コープランドの野望①(※三人称視点)

 「陛下、詔令に応じ参りました」



 「入れ」



 陛下と呼ばれた、貴重な宝石がふんだんに使われた綺羅びやかな椅子に座る男――パードリア王国国王のジュリアン・マクキングスは、でっぷりと太った腹を撫で回しながら返事をした。



 「ノステリアル半島統一という偉大なる計画を達成するため、あの小国を粉砕したいのだ。既に我が手中に収めたマイダスとガーラックの兵を集えば、出来ぬはずはあるまい」



 「海よりも深き深謀遠慮に心中屈服するばかりであります。しかし、少しばかり懸案が御座いまして……」



 ノステリアル半島はヘルヴァン、マイダス、ガーラックなどの国々が位置する地域であり、パードリアもその内の一国である。三国と異なり明確な中央政権が存在せず、諸侯が王の座を狙い争いを続け、国力も人口も三国に劣る弱小国……そんな評価を受けていたパードリアは、ある日を境に大きな変化を迎えた。



 現王家、マクキングスは突如として統一を成し遂げ、凱旋の間もなくパードリアは軍事大国に生まれ変わった。元々統一争いで戦馴れしていた兵は統一から僅か3日で隣国へ攻め入りだし、そのスピードと経験は他国兵を圧倒。マイダス、ガーラック、その他数々の国を支配下に収めた。



 「率直に言って、現兵力を全て投入することは不可能でございます」



 「なぜだ?」



 「先の戦いで疲弊した両国軍の士気は最低です。古参兵は将軍を神輿に寝返る危険すらあります。多少時間は掛かりますが、ここは有力貴族の支配を優先したほうがよろしいかと」



 その後に行われた統治戦略も中々に苛烈であり、主要な支配層の当主のみを皆殺しにし、世継ぎをパードリアに都合の良いよう教育することで、トップダウンによる恐ろしく時間がかかり、だが着実に効果のある統治を行っていた。

 民には重税を課し、その不満は事実上傀儡の支配層に押し付けることで、一挙両得を目指したのだ。



 「だが、我らの力に恐れ慄いた奴らが寝返るなど考えられぬ。士気など督戦隊を配置してやればいい。死の恐怖に怯えて死に物狂いで戦うだろう」



 「お言葉ですが、督戦隊を配置出来るほどの余裕は我々の軍にありません。あれは畑から人の採れる”帝国”だからこそ出来ることです。二国を征服したときでさえ国庫は火の車だったのですよ。戦死した兵の埋め合わせも行わなければならないことを考えれば、健康な兵は最前線に回すべきでしょう」



 「だが、そうは言っても」



 「『催眠H y p n o s i s m』」



 瞬間、王と会話していた男は振り子を取り出した。



 「……良いですか国王、今は戦わず、力を蓄えるときです……あなたは何も考えなくて良い……ただ私の提案する策に相槌を打っていればいいのですよ……はい、分かりましたか?」



 「あぁ、分かった……」



 「それでよろしい。次から戦に関する勅令は私の判断を待ってください。へルヴァンは、二国に比べて幾分強力です」



 「強いのか」



 「まぁ、今の我が軍ほどでは無いと思いますが……それに、大農家のスフィラー家が怪しい。噂によれば、彼の国の王都に値する城塞を築き上げていると聞きます。反乱の用意なら好都合ですが、力を付けすぎればこちらに刃を向けかねない。あくまで噂ですが……」



 最後は王に伝えるでもなく、独り言のように呟きながら部屋を出た男こそ、パードリアを裏から操る黒幕、イーサン・ダヴィリスである。



 『催眠H y p n o s i s m』――密室下、最大一人、一日一回を条件とし、目の前で振り子を振るだけで相手にあらゆる洗脳を施せる強力なスキルを持つイーサンは、その能力を最大限活用し、宰相でも無いのに関わらず王へ直々意見出来るほどの立場を得ていた。



 彼の目的は単純明快。マクキングス家に可能な限り広大な領地を支配させたのち、王を殺してその全てをコープランド王国のモノとすることだった。コープランドは数々の植民地を持つ大国で、スキルを見初められたイーサンは半島の植民地化という大役を命じられていた。

 彼自身が王としてパードリアを統治しないのには理由がある。パードリアの王には戦線の最前線で兵の士気を上げる役割があり、その分危険性も高い。危険というものを何よりも嫌うイーサンはそれだけの理由で愚鈍な王を生かし続けていた。無論、成り上がりの王への敬意などは微塵もない。



 民にとってもそれは同じであることを深く理解していたイーサンは、敢えて主要な貴族家を残し、それ以外の諸侯と民に反乱を起こされないよう上手くバランスを取っていた。ヘルヴァンについては王家すら跡取りを残そうと考えるほどで、プライドよりも身の安全が何より大切である彼の心情がその策にも色濃く現れていた。



 「王都に値する城塞、ねぇ……ま、半島の野蛮人には、土嚢でも過ぎた技術だ。きっと石壁か何かを大袈裟に吹聴しているだけで、どちらも大した事はないだろう。大陸の最新魔術を使えば藁より簡単に吹き飛ばせるさ」



 元々コープランド出身のイーサンにとって、中央から離れた半島は未開の地というイメージが強く、それゆえ半島に関することは過小評価してしまう悪癖があった。

 王への忠言も本当に民の反乱を恐れて戒めたのではなく、実際には魔術師の仲間を載せた船が本国からやって来るまでの時間稼ぎを目的としていたのだったのだ。



 「それに、ヘルヴァン人とやらはまだ教化すらされていない。神の威光を携えた王国が負けるなど、有り得ない話だ」



 コープランドを始めとする数々の列強は、漏れ無く聖光新教会という宗教の影響下にあり、その熱心な信者であるイーサンにとって今回の遠征は宣教としての一面も伴っていた。

 未だにノステリアル神話の語り継がれるヘルヴァンは、聖光新教会にして見れば邪教徒の蔓延る悪魔の国。異教を毛嫌いするイーサンにとって、ヘルヴァンを下に見ない理由がない。



 「占領したらまずは現国王を処刑して、王家を傀儡にする。で、パードリアが半島を統一したらジュリアンをスキルで殺して、半島を完全に征服する。そうしたら残った王族も根絶やしにして、ノステリアルの連中を丸ごと奴隷にする……ふふ、我ながら完璧な作戦だ。成功の暁には、記念に奴らの神殿を壊して教会を建ててやろう」



 パードリアの宮殿に、大きな笑い声が響いた。

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