第5話

 ベッドや勉強机、テレビ等の配置は若干違うけれど、僕の部屋とほとんど変わらないゴミだらけの部屋で、いつも通りめろりんはPCを起動させて自分のブログページを開く。中学時代の教科書が積まれた勉強机の上にはパチ組みで済ませたガンプラが乱雑に転がっていて埃を被っている。何が慶応だ。大学生活の残り香などまるで無い。大学どころか高校の教科書すら見当たらない。懐かしいニューホライズンが山積みのあれこれの中ほどに見えたけど、良くて中卒じゃないのか? まぁ、僕にはめろりんの眼球を動かす事も出来ないので、勉強机の上の堆積物を詳しく観察など出来ないのだが。無力な憑依であるのがいつもの、この、夢だ。


 めろりんの動きがピタリと止まった。

 PCの画面には前回の記事。そのコメント欄に書き込まれた短い一文が僕の目、つまり、めろりんの目に入った瞬間に、僕の身体、つまり、めろりんの身体はまさにフリーズしたのだ。

『キモオタデブニート嘘乙。それに、とてもつまらない上に目が滑る文章だな』

 僕が書き込んだコメントだ。ざまぁみろ。何千人何万人と視聴者がいるユーチューバーと、憑依した幽霊的存在である僕が唯一の読者である泡沫ブロガーという差はあれど、表現者に対する誹謗中傷という構造は同じだぞ。泡沫とは言え、めろりんも表現者。ねえねえ、今どんな気持ち? 悪意を向けられるって、ねえ、どんな気持ち? 僕は届かない声でめろりんを煽る。


 すると、突然視界が真っ暗になった。あれ? 今日の夢はこれで終わりなんだろうか。せっかく面白くなってきたっていうのに。

 時間にして約数秒か。すぐにまた、僕の目にはPCのモニターに映るめろりんのブログページが入ってきた。そして、視覚のオンオフが何度か繰り返された。どうやらめろりんはしばらく目を瞑り、その後に瞬きを繰り返したらしい。


 止まっていためろりんの指がゆっくりとノートPCのキーボードを叩き始めた。僕が書き込んだコメントに対する返信を入力している。

 めろりんのいつものタイピングスピードではない非常にゆっくりとした入力ペースで返信用ウィンドウに文字が並んでいく。

『マジかよ。友則、だっけか? 運ばれてくるメシに付いてくるメモには友則とか友くんって書いてあったよな、確か』


 なんだ?なんなんだ?何故めろりんが僕の名前を知っている?

 何故、僕の部屋の前に運ばれた飯の盆に添付されていたお母さんからのメモ書きを知っている?


――友くんへ

まだ間に合うのよ。どうかお願いです。私たちがいなくなった後でもちゃんと生きていられるように、自立できる道を歩んでください。

              おかあさんより――

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