第11話 両親の歴史 〈結婚〉
こうして父と母は目出たく結婚の日を迎えた訳ですが、結婚式は午後からであったと母から聞きました。そして当日午前中、母は店先に立っていたそうで…
買い物に来た近所のお客さんが母を見てびっくりして、
「あら?あなた、今日は結婚式じゃなかった???」
と尋ねると、
「はーい、後からいきまーす」
と、ニコニコしながら返事したとか。
結婚式当日に仕事してる新婦って、ちょっと珍しいですよね?私もその話を聞いた時お腹を抱えて笑いました。
その後お風呂に入って直ぐに式場まで駆けつけたのでお肌が火照ったままで。
「こんなお肌の状態だとお化粧が乗らない…」
と、美容師さんを悩ませたとか。
祖母が誂えた大振り袖に角隠し。にっこり笑った母の花嫁姿はそれは美しく、緊張している父のきりりとした表情と相まって、二人の結婚写真はとても素敵な写真です。子供の頃から何度も引っ張り出しては眺めたものです。
母が1人で写っている斜め横顔の写真はまるで女優さんで、長い事写真館のウインドウにディスプレイされていたとか。母の自慢の写真です。
母は生家で働いている間、祖父からは一度もお給料は出なかったらしいですが、婚礼ダンスは当時の最新モデル。洗濯機・冷蔵庫・テレビ・扇風機なども揃えて祖父がポンっと買ってくれたそうです。そして婚礼道具を運ぶ為に父の取引き先がトラックを手配してくれたのですが、いかんせん建設関係の会社だったので凄く大きなトラックが来てしまい、荷物は前の方にチョコンと乗った感じで「なんかかっこ悪かったぁ…」と、母は良く笑っていました。
結婚式当日は冬だったので気温が低くく、母は着物だったので寒くなかったそうですが、燕尾服の父はかなり寒かったらしく、三々九度の盃に巫女さんが御神酒を注いでくださるときに、心の中で、
「寒い、寒い、もっと注げ、注いでくれ〜!!」
と叫んでいたと。
そんなこんなで二人は目出たく夫婦となりました。
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