第6話
『ビックリしたぜ。やけにリアルな夢だと思っていたけど、オレが憑りついてる知らないオッサンが夢の中で突然オレのブログをピンポイントでググって、とても記事をちゃんと読んだとは思えない早さでコメントを入れるんだもんよ。そして、そのコメントは夢じゃなかった』
僕とめろりんはブログのコメント欄を通じて交流するようになっていた。それで分かったのは、お互いが相手に憑依しているかのような夢を見ているという事だ。
365日、毎日が日曜日の僕たちにとって、睡眠というのは眠くなった時に取るもので、朝は起きなければならない、昼は起きていなければならない、深夜は眠らなければならないという事はない。それぞれが好きなタイミングで眠りにつき、片方が起きていれば眠っているもう片方が夢の中で憑依する、という事らしい。
『残念なのは共有できるのが視覚と聴覚だけって事だな。めろりんの母ちゃんの料理はいつも美味そうだ。においも味も感じられないのはいつも歯がゆい』
『勘弁してくれ。においも味も分かったらもう、感触も分かってしまいそうじゃねーか。友くんのオカズで夢精とかしたくないぜ、オレは』
二人とも起きている時間帯だとコメント欄はリアルタイムチャットと化する。煽りあい罵りあいが一通り終わった後、隠し事のしようがない僕たち二人が打ち解けるのに時間はかからなかった。ただ、思っていた以上に下品なめろりんの言動には時折辟易とさせられたが。
『大体さ、こっちは生んでくれ、なんて頼んでいないのに、勝手に気持ちいい事して、その結果生まれたくもなかったこの世界に生み落とされた訳だろ?僕たちって。それなら、その責任をとって、ずっと養ってくれなきゃ』
『そうそう。まさにそれ。親には子を養い続ける義務がある!』
『こっちだって、部屋にこもりっぱなしでストレスが無い訳ないだろう? それをさも引きこもりニートという立場がひたすらに悪であるかのようにあの手この手で僕たちを追い詰めてくる。一番身近な大人である親がそんな調子でストレスを与えてくるから、僕たちは益々社会の大人って奴が怖くなるんだ』
『そうだな。間違いないね』
同じ境遇の者同士で、しかも、隠し事なんて出来るハズがない、夢を通じての人生の共有者であるめろりんは僕の書き込む事にいちいち同意してくれる。
僕の名前は佐伯友則、48歳。ニートの定義は34歳までなのだとどこかで見た様な気もするけれど、絶賛引きこもり中のニートだ。
この歳になってこれほどまでの親友に出会えるとは思っていなかった。
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