第7の武器 プギオ

 「国家社会主義ヘルヴァン労働者党N S H E L党員の諸君! 先日、我々は祖国がより一層強大となるための新たな力を手にした! ……これがその新兵器、ヴォーティオン一号だ!」



 「「「おおー!」」」



 俺の言葉に、党員たちが沸き立つ。今日、俺は国家社会主義ヘルヴァン労働者党N S H E L初の党大会を開催していた。

 実際には空き地に演説台だけ置いた簡素なものだが、目的は新たに開発したゴーレムのお披露目なので問題ない。ゴーレムにはこの国の神話に登場する巨人の名から「ヴォーティオン」と名付けた。



 「同志アディル! こいつはいってぇ何に使えるんですかい?」



 「ヴォーティオンは凄いぞ! 面倒な畑仕事を手伝ってくれるし、小屋の修理も出来る……そしてなんと、これさえあれば『暴れ川』の治水工事も行えるのだ!」



 「「「!!!」」」



 今まで何となく盛り上がっていた党員たちも、その名を聴いた瞬間水を打ったように静まり返る。ぽつぽつと、俺の言葉を疑うような囁き声が聞こえてきた。



 「『暴れ川』って言ったら、あの川しか無いよな……?」



 「たびたび氾濫が起きては畑の作物を流しちまう……」



 「川が長すぎて、堤防が建てられない……」



 「そもそも、近くには凶暴なモンスターがたっぷり居て、下手に近づけねぇ……」



 「でも、それ以外には無いだろ……」



 そして、囁きが収まった頃、一人の党員が手を上げた。



 「同志の言葉を疑うわけじゃねぇですが、本当に『暴れ川』の治水なんて出来るんですかい」



 「ふふふ……信じられないだろうが、このヴォーティオンを使えばそれも可能だ」



 「でも、いってぇどうやって……」



 「それは実際に見せながら説明しよう……と、言いたいところだが、実のところそれは不可能だ。何故なら、既に治水工事ははずだからね」



 俺の言葉に、ざわめきが広がる。衝撃は大きかったようで、若い党員の中からは「証拠」を求める声も上がってきた。



 「確かに、証拠が必要だ。『暴れ川』の近くには見晴らしのいい峠がある。あそこなら魔獣も近寄れないし、川も遠くまで見渡せるだろう。……己の目で確認したい者は、着いて来なさい」



 演説台を降り、件の川の流れる方角へ歩みを進めると、彼らは戸惑いつつも俺の後を着いてきた。



✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀



 大河川イネルヴァ……通称、暴れ川。

 古代、建国神がその御業で大地を割って創ったとされ、現在は南に位置するコープランド王国との国境線に流れている。その岸に接するスフィラー家の領地は川の氾濫の影響を強く受け、水害により田畑を荒らされることがしばしばあった。



 川を囲むように形成された森には魔獣が跋扈し、氾濫時に溢れ出すそれらはスタンピードの一因ともされている。そのため討伐隊が派遣されたこともあったが、川沿いという環境や魔獣の持つ強力なスキルによっていずれも失敗。以降は禁足地とされ人の立ち入った記録は無い。



 近くには森と隔絶した高い峠があり、川を見渡せる唯一の場所だった。



 「ど、同志アディル! これは……!」



 「あぁ。新兵器、ヴォーティオンが作った〝堤防〟だ」



 しかし、今のイネルヴァは、そんな『暴れ川』としての旧態を完全に脱していた。



 まず、周囲に存在した森。鬱蒼と茂っていたトレントは一本も無く、跡地は平らに整地され、大理石のタイルが地上を覆っている。結界を作る青い聖火が等間隔に灯され、あれだけ猛威を振るっていた魔獣はどこにも見当たらない。

 国境のこちら側に限定はされるが、過去に試みられた魔獣討伐を目的以上の成果で以って完遂しているように見えた。



 次に、土手すら無かった川瀬。森の内部にあり、氾濫を阻むものは何も無かったそこには、王城にも無いような巨大堀が掘られていた。それは国境を作るほどに長い川の全面に渡って存在し、しかも一つだけではなく、二重三重に用心深く作られている。



 最後に、川全体を取り囲む環境。森は言うまでも無く、川瀬も十分なまでに工事されているが、驚くべきはそれらが周囲のに位置することだ。

 つまり、川の流域全体が土手として機能するほど、巨大な岡が出現したということか……否、これこそがヴォーティオンの作った〝堤防〟なのである。



 「自然環境の全てが川の氾濫を防ぐために作り変えられているッッッ……!?」



 「す、すげぇ……」



 「これを、ヴォーティオンは一体でやってのけたっていうのかよ……?」



 党員達は次々に感嘆の声を上げた。ただ、1つ修正しなければならないことがある。



 「言っておくが、ヴォーティオンは何も一体だけで工事を行った訳じゃない……全ゴーレムに告ぐ! 川瀬にて隊列を整えよ!」



 取り出した拡声器に向かって怒鳴ると、底無しのように見えた堀からヴォーティオンが現れた。……そう、全てである。



 「うおっ!?」



 「これ、全部ヴォーティオンかよ!?」



 「こいつら……一体全体何体居やがんだっ!?」



 これだけの巨大工事、寝ずに働けるゴーレムであっても、流石に一体では埒が明かない。幸いゴーレムを作る材料はダイエアハトに山程ある。俺は、スキルが無ければ作れない魔力ファイバーのみを限界まで用意し、それ以外の作業工程をゴーレム自身に丸投げすることで、ゴーレムの大量生産を実現した。



 それらゴーレムを総動員して働かせることで、この大工事は完遂したのだ。



 「そして、工事はこれで終わりではない」



 確かに森は整地され、聖火によって魔獣の発生は妨げられている。しかし、結界の行き届かない堀の内部には未だ大量の魔獣が住み着いており、何の拍子にこちらへやって来るか分からない。

 最大限の保安を確保するためにも、俺はスキルを発動し、最終工事に取り掛かった。



 「じょ、城壁が生えたッッ……!?」



 「いや、違う! あれは……剣!?」



 「おぉ、神よ……」



 堤防の内部には連続した堀だけでなく、点線のように一定距離ごとで分断された堀がある。これは氾濫対策として作った堀とは別に、この最終工事のために特別に掘った剣のさやだ。

 そして、党員から”城壁”と呼ばれたのは、その鞘に納めるようスキルで作った短剣……プギオである。



 太く、短い、古代ローマ軍が愛用していた短剣は、城壁と見間違える程に巨大化されている。これは魔物の移動を物理的に阻害するだけでなく、スキルの効果で高められた殺傷能力により、接触するだけで有刺鉄線と同程度のダメージを与えられるはずだ。

 鞘と言いつつも、堀が受け入れているのはプギオの持ち手部分である。



 峠へ登ったのは僅かに残った魔獣を恐れてのことだが、このプギオによってその危険は限りなく消え去ったと言えるだろう。



 「さて、これが君達の求めていた証拠だ。どうかね? 必要なら別の川でも”治水工事”をしようと思うが……」



 「「「いえ、充分であります!」」」



 ま、これでゴーレムが如何に便利かはよく伝わったことだろう。治水工事もパフォーマンスではあったが、結果的に『暴れ川』を封じ込めることに繋がったことを思えば、及第点と言える。

 ミスリルの使用法はこれだけに尽きないが、当初考えていた構想は概ね成功を収めたのだ。



 あの計画……帝都建設計画を、実行に移すときかも知れない。

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