君と過ごす毎日は
本当に、夢みたいだと思う。
まさか彼女と付き合えるなんて、思ってもいなかった。
ずっと、憧れの存在だった。
振り向いて欲しくて押し気味のアプローチをしていた。
だけど彼女は、桜のように柔らかく笑ってかわすだけだった。
(…だから、フラれるんだと思ってたんだよな)
卵焼きを食べながら、右隣を見る。
「結城?どうしたの?」
そこには、桜のように柔らかな笑顔を浮かべた彼女ーさくらがいる。
彼女の後ろに広がるさくらの絨毯を見て、綺麗だと思った。
まるで、この場所が、結城とさくらの頭上に咲いている桜の木も含めて特別に思えた。
「ううん……何でもないよ。楽しいなって、幸せだなって思ったんだ」
「なにそれ、大袈裟だよ」
「大袈裟なんかじゃないよ、あの時の俺は必死だったんだから」
「そうだっけ。私も、必死だったんだよ」
さくらが目を細めて笑う。
結城も、同意するように頭を撫でた。
あの時ー、1年前は必死だった。
さくらに告白してフラれても諦められなくて、アプローチを続けていた。
(その時は、手応えなかったんだよな)
変化が出始めたのは、さくらと祭りに行った後からだった。
『さくらちゃんとお前のこと好きなんじゃないの?』
槇にそう言われた時、正直驚いた。
そんな風に見えたのかと、同時に嬉しくもなった。
もし本当にそうだったなら、これまでの苦労は無駄ではなかったのだ。
(それから、文化祭誘ったり試験勉強一緒にしたりしたんだよな)
年明けに、さくらから告白の返事を貰えた時は嬉しかった。
(頑張ったよな)
カバンからスマホを取り出し、さくらを見る。
いつの間にかお弁当を片付け終えていた。
結城が考え事をしている間に、片付けてくれたのだろう。
「ありがとう、さくら」
「いいのよ。ねぇ、結城。就職先、決めた?」
「うん。この近くの、製造業の会社に就きたいんだ。さくらは?」
「私は……離れちゃうなぁ。東京の方に行くつもりなんだ。私が就きたい職業の経験を積めるお店が、東京にあるんだ」
「………そうなんだ。前に、見せてくれたお店?」
「そう。あそこに行きたくて。私が、尊敬してる人もいるの……結城と、一緒にいたいよだけど、夢を諦めたくないんだ。そのために、今の大学に来たから」
寂しそうに眉を下げて笑うさくらを抱き寄せた。
結城といたい気持ちと、夢を目指す間で揺れる彼女を見て、胸が痛んだ。
(前から聞いてはいたけどー)
行かないでと、引き留めてしまうことはできる。
そうすれば、さくらと近くにいられる。
(だけど、それはー)
できるなら、結城もさくらと一緒にいたい。
そのためなら、犠牲を払う覚悟だってある。
「結城?」
「……」
心配そうに見てくるさくらに苦笑を見せて、目線を逸らした。
ー彼女が東京に行くと言うならば、俺は。
(俺の就きたい会社も、東京にとあるし、そっちに就職するのもいいかもしれない)
「さくら」
顔を上げて、ゆっくりとさくらの頬に触れた。
「俺も、東京行くよ。向こうで、一緒にいよう」
「え?だけど、結城はー」
「俺も、向こうの会社受ける。俺の就きたい会社、東京にもあるんだ。だから、一緒に東京行こう?」
さくらを真っ直ぐに見ると、彼女は瞳を潤ませた。
ポロッと涙がひと粒こぼれ落ちるのと、結城に抱きつくのは同時だった。
「……うんっ、うん!…一緒に、東京……行こうね!……2人で」
結城の肩に頬を押し当てて、さくらが言う。
その頭を撫でながら、結城は大きく頷いた。
「おう。もちろんだ。絶対、一緒に行こうな」
さくらを抱きしめながら、頬が濡れるのを感じた。
彼女を泣かせてしまうなんて、まだまだだな。
そう思いながら、腕に力を込める。
愛おしさでいっぱいになりながら、さくらを抱きしめ続けた。
青く晴れた空に、桜吹雪が巻き起こる。
それは、風に巻かれるようにして2人の間を吹き抜けていく。
まるで、桜たちが『頑張れ』と応援してくれているかのようだ。
(ああ、幸せだな)
さくらにこんなにも、思ってもらえて。
一緒にいたいと言われて、結城のためにこんなにも泣いてくれる。
離したくない、と思った。離さないと。
(きっと、始めから決まっていたんだ)
さくらの手を離せなくなることは。
彼女と出会い、恋に落ちたあの日から、決まっていたのだ。
結城はさくらと出会えた奇跡を噛み締めながら、大切に大切に、彼女を抱きしめた。
「……ありがとう…俺と、出会ってくれて」
ポツリと呟いた言葉に、さくらが顔を上げた。
涙に濡れた瞳で結城を見上げてくる。
「………そんなの……私のセリフ!ありがとう、結城!」
涙に濡れながら、ニコッと笑ったさくらが抱きついてくる。
柔らかく彼女を包み込む、青空に誓いをたてよう。
ーこの先もずっと、2人で歩いていく。
彼女を誰よりも幸せにすると誓おう。
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