寒空の下、いつもキミを想う
文化祭が終わり約1ヶ月半、冬休みに入った。
さくらにお見舞いに来てもらった日から、まともに話せないままだった。
(クリスマスも、友達過ごしたみたいだし)
年明けも、会う約束はしていない。
放り出したスマホは静まり返ったままで、音1つしなかった。
壁時計を見上げると、24時になろうとしていた。
リビングから引き上げて、寝室に向かう。
スマホを拾い上げてメッセージアプリを開いた。
(さくらに、メッセージを…)
さくらのトークを開いた時、突然それが鳴り出して驚いた。
「え、電話!?」
画面に浮かんだ、さくらの文字。
まさか電話がかかってくるなんて。
「もしもし?さくら?」
「結城。ごめんね、遅くに。もう寝る?」
「いや、まだ寝ないよ。年明けまで起きてるつもりだったから」
「それならよかった。ねぇ結城、一緒に年越ししようよ」
「おう」
スマホをスピーカーに設定して枕元に置き、天井を見上げた。
今年は、いい年越しだ。
さくらと電話を繋いで年越しができると思わなかった。
(……嬉しいな)
さくらとたわいもない話をしながら、暖かな気持ちで満たされていくのを感じた。
(あー……幸せだなぁ)
ずっと、こうしていられたらいい。
願わくば、さくらの隣にいるのは結城がいい。
「ーそれでね、あの時は……あ」
ゴーン、ゴーンと除夜の鐘が鳴り響いた。
年越しの知らせを聞いて、結城はスマホに目を向けた。
「あけましておめでとう、さくら」
「あけましておめでとう。これからも、よろしくね結城」
「こちらこそ」
「あ、この後どうしよっか?」
「俺はもう少し話したいな」
「じゃあ」
その後、3時間ほど話して、眠りについた。
初夢を見た。とても切ない、幸せな夢を。
さくらと初詣に行く約束をした結城は、神社の前にある鳥居に寄りかかっていた。
さくらは30分経ってもやって来なかった。
(もう少ししたら、来るかな)
寒さに身を縮めていると、空から雪が降ってきた。
まるで、寂しいこの時間を埋めるかのように降ってくる雪を、手のひらに包み込んだ。
「お待たせー」
しばらくして、足音とともに愛おしい声が聞こえてくる。
雪の降る中に、さくらがいた。
寒い、寒い、空の下。さくらと、2人。
幸せな時間だった。他に、誰もいない。
邪魔をされることも、揶揄われることもない。
結城はさくらと手を繋いで、境内に上がる。
ーこの時間がずっと続けばいいのに。
まさか、本当にこうなるなんて。
思いもしなかったんだ、昨日までは。
結城はスマホを見ながら、呆然としていた。
昨日、両親と一緒に親戚に新年の挨拶に行った帰り、さくらから連絡が来たのだ。
『明日ひま?午後か午前、空いてる?』
『午前は空いてるよ』
『本当?じゃあさ、明日の午前中に、私と初詣行かない?』
そのメッセージを見た時、驚きのあまりスマホを落としてしまった。
まさか、さくらから初詣に誘われる日が来るなんて。
結城は震える指で『行く!』と返信したのだった。
その後、勢いのままに時間と待ち合わせ場所が決まった。
そして今は、さくらを待っている状態だ。
(本当に、あの夢と全く同じだな)
違うところを挙げるなら、雪が降っていないくらいだ。
鳥居に寄りかかって空を見上げていると、足音が聞こえてきた。
「結城」
もう、何回も聞いた愛おしい声に名前を呼ばれる。
声の方には、さくらがいた。
「……さくら」
「行こうか」
さくらに言われて、2人で境内を歩く。
彼女が歩く度にピアスが揺れる。
「ピアス、増やしたの」
「そう!ここと耳たぶの変えたの。可愛いでしょ?」
髪を耳にかけて、さくらが嬉しそうに言う。
斜めに結城を見る横顔が可愛くて、ギュッと手を握った。
(……可愛すぎる)
夢で見たよりも、幸せかもしれない。
賽銭箱に小銭を投げ入れて、手を合わせる。
目を閉じているさくらを見て、ふと思う。
さくらのためなら、寒空の下でいつまでも待っていられると。
ー冷たい空の下で、いつまでもキミを想う。
この想いは、消えたりしない。
(だってー)
目を開けたさくらが境内を降りて、こちらを振り返る。
「行こう、結城」
「……うん」
ー俺は、キミのためならいつだって、駆けつけるから。
おみくじの前で手を振るさくらに、少し笑って隣に並んだ。
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