揺れる心
結城のことを意識し始めてから、1ヶ月ほどが経った。
10月も下旬になり、大学内はどことなくフワフワとした空気が漂っていた。
(文化祭が近いからかな)
そのせいだろうか、さくらの目の前にチャラいことで有名な男子が立っているのは。
「井上くん、何の用?」
意外にも、目の前の彼は顔を赤くしている。
さくらと目が合うと、慌てたように逸す。
(………あー…これは……)
もしやと思った時には、井上がグッと拳を握りしめた。
「好きだ、付き合ってほしい」
「……ごめんなさい」
さくらは迷いなく頭を下げた。
顔を上げると、井上がポカンとしている。
「え…あー、そうだよな。……彼氏、いたっけ?」
「いないけど、気になる人はいるかな」
「……そっか、じゃ」
井上が気まずそうに、引き返して行く。
さくらはゆっくりと近くのベンチに座り込んだ。
「ふー…まさか、このタイミングで告白されるなんて」
結城のことを気になる人、と言う日が来るとは思わなかった。
(まぁ、実際、気になってはいるし。…好きではないけど)
だけど、この気持ちも最近は曖昧になってきている。
周りから付き合っているのかと聞かれることも増えた。
そのくらい、2人の距離が近いと言うことだろう。
(間違ってはないけど)
さくらにはまだ、胸に咲いた花の名前を付ける勇気はなかった。
(だけど、それもー)
ずっと待っていてくれている結城に悪いと思う。
スマホを見ると、後10分で講義の時間だった。
慌てて立ち上がり、講義室へと急ぐ。
(結城と、どうなりたいか。それを考えないと)
彼と付き合いたいのか、このままでいたいのか決めないと。
どちらにしてもー、返事を、しないと。
ずっと、ずっと待っていてくれている結城に。
素直な気持ちを。
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