第2の武器 捕具
ハインツさんにはクワを直したついでに、他にも物の修理を望む人が居れば俺に教えるよう頼んでおいた。
横の繋がりが盤石な村社会では、情報は人から人へ簡単に伝わってゆくものだ。
ステファン夫妻宅の屋根を直したり、オリビア嬢の玩具を作ったり、土地神を祀る祠を修復したり……ハインツさんのクワを直したのを切っ掛けに、俺は村の何でも屋のような扱いを受けていた。それに比例し、レベルも順調に上がっていく。
「スフィラー家のご令息は神童らしい」
秋頃にはそんな噂も流れ始めた。恐らく、いや十中八九、お父様とお母様が吹聴して回っているせいだろうが……。
「そろそろ頃合いかな」
「お兄様、どうしたのですか?」
「ああ、エリカか」
妹のエリカも4歳になり、大抵のことは自分で出来るようになった。我が妹ながら、本当に成長が早い。
「先程から、何をおっしゃっていましたの」
どうやら考えていることが独り言として漏れていたらしい。
「エリカ……僕は〝党〟を作ろうと思う」
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現在のヘルヴァンは所謂君主制……国王陛下を筆頭とした王宮による寡頭体制で統治されている。
勿論、平和な世の中ではそれで良いのかもしれないが、ここ最近のきな臭い情勢では、国王陛下のようなお人好しがトップであるというのは少々危うい。仮に他国の唾の付いた文官が陛下を唆しでもすれば、我が国は戦うまでもなく乗っ取られてしまう。
俺は、国民の信頼を最大まで高め、ヘルヴァンを帝国として再編し、陛下御勅命の元総統となる計画を密かに企てていた。
その第一歩が、民衆の支持を一挙に集める党の結成だ。
「国家社会主義ヘルヴァン労働者党……こんな名前が良い」
独裁は長く続かない。あくまでヘルヴァンを大国へ導く第一歩として、政治感覚の鈍い民衆を導く必要がある。計画成功の暁には選挙権も解放したい。ゆくゆくは他国に先駆け議会も作るだろうし、そのために党を結成するのだ。
この世界では未だに共和制国家すら存在せず、僅かな商人連合などを除けばほとんどの国が君主主義に基づいて動いている。
宰相が国王に成り代わるだけならまだしも、革命を起こして打ち立てられた完全な民主主義国家は思想そのものが危険視され、国が力を付ける前に滅ぼされかねない。
そもそも、そんなことは俺だって望まない訳だが。
「
「あぁ。同じ志を持った人々が団結する、ギルドみたいなモノだ」
まずは友愛結社として運営し、段々政治に関わっていく。ゆくゆくは王政を代理し、独裁体制を整えるのだ。
「私も、そのトウに加わりたいですわ」
「じゃ、エリカにはこの腕章をあげよう」
「腕章?」
「党員になった証だよ」
布は、捉えようによっては相手を窒息させたり、首を締めたり、身を守るための捕具としても見做せる。少々強引な理屈だが、腕章も武器としてスキルで作ることが出来るのだ。
ただ、武器から遠いものを作るのにはかなり労力が要るようで、一日一個が今の限界だった。
「わあ、素敵!」
前世では元々美大を志望していただけあって、デザインには自信がある。
鷲とオリーブの葉を組み合わせたような党章と、その周囲に党名がヘルヴァン語で刻まれている。
「ありがとうお兄様、大切にしますわ!」
「ふふ、こちらこそ。あと、党員として自分を呼ぶときは『同志アディル』って呼んで欲しいな」
「同志……ですか?」
「そう。地位や身分に関係なく、仲間のことはそう呼ぶんだ」
「……分かりましたわ、同志アディル」
「よろしく、同志エリカ」
さて、これで結党は完了した。次にすべきことは———
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「お父様」
「おお、アディルか。どうした?」
書斎に入ると、俺の父親、ハルトマン・スフィラーが書類仕事をしていた。
遅くまで働いていたのか、目に隈が出来ている。税に関する資料を整理しているらしい。
「少しお願いがあるのです」
「珍しいな、お前がおねだりだなんて。良いよ、言ってみてくれ」
「明日の正午、全員とは言いません。村人たちを広場に集めてくれませんか」
父は忙しなく動かしていた手を止め、俺の方を向いた。
「分かった、声を掛けてみる。理由を聞いても良いか?」
「演説をしたいのです」
「演説?」
「王都の若い貴族の間で流行っている奴か」と呟くように言った父は、懐からロウソク時計を取り出すと、火を着けて俺に手渡した。
「時間はこれで確認してくれ」
「ありがとうございます。仕事中に失礼しました」
「良いんだ。困ったことがあればいつでも来て良いからな」
エリカやハインツさんにも同様のお願いをしている。勿論俺自身も、修理の依頼を達成するついでに演説へ勧誘していた。
ただでさえ娯楽の少ない田舎で、しかも畑仕事の出来ない冬季の演説だ。全員とは言わないまでも、何人かは物珍しさで来てくれるだろう。
「どんな結果になるか、見モノだな」
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翌日、ちょうどロウソクの燃え尽きた午後0時。
演説のために最終調整を終えた俺は、今日のために広場に拵えた演説台へ登った。
高台から見下ろすと、恐らくこの村の3分の1程度の人々が集まっている。
一体何をするのかとざわめいている様子だ。
これでは俺の声が届かない。
何の用意もしていなければそう思う所だろう。しかし、俺には秘策がある。
メガホンだ。
「
第一声は大きく声を張り上げた。ざわめきが途端に絶ち消え、聴衆の関心が一挙にこちらへ向く。
音を拡大して相手に届けるメガホンは、見ようによっては音響兵器だ。作成には難航したが、腕章ほどではない。
スキルがもたらす負の影響———本来の武器としての効果を極力減らすため、木で作った模擬銃から消音装置を外して組み込んだ。
そのお陰で、メガホンから出る音を聞いても耳がキンとする程度に収まっている。
「
第二声は少し抑えめに。しかし確実に伝わるよう声を響かせる。
俺の幼い風貌とボーイソプラノが、更に聴衆の関心を惹くのに一役買った。
「
聴衆が完全にこちらへ注意を向けたと判断して、ようやく演説を始める。
原稿は持ってきていない。転生後の体が優秀なようで、内容は全て一晩で暗記出来た。
「我らヘルヴァン民族の誇りは、野蛮な周辺諸国に毀損され続けている」
言っていることは前世に居た独裁者の演説の焼き直しだ。それを、今の国際情勢と照らし合わせて矛盾の無いように作り直している。
「今こそ反撃の時だ! ヘルヴァン民族は団結し、その底力を世界に見せつけるべきだ!」
威勢の良いことを言いつつ、俺は内心冷や汗を掻いていた。
聴衆の村人たちは関心を持ってくれたは良いものの、レスポンスが全く無い。決して演説に感動している訳では無く、単純に内容の意味が分からずポカンとした様子だ。
「この腕章こそ
無反応に焦り、その焦りを誤魔化すために威勢良く声を張り上げた途端、それは起きた。
「さあ! 今こそ祖国への忠誠を咆哮せよ! ジーク・ハイ———」
「キャアアアアッ!?!?」
若い女性の悲鳴。それだけではない。断続的な轟音と地響きが広場を襲っている。
明らかな異常事態だ。俺は反射的に悲鳴の起こった方を向いた。すると、直ぐにその要因が分かった。
「スタンピードだ!」
魔力の乱れによって起こる、急激に増えた魔物の暴走。書斎の資料で存在自体は知っていたが、実物の迫力は段違いだった。
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