第8話
「あら!こんな所で会えるなんて!」
暖色の明かりが控えめに灯っている落ち着いた店内で、突然、僕の背後から女の声が聞こえてきた。テーブルの向こう側に座っているめろりんは目を大きく見開いて僕の背後のその声の主を凝視している。
「お、おぉ。偶然だな」
めろりんは若干の動揺を見せながら、その声に応えた。
いったい誰なんだと、僕が振り向こうとしたその時には、その声の主は隣のテーブルとの間をすり抜けてめろりんの横に座った。
後ろに向けかけた首を忙しく正面に戻すとそこには、よほどの近親者か恋人でないとありえない距離間でとても綺麗な女性がめろりんと見つめあっていた。
「偶然だけど、偶然じゃないわ。だってこのお店は私たちの思い出の場所だもの」
「ま、まぁ、そういう事も言える、かもな」
めろりんとその女性が至近距離でそんな事を言っているその対面で、僕は頭の上に沢山の疑問符を浮かべる。
「あ、お友達と一緒のところごめんなさいね。とつぜん押しかけちゃって。でも、久しぶりだからいいわよね。あ、真由子!忘れてた!あなたもちょっとこっちに来なさいよ!久しぶりのお父さんよ!」
目の前の女性は僕の背後に向かって声をかけた。『お、お父さん!?』という動揺の中で僕は再度後ろを確認しようとする。すると、さっきと同様のタイミングでいい匂いが僕の横の席、つまり、めろりんの隣の綺麗な女性の正面にするりと座った。
僕の忙しい首は今度は90°の位置で止まった。そこには高校生くらいの美少女がいた。ドキンと胸のどこかが跳ね上がる。
「お前たち、オレの友人に失礼だぞ」
めろりんはそう言って二人を睨みつけた。
「失礼しました」
「すみません」
美女と美少女は僕に深々と頭を下げる。彼女たちが動く度に鼻の奥を甘い何かがくすぐってくる。
「いえ……」
混乱している頭をフル回転させて僕は何とか声をひねり出す。
「申し遅れました。私、この人の妻で芳江と申します。そちらの子は私どもの娘で真由子と申します」
ヨシエ……、芳江……、どこかで見た名だな。マユコは知らない名だ……。現実感が遠のいていくような、心のナニカが何処かに沈んでいくような、そんな感覚の中で僕はぼんやりと思い出す。
そうだ。芳江というのはめろりんのブログ記事に出ていた女の名前だ。
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