第二章:『翼の影を持つ番人たち』

 この不思議な三者を見守るのは、メイド長のセレステ・エターナルと執事のアリア・ヴォイドスピーカー。二人が何者であるかは誰も知らなかった。セレステの瞳は時に深海のように青く、時に炎のように赤く変わり、その姿は影のように部屋から部屋へと滑るように移動した。


 セレステは常に紺色のメイド服を身につけていたが、その生地は光の当たり方によって異なる色に見えた。彼女の髪は白く、まるで雪のようで、その長さは床まで届いていた。彼女が歩くとき、その髪は風もないのに揺れ、時に生き物のように動いた。


「我々は時の裂け目に棲む者たち」セレステはある夜、月の光に照らされながら告白した。その声は、多くの声が重なり合ったようであった。「私たちは裁きを待つ者なのか、それとも裁く者なのか、もはやわからない」


 彼女の言葉には常に謎が含まれており、リリアとオスカーはその真意をつかみかねていた。セレステは時に、誰もいない部屋で歌を歌っていることがあり、その歌声は屋敷全体に響き渡ったが、言葉は理解できなかった。それは人間の言語とは思えない、星々の間で交わされる会話のようだった。


 アリアは常に白い手袋をはめ、その指が何かに触れると、物体は一瞬だけ透明になり、別の色に戻った。彼の囁きは時に祝福のように、時に呪いのように聞こえた。彼の瞳の奥には、星々が生まれ、そして死んでいくのが見えた。


 アリアは黒い燕尾服を着ていたが、その背中には時折、翼の影のようなものが見えることがあった。彼の髪は短く、銀色で、常に整っていた。彼の肌は大理石のように白く、傷一つなかった。彼が食堂のテーブルを用意するとき、銀食器は彼の手の動きに合わせて自ら並んだ。彼がワインを注ぐとき、液体は彼の意思に従うように流れた。


「私たちは選択の余地なく、このような形で永遠を生きている」アリアはある朝、静かに言った。その声は、遠く離れた鐘の音のようだった。「自由と引き換えに得た永遠。それは祝福か、呪いか」


 セレステとアリアの正体について、屋敷の住人たちは様々な推測をしていた。堕ちた天使なのか、救われた悪魔なのか、あるいは全く別の存在なのか。二人は決して直接答えることはなかったが、時折、彼らの影が壁に映る時、翼のような形が見えることがあった。


 ある夜、リリアが屋敷の図書室で古い本を読んでいると、セレステが静かに彼女の隣に座った。


「リリア様、あなたはこの屋敷に来てからどれくらいの時が経ったと思いますか?」セレステは尋ねた。


 リリアは本から目を上げ、遠い目をした。


「わからない。千年? 万年? それとも、たった一日なのかもしれない」彼女は答えた。「時の感覚が、もう私の中では曖昧になっている」


 セレステは微笑んだ。その笑顔には哀しみが隠されていた。


「時間とは不思議なものですね。外の世界では一瞬でも、この屋敷の中では永遠になることもある。逆に、ここでの千年は、外では一瞬かもしれません」


「外の世界……」リリアは窓の外を見た。そこには常に靄がかかっており、丘の下の風景は曖昧だった。「今でも存在しているの?」


「存在しています。ただ、私たちとは別の時間の中で」セレステは答えた。


 その時、オスカーが図書室に入ってきた。彼の歩調は常に一定で、歯車の音が静かに響いていた。


「リリア、セレステ」彼は二人に頷いた。「何を話しているのかな?」


「時間について」リリアは答えた。「外の世界について」


 オスカーは窓際に歩み寄り、外を見た。


「僕は外の世界の記憶がない」彼は静かに言った。「僕はいつもこの屋敷の中にいた。少なくとも、僕の記憶の中では」


「記憶は必ずしも真実を映す鏡ではありません」今度はアリアが部屋に入り、言った。彼はどこからともなく現れ、三人の会話に加わった。「記憶は形作られ、書き換えられ、時には完全に消し去られることもあります」


 オスカーは自分の胸に手を当てた。そこでは歯車が規則正しく回り続けていた。


「僕の記憶は、このメカニズムの一部なのだろうか? それとも、もっと別の何か?」


 アリアは答えなかった。代わりに、彼は窓の外を指差した。


「見てください。今夜は特別な夜です」


 全員が窓の外を見ると、通常は靄に覆われている夜空が、驚くほど澄んでいることに気がついた。星々が無数に輝き、中でも一つの星が特に明るく光っていた。


「あれは……」リリアは息を飲んだ。


「そう、あれは『旅人の星』です」セレステが言った。「千年に一度だけ、あの星は地上の旅人を導くために現れます」


「誰かが、この屋敷に来るということ?」オスカーは尋ねた。


「来るかもしれないし、来ないかもしれない」アリアは微笑んだ。「それは星ではなく、旅人次第です」


 その夜、リリアは眠れなかった。彼女は屋根の上に登り、星空を見上げていた。旅人の星は依然として明るく輝いていた。


「誰か……来てほしい」彼女は星に向かって囁いた。「この永遠の繰り返しに、何か変化をもたらしてほしい」


 オスカーも自分の部屋で、窓から星を見ていた。彼の歯車式心臓は、いつもより速く回っていた。


「変化というのは、壊れていくことでもある」彼は自分に言い聞かせた。「それでも、何かが変わることを望んでしまう」


 ルナは屋敷の庭で、星明かりの下で輝いていた。彼女の宝石の目には、旅人の星が映り込み、その体から漏れる音楽は、どこか期待に満ちた調べを奏でていた。


 セレステとアリアは屋敷の塔の最上階にある、誰も入ったことのない部屋の前に立っていた。


「時が来たのね」セレステは言った。


「まだわかりません」アリアは答えた。「星は道を示すだけ。来るかどうかは旅人次第です」


「でも、これまでと何かが違う。感じるでしょう?」セレステは言った。「屋敷が……息づいている」


 アリアは頷いた。「永遠の歯車が、少しだけ違う方向に回り始めたようです」


 そして二人は、塔の部屋の扉を見つめながら、長い夜を過ごした。

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