第16話 父の思い出 その2
父が疑い深かったり、頑固だったりするのは、幼い頃からの我慢する生活が影響していたんだろうなと私は思います。
祖父の実家を信じて引き揚げて来たのに厄介者扱いされ、養父の家では義兄弟との軋轢、進路についても我慢をさせられて、色んな嫌な事をグッと堪えて生きて来たのだと。
なので、父は怒りを感じた時も大声で怒鳴ったりは決してしませんでした。その代わり、奥歯を噛み締めながら拳をギュッと握るのです、らそうするとコメカミがぴくぴく動いて指がパキッと鳴るのです。
(あ、お父さん怒ってる…)と、ヒヤヒヤしたものです。
私は一度だけ父から叱られた事があります。四歳くらいでしたか、何が原因だったかは忘れてしまいましたが、滅多に叱らない父に叱られて私は癇癪を起こし、足をばたつかせました。その時床には私の大好きな絵本のソノシートが置いてあったのですが、それを足で蹴ってしまい、ソノシートに傷がついてしまいました。気を取り直してプレイヤーにかけてみると、あろうことか物語の一番大切な場面、カエルの王様の呪いが解かれ、美しい王子様に変身する場面が台無しになっていたのです。私は悲しくてわんわん泣いてしまいました。
ああ癇癪を起こすといい事ないな…と、幼心に反省したものです。
父はひょうきんな一面もあり、音楽に合わせて変な踊りをしたり、若い頃の面白い話をしてくれたり、楽しいお父さんでした。
また、会社帰りに飲みに行くと必ず三色団子や酒饅頭や月餅などをお土産に持って帰りました。
普段は八時になると子供達を部屋に追いやり「寝なさい!」と厳しい母も、そんな時は寝ている(本当は寝ていない)私達を呼んでお土産を食べさせてくれました。もちろん歯磨きはもう一度。
あとこんなエピソードも。
ある日の夕飯はハンバーグで、母はケチャップとウスターソースを合わせて作ったソースをコーヒーカップに入れていました。夜遅く残業から帰った父は、テーブルの上のコーヒーを見て、てっきり母が入れてくれたコーヒーだと思い…
次の朝、母から話を聞いて兄も私も大笑い。
父も自分でゲラゲラ笑っていました。
父と友人との会社は、なかなか軌道に乗らず、それどころか聞いていた話と全然異なり給料も遅配に。
貯金を取り崩す生活となり、ついに父は彼と決別する事を決めます。大きなお金を出資していましたが、母からの「そんなお金はどうでもいいから、二度と関わり合いにならないように!」と進言され、気持ちが決まったそうです。
しかし、その友人の関係から知り合いになった会計士さんの紹介で、父が定年まで勤めた会社に行く事になるのでした。
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しょうが @k-yumi
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