季節外れの桜

夏休みも終盤に差し掛かり、気づけば、8月も後半になっていた。

ショッピングモールのフードコートに座り、向かいのさくらを見る。

少し視線を下げて、何か考え込むようにしている姿は綺麗だった。

その優しい雰囲気に似合わない、真剣な表情。

まるで、強く吹きつける風に必死に耐えている桜の花びらのようだ。

(……お姉ちゃんって、桜みたいな人だよね)

ボンヤリとそんなことを思っていると、机の上に置かれていたブザーが振動する。

さくらは気づいていないようで、結梨はそっと立ち上がり、注文を受け取りに向かった。

「あれ?何だったけ……?」

さくらが思考の海からから戻って来たのは、お昼を食べ終えてすぐだった。

家に向かって歩きながら、結梨の隣でキョトンとしている。

「珍しいね。買い物の帰りだよ。すごく考え込んでたけど、悩み事?」

さくらを見上げると、彼女は曖昧に笑う。

その表情で、結城のことだろうかと思い当たった。

(お祭りの時、いい感じだったみたいだし、気になってるのかな?)

玄関を上がり、リビングに入ると、さくらはイトを抱き上げてボーッとしていた。

その間に、結梨はお茶を入れて、さくらに渡す。

「ありがとう」

「うん」

アイスも取ってこようと、冷凍庫を漁る。

「ねぇ結梨」

「んー?」

適当に2つほど取り上げてリビングのソファーに座る。

「私、結城のこと、好きかもしれない」

「え……?」

(もう好きなんだと思ったんだけど!?)

自覚するのが遅すぎる、と内心で突っ込みながら、さくらが『かもしれない』と確定ではないと言ったことに驚いた。

(本当に、もう……)

元カレが最悪だっただけに、怖いのはわかる。

だけど、結城がそんな人じゃないことは、さくらが1番わかっているはずだ。

「気になるってこと?」

「うん。何回も告白されたり、一緒にいる時間が長いからかな。…隣にいることが、当たり前みたいな気がしてるの」

「そっか」

さくらは頬を赤くしながら、イトの頭を撫でている。

結梨はアイスを食べながら、スマホを取り出した。

『さくらが都合のいい日、わかる?』

結城からのメッセージを見て、さくらに視線を戻した。

(これは、もうひと押しかな)

「お姉ちゃん」

スマホの画面を見せながら、さくらに話しかける。

結城からデートのお誘いだと言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

(結城さんだから、この笑顔を吐き出せたんだよね)

それに気づかないなんて、気の毒だ。

新緑の中に揺れる、桜に気づかないなんて。

ー季節外れの桜が満開になりますように。

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