ツンデレすぎる
蒸し暑くなってきた、6月半ば。
結梨は目の前の光景に顔を顰めていた。
「お願い!今度の祭り、一緒に行こうよ」
「え〜、その日は午前バイトなのよね」
(バイトも10時までのくせに)
祭りは8時過ぎまでやっているので、間に合うのに、何を迷っているのだろう。
(本当、ツンデレなんだから)
さくらを見ると嬉しそうな顔をしていた。
結城は気づいてないらしく、眉を下げている。
「お姉ちゃん、バイト10時まででしょ?そのお祭り、どこであるの?」
「俺の地元だよ。10時か……うーん、バスの時間が微妙かな」
「11時半なら乗れますよ」
「そうね。だけど、待たせちゃうの申し訳ないわ」
さくらが眉を下げながら言う。
その他には、バイト用のバッグが握られていた。
「俺は大丈夫だよ。その時間だと混むかもしれないから気を付けて来てね」
「わかったわ。結城も、涼しい場所で待っててね」
そこから2人が動く気配がなかったので、結梨は気づかれないようにゆっくりと離れて行く。
(何で、付き合わないんだろ。お似合いなのにな)
少しだけ、結城を気の毒に思いながら家に帰る。
玄関を上がり、リビングのソファに座り込んだ。
「まぁ、“誰かさん”のことがあったし無理もないよね」
ため息をついて、エアコンの電源を入れた。
もうすぐ7月になるからか、暑さが酷くなっていた。
(……学校に行かなくなって、もう2週間くらいか)
クラスメイトとの距離感に悩み、耐えられなくなって学校に行かなくなってしまった。
担任からは、連絡が来ているらしい。
母が電話に出ているため、結梨にはその事を伝えられていないのだ。
(私が引きこもってる理由を聞いてこないのも、それが理由かな)
スマホを取り出して、メモを開く。
『ある雨の日』と題名で、途中まで打っていた文章が表示された。
降りしきる雨の中、ユリは1人公園にいた。
冷たい、冷たい雨がユリの全身を濡らしていく。
(溶ける、流れていくみたい。要らないものが、全部)
心の奥底に溜まった黒い感情が、流れて行くようだった。
傘も差さずに、全身で雨を受け止める。
目を閉じた。
見たくないなら、目を閉じたらいい。
(あー……家には帰れないな)
俯いた時、ふっと影が差した。
「何してんの、宮坂」
「……鈴木…」
そこにいたのは、クラスメイトの鈴木颯汰だった。
彼は自分が濡れるのも構わず、ユリに傘を差し出してくれる。
「鈴木」
そこまで打った時、玄関の開く音がして、慌ててメモを閉じた。
「ただいまー」
声と共にさくらがリビングに入ってくる。
「おかえり」
手には祭りのチラシを持っていた。
さくらは結梨の隣に座ると、チラシをテーブルに置いた。
スマホでメッセージを送っているところを見ると、結城と祭りの約束をしたのだろう。
結梨が帰ってからも、一緒にいたのだろうか。
(お姉ちゃんが素直になれたら秒読みだと思うんだけどな)
そう思いながら、さくらの肩に頭を乗せた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
スマホから顔を上げたさくらを見上げる。
「ツンデレも、程々にね。お姉ちゃんの性格なのは知ってるけど、結城さん、誤解しちゃうよ」
「……善処するわ。だけど、結城のことを気になっているも本当なの。“元カレ”のせいで素直に認めていいのかわからないんだけどね」
「…そっか。その人のことは気にしないで、お姉ちゃんの気持ちの向くままに決めたらいいと思うよ」
「うん、ありがとう、結梨」
さくらに抱きしめられて、胸が苦しくなった。
さくらが恋に臆病になったのは、彼女自身のせいじゃないのに。
(どうして、お姉ちゃんが責任を感じてるんだろう)
ー2人が、うまく行きますように。
そう思いながら、さくらを抱きしめ返した。
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