第9話 お客様
換金屋で金を3kg金貨375枚に換金する。
日本円にして450万円ほどになる。
それで、大工を頼んで、ベッドやチェストなどの家具を作ってもらう。
この辺りは二人のメイドに任せきりでいいだろう。
商業ギルドのテイラは仕事に戻った。
あとは、定期的な食材の配達を頼んでおく。
「そういえば、メイドさんのお揃いの服とかってないの?」
「えっ、どういう事でしょう?」
「こんな感じだよ。」
ハルは二人の視野にメイド服のイメージを送った。
「な、何でしょう、この衣装は!」
「ヒラヒラして、とても可愛いです!」
「ベースは汚れの目立たない黒で、白のエプロンで清潔感もあるだろ。」
「どうやって縫えば、こういうボリュームが出せるんですか?」
ハルは裁縫の様子を生成して動画で見せてやる。
「気分が変えたかったら、エプロンを薄い水色やピンクに変えればいいしさ。」
「ぬ、縫ってみたいです……でも、引っ越しのゴタゴタで裁縫道具を無くしてしまったみたいで……」
「裁縫道具?」
「先輩は、これまでミスリルの針を使っていたんですよね。早いし、丁寧だし、憧れているんです。」
「貯めてあったお給金を使って、ミスリルの針を作ってもらったんです。布の通りが全然違うので……」
「ああ。ミスリルは硬いから曲がらないし、裁縫にも使いやすいんだな。じゃ、屋敷に戻ったら作ってあげるよ。」
「えっ!」
「ミスリルならいっぱいあるから問題ないよ。」
「本当なら……嬉しいです。私、当分お給金は要りませんから!」
「道具を用意するのは雇い主として当然の事だよ。じゃ布と糸。それと塗料を買いに行こうか。」
「「はい!」」
寝具を含めて一通り買い物を済ませ、屋敷に戻ったハルは早速ミスリルの針を10本と、ステンレスで糸通しを作った。
「ほ、本当にミスリルの針です!凄い、10本も……これは、何の道具ですか?」
「糸通しだよ。針の穴に糸を通す道具なんだ。まず、穴に糸通しを突っ込んで、そこに糸を通して引き抜く。」
「!糸だと先が微妙にうねってますけど、これは安定してるから……なんて簡単なんでしょう!」
ついでなので、キッチン用品も作っておいた。
町で買い物をしていた時に、ゴムを見つけた。
樹液を採取したままのゴムなので、ネバネバしたままで使っている。
そして、硫黄も接着剤として販売されたいたのだ。
まずはキャスターのタイヤだ。
ゴムに硫黄を混ぜて形を整え、加熱して固定化する。
そして鍋の蓋だ。
更に、ステンレスの包丁、片手鍋、フライパン、ピーラー、泡だて器、計量スプーンに計量カップ。
「まさか、水の量と調味料を測って入れるなんて……」
「目分量が当たり前ですが、確かに測って入れれば、誰でも同じ味が再現できますよね。」
「あとは、メモとペンも置いておきますから、成功した料理は調味料を書き残しておくといいですよ。」
「私は食べられませんが、サキや皆さんで美味しい食事を楽しんでください。」
「まさか、メイドが自分たちが食べる事を目的にお料理するなんて……」
そして地下の本を読み進めるうちに、火力調整の方法を知って、魔道コンロを改造する。
弱火から強火まで、5段階で切り替え可能にしたのだ。
「信じられません!これなら一晩弱火で煮込むお料理も作れます!」
そして呪文の部分をミスリルをかぶせて隠す事も成功した。
ハルは別に気にしないのだが、真似されるから呪文は隠して欲しいとテイラから要望されたためだ。
そして、地下室の本には、ミスリルの加工法についても記述があった。
ミスリルは魔力を流しながら加熱すると、鉄と同じ1200度くらいで赤化するようだ。
ハルには影響のない事だが、この世界の住人にとっては大きな問題だ。
この性質がなければ、ミスリルの加工ができなくなってしまう。
本には古代語の単語が一覧になっているものもあった。
これを呪文の文法にあてはめて組み合わせれば、色々な事が可能になる。
こうなってくると、更に多くの鉱石が必要になってきた。
そのために必要なのは輸送手段だ。
ランドドラゴンを使役するか迷ったのだが、ハルは別の方法を考え付いた。
高出力のモーターは今持っている材料で作る事ができた。
それをキャリーの後輪に組み込んでギアをつけ、前輪にはハンドル機能を持たせる。
電源はハル自身だ。
コイル式のサスペンションをつければ簡易バギーの完成だ。
ウィーンというモーター音を発してバギーが動き出す。
町の外へ出て、山を目指す。
時速40kmで走れば、徒歩で2日かかる距離も1時間で到達できる。
山で鉄鉱石を採取し、体内で精製。ステンレスに加工して車体を拡張する。
同時に、車に電気炉を作って、製鉄の時間も効率化していった。
アルミで車のボディーを作り、精製した鉄や他の金属を荷台に積み込んでいく。
鉄・その他金属が約3トン。
金も100kg程採取できた。
帰りには遺跡に寄ってミスリルも1トン程積み込んで帰る。
運転席には、ハルを模したアルミの人形を乗せており、門番はそれで騙せた。
人形には山で仕留めたイノシシの皮で作ったフード付きのコートを着させてあり、顔全面を覆う仮面をつけている。
商業ギルドで発行してもらった、職人の身分証明書は効果絶大だった。
逆に驚いたのは家にいたサキやメイドたちだった。
「何ですかコレ!」
「……動く魔道具……かな。」
「何故、疑問形なのでしょう?」
「この説明で納得してもらえるか、少し不安だった。」
「ア、アタシも欲しい!」
「サキには動かせない。」
「だって、これならランドドラゴンだって、積んでこられそうじゃない。」
「可能だろうが、そんなものは運ばないぞ。」
ハルは持ち帰ったステンレスで、高さ1.5m幅90cmの箱を作った。
中は仕切り板で4段に分け、一番上にマイナス10度の冷風を噴き出す魔道具を固定。
箱の手前は開閉式の戸をつけて、ゴムのパッキンで冷気が逃げないように塞いでおく。
箱の回りには多孔質の木の皮を張り付けてその外側をアルミで覆う。
それをキッチンに据え付けて、メイドたちに使い方を説明する。
「一番上の段には、このアルミ容器に水を入れておくと氷になる。下の真ん中の段には、痛みやすい肉とかを入れて、一番下は野菜とか果物とかを入れておくといいよ。」
「下の段に入れてあるアルミのポットは、冷たいお水ですよね。」
「そういう事だね。」
「もしかして、そこに果汁とか入れておいたら、冷たくして飲めるんですか?」
「そういう事。ただ、果汁そのままだと飲みずらいから、水で薄めて砂糖を加えて飲みやすい配合を考えてごらん。」
「果汁を水で薄めるなんて、やっぱりご主人様の考える事は違います。」
「それで、この道具の名前は如何なさいますか?」
「冷蔵庫だよ。でも、もっと驚いてくれるかと思ったんだけど……」
「レーゾーコですね。承知いたしました。あまり驚いていないのは、王都の城には似たものがあるからです。氷は、毎日魔法師が数人がかりで作っているそうですけど。」
「そうなんだ。ちょっと残念。」
「いえ、先ほど動く魔道具というのを見せられて、感覚がマヒしているだけだと思います。」
「そうなんだ……。じゃ、こっちは小ネタだけど、シャーリー、これをかけてみてよ。」
ハルがシャーリーに渡したのは、レンズの入っていないメガネフレームだった。
アルミ製の明るめの茶色いフレームで、丸みを帯びた形状だった。
【あとがき】
自動車に冷蔵庫。
生活基盤を整えていくハルです。
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