第4の武器 破城槌
「着いた。金融ギルドだ」
ここへ来るのは二度目だが、やはり何度見ても大きい。田舎なのにここまで栄えているのは、すぐ近くに城を構える辺境伯の御用達だからだ。
だからこそ、俺みたいな本当の田舎者は珍しい。それも5歳児の小僧ともなれば、好奇の目を向けられるのは必至だ。
しかしそれだけで済む辺り、この国の国民はつくづく平和ボケしていると感じる。
「あら僕ちゃん、どうしたの? 親御さんはどこ? 迷っちゃったのかな?」
「いいえ、ある商会の買い取りに来ました。代金はこちらです」
「……変ね。私ったら熱でもあるのかしら」
受付嬢にドン引きされる一幕はあったにせよ、取り引きは無事に終った。
子供が取引に来るというインパクトが、わざわざ休眠商会を買い取る奇妙さを打ち消してしまったのだ。
「ふぅ、何とか怪しまれず……いや、怪しまれはしたが追求はされずに済んだな」
匿名で取引が出来るのはやはりこのギルドを使う一番のメリットだろう。ほぼ辺境伯専用のギルドになっているという事実が、ここの捜査を遅らせているらしい。
だからこそ、怪しい連中も現れやすい訳で……
「へへ……坊主、こんな所で一人か」
「おいおい危ねぇなぁ。そんなに無防備だと、悪い奴らに襲われちまうぞぉ?……俺等みたいな奴らに、なぁ!」
ギルドの構造上、村へ帰るには人通りの少ない裏路地を通って行かねばならない。すると厄介なことに、今みたいな輩も現れてしまうのだ。
「ッ!? ……グハァ!」
「ぐっ……つ、強ぇ! 何だこの坊主!」
当然、対策を施さない筈がない。
俺の着ているトレンチコートは防弾チョッキとして、制帽は投箭としてスキルで作成したものだ。衣類を模している分殺傷能力は落ちているし、こうした野盗を相手取るのには丁度いい。
「身に付けている物、金品、全て置いていけば命までは取らない。……二度は無いぞ」
脅すと、野盗は泡を噛むように逃げ出してしまった。これに応じないなら腕章が飛び出す所だったが、奴らは運が良いらしい。
「全く……ん? これは……」
だが、俺はもっと運が良いようだ。
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「ここが冶金研究商会。実態の無い休眠商会、か……」
未舗装の獣道を辿って行くと、お目当ての場所に辿り着いた。
外装は豪華絢爛だが、その実運営記録は数十年途絶えている。
業績拡大に伴って足枷になっていた本店を、内装品だけ売り払って放置していたとのことだ。
元々金属類の加工をしていたためか鉱山の奥に設置されており、資産を隠すのには理想的と言える。
もっとも、鉱山は既に廃坑となり、所有者不在の空き地となっている。
今回ここへ来たのは資産を運び込むためだ。当座の金を残し、ほとんどの資産は芸術品や金品、証券へ換えているため、運搬は容易だった。
本来ならこのまま帰る予定だったが、俺にはまだやることがあった。
「さて……お宝探しの時間だ」
ダイエアハト銅鉱山。商会の設置された山の名前だ。その名の通り銅鉱の採掘が行われていたが、坑道自体は開かれて数年で閉坑してしまい、その後は新たな調査も行われず手つかずとなっている。
商会ですら土地と建物だけは残されたのに、こちらは維持費と土地税の問題から無主地となってしまった。
そんな残念な鉱山だが、実のところ俺はその価値を高く見積もっている。
「うん、ここら辺が丁度いいだろ」
俺は両手を掲げ、大きな岩山へ意識を向ける。
すると、岩山は青い粒子となって飛び交い、一基の巨大な破城槌へ変形を遂げた。
「おぇ……山相手は流石に疲れるな……“
今までで最大規模のスキル使用でへとへととなった俺は、破城槌を『起動』するために火属性魔術の“
スキルの使用はレベルごとに限界があるが、魔術は魔力さえ残っていれば気合で使えるのだ。
「はは、これを設計するまでにどれだけ魔力を無駄にしたことか……上手く動作してくれるといいが」
今回作った破城槌は周囲の石炭や泥水なども組み込み、小火さえあれば蒸気機関を使って勝手に動作するような仕組みになっている。ちゃんと動けば、見る見る内に山を砕いてくれるはずだ。
「おお、動いてる動いてる。スフィラー家の私有地で実験した甲斐があったよ」
そんなことをボヤいていると、破城槌は俺の期待通りキチンと車輪を回し、岩盤を砕き始めた。
魔力の影響か、この世界の自然物は魔術による直接攻撃には強い代わり、物理的な衝撃に弱い。
俺のスキルで組み替えた武器は、そういった性質もリセットされてしまう。加えてスキルそのものの効果で物質全般への殺傷能力が高まる。だからこそ、原始的な破城槌が豆腐を割るように鉱山を砕けるのだ。
けれど、魔物や魔術師相手では裏目に出てしまうという難点もある。
最初に動き始めてから数十分経過した。実のところ、目当てのものはまだ見つからない。
そもそも希少性が高い物なので、ここの鉱山にあるかどうかも賭けになる。無ければオジャンで、次の日に持ち越しだ。
手に汗を握りつつ、地べたに座っていると、何やら光る石ころが転がってきた。手に取り、まじまじと眺める。
「……しめた!」
紫色のまばゆい輝きを示す鉱石。
見間違えるはずもない。これこそが探していたミスリルだ。
「ここだけやけに魔力が濃いから気になっていたが、やはり埋もれてたか」
書斎で存在だけは知っていた。何でも、単に宝石として高い価値を誇る他、魔力触媒———魔道具のコアに使われると有り、どうしても手に入れたかったのだ。
「いやはや、無主地だと分かって諦めかけて居たが、天は俺を見離さなかったな」
金融ギルドに居た野盗を倒した時、その内の一人が残した物を見てピンと来た。
間抜けにも、そいつは自身の身分証書を落としていったのだ。
「魔術の絡んだ証書は偽造が難しいが、逆に言えば本物の信用度がそれだけ高いってことだ」
そうして俺は奴の名義を乗っ取……コホン。利用させてもらい、見事に鉱山の権利を獲得した訳だ。
「それにしても、例の商会も勿体ないことをしたなぁ……ま、確かに古代ローマ並の技術力じゃ、露出した銅鉱の採掘で精一杯か」
この世界には魔法やスキルなど、地球とは異なる強力な技術が存在している。しかし、それらは産業的な目的への応用が難しい。
生産スキルなんかは本人のアイデア次第な所もあるが、如何せんその類のスキル所有者は貴重であり、武器の量産要員として使い潰されている側面がある。
優れた魔法使いの中には掘削や製品加工にも使える強力な魔法を覚えた者も居るだろうが、そんな人材を物作りや採掘などに使うのは費用対効果が悪いという考えが一般的だ。
だから、流通する金属と言えば椀掛けでも取れる卑金属が基本で、比較的奥深くに眠るミスリル鉱はその希少性が数段高まる。
「何はともあれ、これで”あの計画”が実行に移せるぞ……」
俺は、手の中で光るミスリルを握り締めた。
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