第7話
「やあ、ついに会えたな!」
「あぁ、この不思議な縁に乾杯しよう」
僕たち以外に閲覧する者などいないめろりんのブログのコメント欄を通じての交流は半年を数えた。その中で、互いの住む地域を知り、僕が住んでいる町で会おうという事になったのだ。
金がないという僕にめろりんは『そっか。でも、たまには外に出たいよな。部屋にこもりっぱなしはストレス、だもんな』と言い、『オレには小遣いもお年玉もあるからな。友くんの町まで行って奢ってやんよ!』と頼もしい提案をしてくれた。
めろりんは恵まれたニートだ。小遣いも年玉もあるなんて。歳は僕とさほど変わらないのに、家での扱いは僕と違い過ぎる。恵まれた者が恵まれない者に施しを与えるのは当然だしな。生乾きのかさぶたを無理やり剥がした時に似た痛みが心のどこかで生まれたような気がしたけど、きっとそれは気のせいだ。久しぶりの豪遊の予感にワクワクしっぱなしの心にかさぶたなんてない。ある訳がない。
『この町だと、あの辺りにめっちゃ美味しい店があるらしい』というめろりんの提案に反論なんてなかった。めろりんが美食に関して情報通だなんて初耳だし、そんなそぶりをめろりんが見せたことはコメント欄でも夢の中でもなかったけれど、自信満々に先導するめろりんの姿は、その店の料理の美味しさを完全に保証しているかのように見えた。
めろりんが自信満々に見えたのは歩き方のせいだけではなさそうだ。親友とはいえ初対面ゆえにたどたどしい会話を続けながら、僕はめろりんのいで立ちを改めて頭からつま先までそれとなく観察する。おしゃれなハット、高そうなジャケット、品のいいネクタイ、鈍い輝きを見せている腕時計、腹こそ出ているが、全体の調和はオシャレ上級者に見える。もちろん、僕のオシャレの基準など怪しいものだけど。
「めろりんって、お金持ちのボンボンってやつなの?」
思わず本音が口をついて出た。
「イヤイヤ、そうじゃないよ。友くんが奢られる事に抵抗が生まれないように、ちょっとオシャレしてきたんだよ」
めろりんはそう言って爽やかに笑う。
いいヤツだ。
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