第3の武器 音響兵器
「逃げろ!」
「橋を落とせ!」
怒号と悲鳴が飛び交う。最早演説どころではない。
多くの村人が川岸に逃げおおせ、村と岸を繋げる橋を落とした。しかし……
「おい、あそこに逃げ遅れた人間が居るぞ!」
「ヨハネス! メアリー!」
「近づくのは危険だ! ……クソッ、一体どうすれば!」
怪我人や子供、老人は少なくない人数が避難出来ず取り残されている。
このまま放っておけば、被害が出るのも時間の問題だ。
「……っ!」
そして情けないことに、それは俺自身にも言えたことだった。
(ダメだ、足がすくんで動けない……っ!)
ただでさえ高台という逃げるのが困難な構造。子供の足では逃げるのに時間がかかる。しばらくは安全かもしれないが、魔物の中には梯子を登る知能を持つ奴らも居る。そのとき俺は……
そんな中、俺の頭には一つの奇妙なアイデアが閃いた。
「くそ……一か八かだ!」
さっきまで演説に使っていたメガホン。それを再び構えた俺は、魔物の居る方角へ向かって叫んだ。
「総員に告ぐ! 可能な者は皆耳を覆え! これより、対スタンピード殲滅作戦の開始を宣言する!」
逃げ遅れた者たちが困惑しながらその場で耳を塞いだのを確認した俺は、次の行動に移った。
メガホンに無理やり取り付けた消音装置。これを拳で叩き壊したのだ!
「スゥゥ……………ハイル・マイン・フューラアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
大地が揺れ、この世の物と思えぬ轟音が耳をつんざく。
「アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
圧倒的な大音量。それが、この状況で俺が唯一魔物に対抗出来ると考えた方法だ。
本来、〝音響兵器〟として生み出されたこのメガホンならば、その役割を十分に果たせる。俺の肺活量は未知の方法で普段の何百倍にも増幅され、音量は言うまでもない。
「アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
そして、何とこの方法は着実に効果を出していた。
先程まで獰猛に襲いかかってきた魔物たちの動きがピタリと止まり、一部は森に逃げ始めたのだ。
無論、これだけでは時間稼ぎにしかならない。そのため、俺は次の策に移った。
「キャッ!」
「こ、これは!?」
「若様が配っているらしいぞ!」
この日のために作っていた腕章。レベルの増加に伴って、最後の方には一日百枚は作れるようになった。
党員であることを示す重要な物だが、明確な欠点が一つある。
「何だこれ……“使用者はこの説明をお読みください”?」
表面は勿論俺のイメージした党章がデザインされている。しかし裏側には、この腕章の〝正規の使用法〟が、イラストと共に事細かに説明されているのだ。
俺のスキル『
そして、そんなスキルで作られた腕章の正規の利用法と言えば……
「”まず相手を拘束した上で羽交い締めにし”」
「”伸縮可能な布部分を引き伸ばして”」
「”相手の口と鼻を覆うように被せる”……っと!」
通常時であれば明らかに余計な情報だが、子供やお年寄りにも使える武器として、これ以上の物はない。
メガホンを使っているせいで口の利けない今の俺には尚更だ。
轟音で魔物の動きを止めるメガホンと、動けない魔物の息の根を確実に止める腕章は素晴らしい相性だった。
この対スタンピード殲滅作戦は、最後の一匹が腕章で窒息死し、幕を閉じたのだった。
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「「「ジーク・ハイル! ハイル・フューラー!」」」
「乾杯! みんなお疲れ様!」
結果的に、演説中に起きたスタンピードは歴史上でも数少ない被害者0という結果で終った。
スタンピードで発生する魔物は通常より強化している場合が多く、今回のように完全な討伐が行えるのは稀なんだそうだ。
結局、村人たちは俺の小難しい話よりも今回の功績が胸に残ったらしく、多数の党員誘致に成功した。
その内の大半が、護身用に腕章を携帯したいからという理由ではあるが……まぁ、思想的な部分は徐々に浸透させていけば良いのだ。それより、討伐を祝って祝杯を上げるのが先だろう。
「いやあ、あの時の若様は流石だったな」
「全くだ。なあ、今回のスタンピードの件で、国が数年間上納金を無しにしてくれるらしいぜ」
「本当か!? そりゃ有難ぇな」
村人たちが談笑する間に、すっかり日が暮れていた。
エリカやハインツさんの協力もありつつ党員名簿を完成させた頃には、もう家へ帰る時間だ。
「見よ、今回の作戦の結果を! これぞ結束したヘルヴァン人の力だ! 次に敵が歯向かってくれば、その時こそ蹴散らしてくれよう!」
最後に、話し損ねた演説を終わらせると、皆はそれぞれの家へ散って行った。
今回のことで、国は数年間上納金を帳消しにしてくれた。
確かに家屋などは少なくない被害を被ったが、それも最小限で食い止められたのだ。損害を補って、かなり余った。
「うむ……この村は長年豊作続きで、これと言って返済するべき借金も無い。かと言って村民に課す税を減らすのにも、限度がある。何か後に残る形で、この余剰金を役立てる方法は無い物か。アディル、お前の知恵を借りたい」
父にそんな相談をされた。いざと言う時に備え貯蓄するのも一つの手だが、蔵一つを埋め尽くすほどの大金だ。再び上納金が課された時、大きな負債と化して襲いかかるだろう。
そもそも、国はこの村が大きな損害を受けたと考えて上納金の帳消しを決定したのだ。巨大な資産があれば怪しまれる。
「お父様、一つ、提案なのですが———」
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「”実態の無い商会に資産を移す”?」
「はい。この莫大な富を隠すのには、それが良いかと」
俺が父親に提案したのは、実態の無い商会———前世で言う所のペーパーカンパニーを作り、そこに資産を移すという手法だ。
このスキームを使えば、財産を当局の目から隠しつつ、思うままに使える。
「だが、そんな商会がどこにあるんだ」
「僕が予め探しておきましたよ……『冶金研究商会』。通称、メフォ商会。僅か10万ゴールドで売りに出されていた、所謂休眠商会です」
スフィラー家名義で作った商会では足がつきやすい。そこで、俺は匿名の取引が可能な金融ギルドへ調査に出向き、看板は出ているがほとんど運営されていない、実質解散状態の商会を探し出したのだ。
まさか誰も5歳の小僧が、自治体ぐるみの資産隠匿を企んでいるとは思うまい。
「ううむ……しかし、どこか心が痛むな……」
「この金は祖国の発展と繁栄のための軍資金です。中央には何倍もの利益になって還ってきますよ」
「そういうものか」
「そうですよ。それに、全て貯蓄に回すだけじゃない。いくつかは使う宛があります。お父様が許可して頂ければ、直ぐにでも事業を展開しますよ」
「そうか……何だか、文官とでも話しているような気分だな。この金の使い道は、お前に全て任せる。それで良いか?」
「ええ。責任を持って、全ヘルヴァン人の幸福と繁栄を約束します」
「そこまでしなくても良いんだが……うむ、頼んだぞ」
こうして父から全権委任の約束を取り付けた俺は、早速金融ギルドへ向かうのだった。
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