序章

結党〜領土拡大

第1の武器 ウォーハンマー

 目を覚ました時、まず違和感を覚えたのは、自分の体だった。



「……子供?」



 鏡を見ると、目元はぱっちり、頬は白くて柔らかそう。中性的で整った顔立ち。そして何より、自分の手が小さく、細く、まだ幼いことに唖然とした。

 目覚めた場所も無機質な自宅ではなく、木製の牧歌的なログハウス。



 「これってまさか……」



 ラノベ好きの俺はすぐにピンと来た。そして、それは正しかった。



 「アディルー? ご飯できたわよ」



 俺は、異世界に転生していた。



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 幸いなことに、農奴の身分で食うに困るとか、王侯貴族として政争に巻き込まれるということは無かった。

 家は小さな農村の地主で、村一帯を取り仕切る立場にある。都合の良いことに村の位置する場所は国有数の穀倉地帯で、重税を課さずともそこそこの暮らしが出来た。

 そのお陰で、村人たちとの関係も良い。



 アディル・スフィラー。これが今生の俺の名だ。



 一見、何もせずとも平穏な暮らしを送れそうに思える。事実、俺はこれまで一切の厄介事に巻き込まれていない。せいぜいが4歳児にして既に読み書き計算を習得した、出来すぎた子供として見られるくらいだ。



 しかし、世の中そう虫の良い話も無い。



 「聞いたか。マイダス王国とガーラック大公国がまた戦争を始めたらしいぞ」



 「なんでも、ガーラック人の兵士がマイダスの国王を闇討ちしたとか」



 「隣国は次期国王を巡った内戦がまだ続いているらしいわ。本当、物騒な世の中ねえ」



 この世界における俺の祖国———ヘルヴァンは、正直言ってあまり強い国ではない。

 取り柄と言えば長い歴史と豊かな穀倉地帯ぐらいで、国の長である国王陛下も、良い人だし暗君では無いのだが……どこか平和ボケしていて頼りない。



 それなのに世界情勢と言えば、やれ某国が周辺諸国を攻めだしたとか、やれ強力な新魔術が開発されたとか、やれ隣国の王が暗殺されたとか、まぁとにもかくにも物騒でしょうがないのだ。



 有り体に言えば小国であるヘルヴァンにとって、これ程危機的なことは無いだろう。幸いなことに、他の異世界転生の例に漏れず、俺は『スキル』というものを持っていた。俺のスキル———『武器職人K ü n s t l e r』を使えば、周囲の資源を利用して兵器を製造できる。戦争にはうってつけだ。

 故郷を逃げ、侵略好きな某国の技師にでも登用されれば、一先ずは安泰なのかもしれない。



 しかし……



 「でも、この国には関係の無いことよね」



 「それもそうだな」



 「そう言えば、おめでたい話もあってね! 王妃殿下が懐妊されたとか———」



 この素晴らしい国を見捨てることなど、俺には出来ない。



 初めは、見知らぬ世界の人間に生まれ変わって戸惑いも覚えた。国への奉仕などいざ知らず、ましてや不安のみを感じていた。

 小さな体で書斎を漁り、この世界について知るので精一杯だった。



 しかし、そうして祖国の文化に触れ、歴史に触れ、そして何より民族について知っていく内———必然というべきか、俺の心には愛国心が芽生えていた。



 無論、この時代にヘルヴァンのような小国が生き残るのは簡単ではない。放っておけば無慈悲な大国に蹂躙されるだろう。

 ———だからこそ、誰よりも強いカリスマと指導力を備えた人間が、国家を結束させて強固にしなくてはならない。へルヴァンは今のような小国では無く、どのような危機にも脅かされない軍事大国としてどこまでも繁栄するべきなのだ。

 そのためにはまず、周囲の人間から信用を勝ち取るべきだろう。



 俺は短い手足をトテトテと動かし、農場へ向かった。



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 「やあエリカ、精が出るね」



 「おにーさま!」



 早速農場に着くと、可愛らしい少女が駆け寄ってきた。

 エリカ・スフィラー。今年で3歳になる、我が愛しの妹。



 この歳にしてヘルヴァン語を習得している聡明な子だ。



 「ハインツさんを見なかったかい? ベージュの帽子を被っているのっぽのおじさまだ」



 「そのお方なら小麦畑で見かけましたわ」



 「ありがとう、助かるよ」



 ハインツさんはこの村の農民の一人だ。最近、愛用のクワが刃毀れしたと嘆いていた。直してあげればきっと喜んでくれるだろう。



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 「おお、若様ですか。本日は何用で?」



 「何、ちょっとしたことだ。あなたのクワを見せてくれないか」



 小麦畑に向かうと、エリカの言っていた通りハインツさんが居た。風車から小麦粉を運んでいるようだ。



 「よろしいですが……刃毀れしたせいで、使い物には成りませんよ」



 「いや、使うわけじゃない。ただちょっと、試したいことがあってね」



 「はぁ、なるほど……?」



 ハインツさんは首を傾げつつも、裏の納屋からクワを持ってきてくれた。手に持って観察してみれば、なるほど、ボロボロで使い物になりそうもない。



 「このクワ、直してもいいかな?」



 「それは、鍛冶師に依頼してということで……?」



 「いいや、自分が直すんだ」



 「わ、若様が……?」



 ハインツさんは戸惑ったような、ほっこりするような、良く分からない顔をしている。僅か5歳の小僧が鉄製品の修繕をしようと言うのだ。そりゃあそんな顔にもなる。



 取り敢えず、クワの修繕には許可を出してもらえた。ただ、危なくないように修繕過程を見させてもらうとのことだった。まぁ、当然だろう。



 「では、失礼」



 俺はクワを地面に置き、意識を向ける。見たところ、中世にでも有りそうな、オーソドックスな形のようだ。

 俺はその形をイメージしつつ、刃毀れしない頑丈な構造にするよう強く念じた。



 しばらくして、クワに変化が訪れた。



 刃は一部が青い粒子のように変化し、刃毀れした部分を補う形で移動した。持ち手は表面がヤスリがけでもされたかのように滑らかになり、表面には薄いコーディングがされているようだ。

 数秒ほどで、クワはすっかり元通り、いや、元より頑丈な形に変化した。



 「おお……!」



 経過を見守っていたハインツさんも、思わず嘆息していた。



 「スキルを使ってみたんだ。どうだい、直せたかな?」



 「なるほど、スキルを……はい。完全に直っています」



 ハインツさんからは何度もお辞儀をして感謝された。恐らく、これで信用を得られただろう。



 『武器職人K ü n s t l e r』は強力なスキルだ。武器として使用出来るものなら、どんな物でも作れる。その能力を応用して、元のクワを資源に新しいクワをとして作り直したのだ。

 今はまだレベルが低いせいで、クワ一つ作るのにもかなり疲弊してしまうが、鍛えれば強大な戦略兵器をも生み出せるだろう。



 ただ、一つ難点があり……



 「……ハインツさん。そのクワ、くれぐれも人に向けないでね」



 「?……えぇ、心得ておりますよ?」



 ”武器を作る”というスキルの特性上、どうしても作った『武器』は殺傷能力が高くなってしまう。

 それは、クワを模したウォーハンマーのような、本来武器としては使用されないモノも例外ではない。



 「改善点は多いが、かなり有用な能力だな」



 そんなことを呟きつつ、「うおっ!?」と新しいクワの切れ味に驚くハインツさんを面白がった。

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