もう私には関係ないけど
七見がトイレに立ったあと、蘭と春香が喋っていて、蜂谷と杏は沈黙していた。
なんだろう。
気まずい……。
なにかこう、パアッと盛り上がる話題はないだろうか。
パアッと。
「杏」
「ははははは、はいっ」
と蜂谷の呼びかけに、変な気合いの入り方で答えてしまう。
声も大きくなってしまい、蘭たちもピタリと黙った。
だが、彼女らは不自然なくらい素早く、話に戻っていってしまう。
なにかこう……気を遣わせて、ごめん、と蘭たちに思っていると、
「明日は暇か?」
と蜂谷が訊いてきた。
「えっ?
仕事終わってから?
暇だけど?」
「じゃあ、二人でどっか行くか」
「あ、うん。
そうだねっ」
顔はこちらを見ていないが、蘭たちが全身耳のようになっているのはわかっていた。
「なになにー、二人で約束ー?」
と七見が戻ってきて、蜂谷と自分の椅子の背もたれに手をかける。
「……付き合い始めたら、いちいち約束しなくても、一緒に居るものかなと思ってたんだが」
と蜂谷が、ぼそりと言うのが聞こえた。
そ、そういえば、蘭たちと居たり、さっさと帰ったりで、なかなか蜂谷と居る時間もない。
「明日、何処行こうか?」
と言ってみたが、
「何処でもいいぞ」
と素っ気ない答えが返ってくる。
怒っているのか、照れているのか。
判断難しいな、蜂谷……と思っていると、席に戻り、こちらを見ている七見と目が合った。
なにやら笑っている。
店の外に出て、それぞれ話しながら駅に向かう。
蜂谷はまた車を置いて帰るようだった。
まあ、その方が明日、一緒に電車で来られるが。
……また課長と一悶着ないだろうな、と一瞬、思ってしまった。
でも、課長は明日は車かな、と思ったとき、蜂谷が側に来かけたのだが、ちょうど、春香に呼ばれ、そちらと話し出す。
それを振り返りながら、こんなこと、昔もあったな、と思い出していた。
蜂谷が自分に話しかけようとしたら、他の子が呼びとめたりして、すごく悲しくなったり。
なんだかもう遠い記憶だな、と空を見上げたとき、
「なにやら君らはいつまでも高校生のようにぎこちなくて、初々しいね」
といつの間にか側に来ていた七見が言ってくる。
「ま、課長以上に初々しくて、ぎこちない人も居ないかもしれないけど」
そう付け足し、笑っていたが。
そして、
「あの人、元既婚者だよね?」
と確認するように言ってくる。
そうなんだけど。
なんで、蜂谷以上に、ああなんだろうな。
そうかと思えば、強引だし。
……いや、私にはもう関係ないけどさ、と思いながら、近づく駅の灯りを見た。
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