷跡が走り、鋭い眼光がこちらを捉える。


 アイアンメイルの鎧を纏い、肩に担がれた大剣が鈍く光る。20代後半の貫禄ある姿だ。


 僕は革鎧の軽さを意識しながら近づく。


「お前、初心者か?」


 と彼が低い声で尋ね、僕は頷いた。


「俺はガルド。一人でここまで来るとはな」


 と彼が笑う。傷跡のある顔が少し柔らかくなり、白銀髪が揺れる。


 リルが「丘菟、強いんだから!」とフォローし、桜色のワンレンロングが肩に掛かる。ウィッチ帽子が揺れ、タクトワンドを手に持つ姿は魔法使いらしい。


 ガルドは僕の装備を見下ろし、「軽快な装備だな。片手剣と盾か。次は協力しないと無理だぞ」と言った。


 視線が水晶の方へ移り、「第三の試練:絆を示せ」と表示される。


 台座に近づくと、彼が大剣を肩から下ろし、「やってみるか?」と提案する。


 僕は剣を握り直し、円盾を軽く上げて「やるか?」と返す。


 ガルドが頷き、リルが後ろでタクトワンドを握り締めた。


 僕とガルドは同時に台座に手を置く。瞬間、光が広がり、広間の奥に巨大な扉が現れた。


 石の表面に刻まれた模様が浮かび上がり、重々しい音と共に開く。


 ガルドが「行くぞ」と呟き、大剣を構える。アイアンメイルがカチャリと鳴り、狼耳が風に反応して動く。


 僕は剣と盾を構え直し、リルの「気をつけてね!」という声に小さく頷く。


 扉の向こうから冷たい風が吹き込み、革鎧が体に馴染む感覚が頼もしい。


 この世界では、現実の弱さは関係ない。


 ガルドの背中を見ながら、僕は一歩踏み出した。


 仲間との連携が試される試練に、胸が少し高鳴る。リルの魔法とガルドの力、そして僕の装備がどう噛み合うのか。


 現実では味わえない緊張感と期待が混じり合う。


 ガルドが振り返り、「お前、悪くないな」と笑う。傷跡が刻まれた顔に親しみが滲む。


 僕も小さく笑い、「よろしく」と答えた。


 扉の先へ進む足音が、広間に静かに響いた。


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