勇気を振り絞った、その先はー。

年末、結城に電話をかけた時は期待と不安が半分ずつ入り混じっていた。

結城を初詣に誘った時、心臓がこれでもかというほど脈打っていた。

あまりにも早鐘を打っていて、痛いくらいに。

そして、今は結城にメッセージを送り終わったところだ。

震える指で画面をスクロールする。

心臓が不安に暴れていた。

『ねぇ、来週の課題、確認したいことがあるんだけど』

『?写真も貼り付けるだけだろ?修正あった?』

『追加の資料があったの。そこに、写真とデータ両方なんだ』

『あー、それなら金曜日、時間ある?』

『午後から講義だから、午前なら空いてるよ。結城は?』

『俺も。11時半とかでもいい?』

『もちろん。図書室に集合ね』

スマホを放り出して、ベッドにダイブする。

遂に、この時が来た。

この気持ちを、伝える時が。

(まさか、本当に好きになるなんて)

本当はずっと前から、わかっていた。

結城を好きになると。

ーだけど、怖くて、勇気が出なかったんだ。

ずっと、あの時のトラウマに怯えていた。

結城と話して、あの人とは違う、安心できると思った。

(……金曜日に、伝えるんだ)

さくらはゆっくりと目を閉じた。

その日、夢を見た。とても、幸せな夢を。

よくおぼえていないけれど夢の中で結城と一緒にいた。

ー正夢になればいいのに。


「お待たせ」

図書室のドアを開けると、窓際に座っていた結城が振り向いた。

「お疲れ様」

その顔を見て、さくらの鼓動が早くなっていく。

一歩ずつ近づいて、結城に資料を渡した。

「はい、これ」

「ありがとう」

「私、こっちの資料コピーしてくるね」

結城の手元にあったレポート用紙を取り上げて、コピー機へ向かう。

(伝えるって決めたけど、やっぱり緊張するなぁ)

レポートのコピーを終えて図書館を出ると、結城が待っていてくれていた。

「じゃ行こうか」

「さくら」

結城の真剣な声に、振り返る。

そこには、いつになく赤い顔の結城がいた。

「改めて言うよ、俺と付き合ってほしい」

「私も、結城が好きだよ。…よろしく」

彼を見上げると、驚いたように目を見開いていた。

信じてもらえていないのだろうか。

「結城?好きだよ」

結城の服の裾を引きながら言うと、彼はハッとしたように視線を下げた。

「………俺も好き」

ガハッと、抱きついてきて強い力で抱きしめられる。

その力強さに、これは現実なのだと思った。(……自分の素直な気持ちを認めるのって難しいけど大事なんだな)

結城と手を繋いで歩きながら想う。

だって、もし認めずにいたら結城と付き合うことはなかったと思うから。

(私は、きっとー。)

今も課題を済ませて帰っていただろう。

だけど、隣には結城がいる。

さくらの心を柔らかくしてくれた、結城が。

恋に臆病になって、目を閉じていたさくらを照らしてくれたのは結城だった。

彼がいてくれたから、さくらは前に進むことができたのだ。

(………結城の、おかげだよ)

そんな想いを込めて、彼の手を握りしめた。

もう、認められなかった頃とは違う。

今のさくらには、勇気がある。

勇気をくれたのは、他の誰でもない、結城だ。

結城のおかげで、さくらはまた、恋をしている。

ーこの手は、離さない。

空を見上げて、結城を幸せにしようと誓った。

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