第三十六話 第二のブラックダイヤモンド

■ 崩れ落ちる先

 ドンッ!

 隼人たちは落下しながら、各々が必死に身を守る体勢を取った。


 本田が咄嗟に壁を蹴って衝撃を和らげる。

 カロンも冷静に落下地点を探し、無理なく着地した。


 隼人はルミエを抱えながら、ノワールと共に降下する。

 光る二つの妖精が、まるで導くように彼を支えた。


 そして——

 重く湿った空気が広がる暗闇の中、隼人たちは無事に着地した。


 そこは、巨大な地下施設だった。


■ 第二のブラックダイヤモンド

 目の前に広がるのは、高い天井と壁一面に張り巡らされたケーブル群。

 中心には、黒く輝く巨大な結晶が鎮座していた。


 人工ブラックダイヤモンド——第二の封印。


 ノワールとルミエが、一瞬にしてその存在を察知する。

 「……ナニカ……イル……?」


 ルミエの光が、周囲を照らす。

 すると——


 結晶の内部に、人の影が揺らめいていた。


 「……妖精……?」

 美咲が呟いた。


 鳴海博士がゆっくりと降下エレベーターから現れ、静かに言う。

 「そうだ。これは、お前たちが知るブラックダイヤモンドとは異なる。」


 本田が舌打ちする。

 「てめえら……まさか、人間の手で妖精を作ろうってのか?」


 博士は淡々と答える。

 「厳密には、“生み出した”と言うべきだな。」


 隼人は目の前のブラックダイヤモンドの大きさを改めて確認した。

 それは、ルミエのいたダイヤモンドと同じくらいのサイズだった。

 手のひらよりも少し大きい程度——自然界に存在するにはあり得ないほど整った形状をしていた。


■ 研究の目的

 博士は冷静に続けた。

 「政府は、妖精の進化を恐れた。しかし、我々は違う。我々は“進化を制御する”方法を求めたのだ。」


 カロンが低い声で言う。

 「だから、人工の妖精を作ろうとした……?」


 博士は頷く。

 「妖精は鉱石の中で長い時間をかけて進化する。ならば、それを短縮し、意図的に生み出せば、人類はその力を自在に扱える。」


 隼人は強く言う。

 「そんなこと、許されるわけがない!」


 博士は肩をすくめた。

 「君たちは、妖精の力を“未知の存在”として崇めているのかもしれない。だが、それは非科学的な思考だ。」


 博士は第二のブラックダイヤモンドを指さす。

 「これは、科学の結晶だ。進化の理を掌握し、完全に制御できる存在。」


 ノワールが不安そうにルミエの手を握る。

 「……チガウ……。」


 ルミエも、わずかに震えながら首を振った。

 「コレハ……ワタシタチト、チガウ……。」


■ 目覚める人工妖精

 突然、施設全体が震えた。


 「!?」


 ブラックダイヤモンドの中にいた影が、ゆっくりと動き始める。

 それはまるで、生まれたばかりの意識が覚醒するように——


 人工妖精が目を開けた。


 ノワールとルミエが強く反応する。

 「……ナンダ……?」

 「コノカンジ……。」


 博士が微笑む。

 「第二の妖精が目覚めた。それは、自然発生したものではない。“意図的に造られた存在”だ。」


 ブラックダイヤモンドの表面がひび割れ、内部から黒く輝く光が溢れ出す。


 「……ワレ……ハ……?」


 低く響く声。

 それは、どこか不安定で、ノワールやルミエとは違う違和感があった。


 博士が命令するように言う。

 「お前は、我々に従う存在だ。」


 しかし——


 その言葉に、妖精は反応しなかった。


■ 造られた存在の葛藤

 人工妖精は、ゆっくりと周囲を見渡す。

 その瞳には、ノワールやルミエとは異なる冷たい光が宿っていた。


 「ワレハ……ナゼ……ココニ?」


 博士は微かに眉をひそめた。

 「……予定と違うな。意識の形成が完全ではないのか?」


 美咲が素早く端末を操作する。

 「博士、あなたたちは……完全に制御できると思ってた?」


 博士は無言だった。


 「……失敗したんだな。」

 カロンが静かに言った。


 人工妖精は、その場に漂うノワールとルミエを見つめた。

 「……オマエタチ……?」


 ノワールが、ゆっくりと前に進む。

 「……ワタシタチ……ト……チガウ……?」


 人工妖精は少しの間考えた後、低く呟いた。

 「ワカラナイ……。」


■ 戦いの火蓋

 博士は端末を操作し、施設内に警報を鳴らした。


 「第二のブラックダイヤモンドが制御不能なら、全てリセットするしかない。」


 カロンが警戒する。

 「……爆破するつもりか。」


 美咲が端末を確認する。

 「施設全体がカウントダウンを開始した……!」


 博士が嘲笑するように言う。

 「君たちが来るのが遅すぎたのだよ。」


 その瞬間——


 人工妖精の目が、強く輝いた。


 「ワレハ……。」


 そして、暴走が始まった——。

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