12-3 二年生・一月(6)
その日は各々家に帰った後、夜遅くまで通話で作戦会議をした。あたしがイメージするラルヴァ崩壊のシナリオを伝え、麻路が噛み砕いて、健翔が具体的にしていく。ぐってり疲れた愛沙先輩は寝息係。すぅ、すぅ、すぅ……という小さな呼吸にめちゃくちゃ癒やされる。
「実際にサーバーを落とす段になれば大きな困難はない。兎褄のイメージ通りにことは進む。障害があればその都度対策を施せば良い。問題は事前準備……
健翔が言った。DDoS攻撃っていうのは、短時間で異常な回数のアクセスを繰り返して大量の通信量をぶちかまし、サーバーの機能を阻害するサイバー犯罪のことで、まあ、要するにあたしたちがラルヴァにやろうとしていることだ。アクセスしまくるってだけの単純な手法だけど、過去にはこの攻撃のせいで主要なサーバーが完璧にぶっ壊れて、ウン億円とかいう損失の発生した事例もあるらしい。
「どんぐらいの人数必要なの?」
いずれにせよ、あたしたちだけでやるのは無謀で協力者が必要になる。それを確保するのはあたしの仕事だった。
「機械的にアクセスを繰り返すプログラムを組むとして二十台は欲しい」
「えっ、健翔、人のこと台って数えてんの。キショ……」
「いや、必要なデバイス……スマホの数だ。認識がズレただけだから引くな」
びっくりした。容赦なさすぎだろ、と思った。まあ、二十人はいたら嬉しいと。
「……ねえ、碧子の言った方法でそんな数、集まるの?」
麻路が不安そうに訊いてくる。まあ、確かに今の世曜高の環境で、二十人もラルヴァアンチを集めるなんて夢物語に響くかも知れない。でも、自信がある。あたしは通話でも聞こえるようの大げさにポンと胸を叩いて言った。
「大丈夫、あたしの見立ては絶対正しいし、ダメだったらラルヴァでボロクソ言われるだけだから。そん時は、別の方法考えればいいよ」
「はあ、あなたらしい──とにかく明日、頑張って」
この作戦は迅速に行う必要がある。何故なら、あたしと麻路が見せつけてきた関係を利用するものだからだ。現状あまりにもベストコンディションだから、この機運を逃すことはない。
「ん。……あー、なんか緊張してきたな」
「そうね。ここで上手くいかなければ何も始まらないから──」
「麻路とチュー、なんて」
しん、と通話部屋が静かになった。愛沙先輩のむにゃむにゃ寝言がよく聞こえてくる。
「……もう」
短く言って麻路は通話から抜けた。すげない態度にあたしはテンションが上がった。
「うわ、聞いた? 想像して照れてんの、可愛くない?」
「おれに振るな、マジで」
ぶっきらぼうに言って健翔も通話から落ちる。ちぇ、なんだこいつは。あたしは腹いせに、そのまま通話をつけっぱなしに眠ることで、実質的に愛沙先輩に添い寝してやった。
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