第3話 採掘

「オークっていうのはイノシシの魔物なの。」


 サキの説明を聞きながら、ハルは触手を使ってオークを解体していく。

 鼻や耳などは確かにハルのデータにあるイノシシに似ていたが、手の指は4本で構造的にはサルに近い。

 骨格も完全に二足歩行に適応しており、イノシシから進化したとは思えなかった。

 サキは食用にモモと脇腹・背中の肉を外しているが、ハルに食事は必要ない。

 

「この辺りには、他にどんな魔物が出るんだ?」


「えっとね、ゴブリンとコボルト、あとは小型のトカゲ系や虫系が出るって聞いてるわ。」


 サキの思考から、大まかな特徴を確認する。

 ゴブリンは小鬼で、コボルトはオオカミ。トカゲは1m以下だが、四つ足のものと2足歩行の小型恐竜のようなものが出現するらしい。

 その程度なら大丈夫だろうとハルは判断した。


 そして、クロムやニッケル・鉄の鉱石を発見して、サキのナイフを作る。

 それぞれの鉱石から余分な成分を取り除き、体内の電気炉で合成してナイフの形状に成形する。

 仕上げは、チタン合金の触手をやすり上にして、回転させて刃を削りだす。

 ハルが作ったのは日本刀のような片刃の剣だ。


「これが、今の私が作れる最大サイズだ。大分重たくなるが、多少細身にしてある。」


「凄い!ちゃんと刃が立ってる!」


「強度的には今使っているナイフの倍以上になっているハズだ。振れるか?」


 サキがナイフを振ると、ヒュッ!と音がする。


「うわっ、風を斬る音がする。」


「刀身に掘った溝がこの音を出すんだ。人間はこの音が出た方が気分よく振れると記憶している。」


「うん。確かに気持ちいいよ。」


 これは、日本刀でいう樋という溝で、樋がなくても音は出るのだが、真っすぐ振れているかどうかも分かりやすくなる。


「少し待っていろ。」


 ハルは森へ走り、小枝を切り落として乾燥させ、鞘を作った。


「剝き出しだと危ないから、この中に入れて腰に刺しておけ。」


 ここからは、現れた魔物の足を使えなくして、サキに相手をさせる。

 

「生き物というのは、動くときに必ず予備動作が入る。」


「予備動作?」


「そうだ。右足で踏み出す時には左足に力が入る。四つ足なら、一瞬足を縮めるから身体が沈む。その僅かな動きを読み取って動けばいいんだ。」


「そんなのムリだよ!」


「訓練すれば出来るようになるさ。ちょっと目を瞑ってみろ。」


「えっ!まさかキス?」


「冗談よ。こうね。」


 ハルは内部に記録しておいた直前の戦闘シーンを再生してサキの視野に送った。


「なに、これ!」


「今の戦闘だ。ゆっくり再生するぞ。」


「えっ……」


「ほら、このコボルトは、飛びかかる前に後ろ脚に力を入れたのが分かるだろ。」


「えっ……、ホントだ。お尻が少し沈んだ!」


「そして、一度飛び上がってしまったら、空中で向きは変えられない。」


「た、確かにそうね。」


「だったら、相手が飛び上がった瞬間に横に避けて、相手が突っ込んでくる軌道上に武器を振れば、相手の勢いも加わって簡単に斬れるだろ。」


 ハルは再生画像に赤い線で補正して攻撃方法を示してやる。


「これ、ゆっくりだから分かるけど……」


 その後も、戦闘の後で、相手の筋肉の動きを解説して、行動が予測できた事を説明していく。

 こうして、サキは少しずつ経験を重ねていった。


 そして二人は川の源流付近で金塊とチタンを掘り出した。

 ハルはチタンを生成して、もう一振りナイフ……というか、知識の中では忍者刀だろう。それを形成してサキに与えた。


「何これ!軽いじゃない。」


「軽いから、左手でも扱えるだろう。」


「えっ!2本で戦うの?」


「状況に応じて使えばいい。虫みたいに、素早くて数が多い場合は軽い方がいいだろうし、オークみたいな重量級には重いほうが攻撃力があがる。」


「ナイフの2本使いなんて、カッコいいわね。練習してみる。」


「ナイフではなく、そのサイズだと忍者刀だな。私の世界ではそう呼んでいる。」


「ニンジャ……トウね。その呼び方も気に入ったわ。」


 ハルの体内炉で不純物を取り除いた金は、約6kgになった。

 日本での市場価値は1億以上になり、サキによればこの世界でも大貴族の屋敷が買えるんじゃないかとの事だ。

 当分、金に困る事はないだろう。


 そして、金を入手したその夜だった。

 サキが寝たため、ハルはデータの復旧に殆どの力を割いていて発見が遅れた。

 ハルの探知には何の反応もなかったのだが、ふいに現れた淡い光がレンズに映っている。


「サキ、起きてくれ。」


「う、うん、どうした……、えっ!

まさかファントムか!」


「ファントム?何だそれは?」


「悪霊だって言われているけど……」


「実体がないようだが、攻撃は効くのか?」


「いや、剣の攻撃は効かない。ダメだ逃げよう。」


 ハルはその光のような存在を、色々なフィルターで観察している。


「向こうの攻撃は?」


「衰弱やマヒなどの精神攻撃と、冷気系の魔法攻撃だと聞いたことがある。」


「魔法?」


「ああ、魔法だ。」


「私は色々と試してみたいから、サキは逃げていてくれ。」


 ハルのデータに魔法という単語はあったが、それは人間の創作でしかなかった。

 近づいてくるそれを様々な分析ツールで確認していく。

 光学的には波長200~400nm(ナノメートル)で、可視光の範囲がぼんやりと見えている程度なのだろう。

 他にも、音・温度等でも観測している。

 

 ファントムは短い波長の音を発していた。

 可聴域を超える超音波と呼ばれる帯域だ。

 具体的には5万Hz付近の周波数帯になる。


 ハルは試しに逆位相の音を作り出してファントムにぶつけてみた。

 音というのは波を描いて発生するしているのだが、逆の波を発生させる事で波が打ち消しあって消えてしまう。

 超音波が消えた事で、ファントムの動きが止まり、光が弱くなる。

 可視光部分が完全に消えているのだ。

 

 だが、紫外線部分の輝きが強くなり、その光がハルの方に伸びてくる。

 ハルが飛び退くと、その部分が白く凍り付いた。


 ハルにしてみれば理解不能の事象だったが、あくまでも現象として記録する。

 しかし、紫外線と超音波だけで存在できるとは考え難い。

 物質でなければ、何かしらのエネルギーが存在するハズである。

 さっきの紫外線の光が魔法だとするのなら、その元になる魔力とでもいうべきエネルギーが存在するハズである。


 だが、魔力(仮)はハルの感知外だった。

 そうだとすれば、魔力とは電気と同じような純粋エネルギーなのではないか。

 ただ、ハルには紫外線を視認できるため、対処できるものの、このファントムというのはどう始末したら良いのか。

 

 人間と違い、ハルのAIが悩むことはない。

 触手を使って色々な事を試している。

 熱も電気も効果がなかったのだが、赤外線は効果があった。

 赤外線を照射し続けたところ、徐々に紫外線の発光が弱まり、やがて消滅してしまった。


「ハルー、とうなった。」


 遠くからサキが叫ぶ。

 

「叫ぶ必要はない。この程度の距離ならばリンクが切れる事はない。ファントムはおそらく消滅した。戻ってきて大丈夫だ。」


 サキが走ってハルの元に戻った。


「ね、ねえ、どうやってファントムを倒したの?」


「ファントムは、多分魔力ってものを媒体にして悪意を持った光ってところかな。」


「なにそれ?」


「仮説だよ。そして、特殊な光をあてたらファントムは消滅した。」


「えっ、光で倒せたの!」


 こうして、ハルは魔物という存在に関するデータを積み上げていった。



【あとがき】

 魔力という特殊なエネルギーをどう料理してやろうか……

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