第三十七話 崩壊する実験場

■ 目覚める人工妖精

 施設全体に警報が鳴り響き、壁のライトが赤く点滅し始めた。

 ウィーン! ウィーン!


 隼人たちは警戒しながら、中央に浮かぶ人工ブラックダイヤモンドの妖精を見つめた。

 ダイヤモンドと同じ大きさの人工鉱石の中から現れたその存在は、ノワールやルミエと酷似しているが、どこか不安定な輝きを放っていた。


 「ワレハ……。」

 低く響く声。


 ノワールとルミエがじっと見つめる。


 「……ダイジョウブ……?」

 ルミエが静かに問いかけた。


 しかし——


 その瞬間、人工妖精の体から強烈な衝撃波が放たれた。


 ドンッ!


 「くっ……!」

 隼人たちは衝撃波に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


 人工妖精が暴走を始めたのだ。


■ 制御不能の存在

 鳴海博士は端末を操作しながら、驚愕の表情を浮かべた。


 「……こんなはずではない……! 完全制御できるはずだったのに……!」


 カロンが鋭く言う。

 「お前らの“完全制御”が、そもそも間違っていたんだよ。」


 人工妖精は、視線をゆっくりと博士へ向けた。


 「オマエハ……ナンダ?」


 博士が端末を操作する。

 「……制御プログラムを再起動する! 私の指示に従え!」


 だが、人工妖精は動かなかった。

 むしろ、さらに強い輝きを放つ。


 「ワレハ……。」


 その瞬間——


 人工妖精のエネルギーが暴走し、周囲の機械を次々に破壊し始めた。


 バキィィン!


 美咲が端末を確認し、叫ぶ。

 「施設のシステムが完全に崩壊する! 早く脱出しないと!」


■ 施設の崩壊

 天井が崩れ、巨大な金属片が落下する。

 本田が急いで駆け寄り、隼人を引き起こした。


 「おい、ボサッとしてる場合じゃねぇぞ!」


 カロンが冷静に状況を分析する。

 「このままだと、施設ごと海に沈む。早く脱出経路を探せ!」


 鳴海博士は端末を操作し続けるが、焦りの色が隠せない。

 「……制御が……。ダメだ、このままでは——!」


 その時、人工妖精が再び輝きを放つ。


 「ワレハ……。」


 ルミエが不安そうにノワールを見つめる。

 「ノワール……。」


 ノワールも鋭い視線を人工妖精へ向けた。


 「オマエハ……ナンダ?」


 人工妖精は、ノワールとルミエをじっと見つめる。


 「……ワカラナイ。」


 隼人が、ふとその言葉に違和感を覚えた。

 「……“分からない”?」


■ 造られた存在の葛藤

 人工妖精は、力を暴走させながらも、どこか迷っているように見えた。


 「ワレハ……ナゼ、ウマレタ?」


 ノワールが静かに近づく。

 「……オマエハ、イキテル……?」


 ルミエもそっと前に出る。

 「ココロ……アル?」


 人工妖精の輝きが、一瞬だけ弱まった。

 「……ココロ?」


 博士が苛立ったように叫ぶ。

 「馬鹿な! こいつは感情を持たないはずだ!」


 カロンが静かに呟く。

 「違うな。こいつは……自分が何者なのか、迷ってるんだ。」


 ノワールとルミエが、そっと手を差し伸べる。


 「……オマエモ、ワタシタチノナカマ?」


 人工妖精の瞳が揺れる。

 だが、その瞬間——


■ 最後の選択

 施設の崩壊が限界を迎えた。

 隼人たちは急いで脱出経路を探す。

 しかし、人工妖精はその場に留まり、考え込んでいた。


 「ワレハ……ナニモノ……?」


 本田が叫ぶ。

 「おい、ボサッとしてる暇はねぇぞ!」


 博士が端末を睨みつけ、叫ぶ。

 「制御できないなら、せめてデータを持ち帰る!」


 美咲が警戒する。

 「博士、何をする気!?」


 博士は隼人たちを睨みつけた。

 「君たちのせいで、計画が台無しになった……!」


 ドンッ!


 博士は端末を操作し、施設の爆破装置を作動させた。


 「……全てを無に帰すしかない。」


 隼人が叫ぶ。

 「お前……!」


 カウントダウンが始まる。


 ——30秒。


 人工妖精は、ノワールとルミエをじっと見つめた。


 「……ワレハ……。」


 ノワールとルミエが同時に言う。

 「オマエハ……ナニヲシタイ?」


 人工妖精は、一瞬だけ考えた。


 そして——


 「ワレハ……オマエタチヲ、マモル。」


■ 崩壊と覚醒

 人工妖精の体が眩く輝く。


 博士が驚愕する。

 「何をする気だ!?」


 隼人が叫ぶ。

 「お前、まさか……!」


 人工妖精は、全てのエネルギーを集中させた。


 「ワレハ……オマエタチニ、チカラヲアズケル。」


 ノワールとルミエが光に包まれる。


 ——5秒。


 博士が焦る。

 「待て、やめろ!!」


 ——0秒。


 次の瞬間——


 施設が爆発した。

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