冷めない熱と夏休み

さくらと祭りに行ってから2周間が経ち、大学は夏休みに入った。

集中講義が、明後日から始まるとは言え、さくらと会えないのは胸が痛い。

(祭りの日、いい雰囲気だと思ったんだけどなあ)

自販機でミネラルウォーターを買い、木陰に移動する。

ストレッチをしていると、ポンと肩に手が置かれた。

「なーんか、ご機嫌だね。進展あったの?」

「中山先輩」

陸上部の先輩、中山晴が楽しそうにこちらを見ている。

晴は、結城がさくらに片想いしいてるのを知っていて、応援してくれている。

(たまに揶揄われるけど、応援してくれるいい人なんだよな)

そう思っていると、晴が隣に腰を下ろした。

「この間、祭り、行って来たんだっけ?」

「はい。めっちゃ楽しかったです」

「よかったじゃん!やっぱり、さくらちゃんも結城のこと好きなんじゃないのか?祭り断られなかったんだろう?そうじゃなくても、いい感じなんだし、ここらで攻めてみたら?」

「うーん……でも俺、攻めすぎな気がして」

そこまで言って、最近のさくらの反応なら、大丈夫かもしれないと思い直した。

いつもなら軽くあしらわれていたことも、笑顔で受け入れられている。

(さくらは、俺を迷惑だと思っていない)

もしかして、もしかするのだろうか。

自惚れてはいけないと、冷静なささやきが頭の片隅でこだまするが1度上がった熱は、下がる気配がなかった。

「おー?心当たりがあるのか?」

晴がニヤニヤしながら聞いてくる。

別に、心当たりがあるわけではないけれどー。

「頑張ってみます」

結城は立ち上がり、グラウンドに向かって走り出した。


「お疲れー」

講義が終わると、さくらが声をかけてくれた。

「おー」

「一緒に帰ろうよ」

カバンを持って立ち上がった結城の隣に立って、さくらが笑う。

(……何だ?ツンデレ、どこいった?)

いつも以上に素直なさくらに違和感を覚えつつも、結城に気を許してくれているのだろうかと考えることにした。

大学を出て、駅に向かう途中、公園の前でさくらが足を止めた。

彼女の視線の先にあるのは、ジェラートの露店だ。

「行く?」

「いいの?」

「おう、今日暑いし、ちょうどいいだろ」

先に立って歩き出し、メニュー表を見る。

(せっかくだから、何か食べてみるか)

「チョコと抹茶のダブルください」

「バニラとピスタチオのダブルください」

結城に続いて、さくらが素早く注文する。

彼女の手に財布が握られているのを確認して、パッとお金を出すと、さくらが目を丸くしてこちらを見た。

「自分のは、払うから!」

「いいんだよ」

ジェラートを受け取りながら、さくらを見て笑う。

小銭を財布に入れて、スプーンをさくらの口に突っ込んだ。

「祭り、楽しかったお礼。あっちで食べようぜ」

呆然としているさくらの手を引いて、木陰に連れていく。

ジェラートを食べながら、講義が始まるまでの話やバイト、イトのことなど沢山の話をした。

その間、さくらはニコニコしていて、楽しそうだった。

(前よりも、自然体でいてくれるんだよな)

嬉しくて頬が緩んだ時、槇の言葉を思い出し、ジェラートを食べた。

「?結城、どうしたの?顔、赤いよ」

「………別に」

言えるわけがない、あんなこと。

(軽いやつだと思われたくないし)

さくらに顔を見られないように背けて、ジェラートを食べる。

浮かされた熱は上がったまま、夏の日差しに照らされて下がることを知らない。

『さくらちゃん、お前のこと好きかもよ?』

そうだったら、いいのにと自惚れてしまいそうだ。

(だってー)

さくらが、あまりに楽しそうに笑うから。

ーこんな顔されたら、自惚れたくもなるだろ。

ーこの笑顔が、俺だけに向けられるものならいいのに。

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