恋のチャンスと有力な協力者
「入って」
「お、お邪魔します」
結城はここ最近で1番緊張していた。
さくらの後に続き、玄関へ上がる。
「今は妹しかいないから好きにくつろいで」
「お構いなく」
さくらに連れられるままに彼女の部屋に入り、クッションに腰を下ろした。
(ここが、さくらの部屋かぁ)
まさか、さくらの家に上がる日が来るとは。
喜びと戸惑いで心臓が痛いくらいに、音を立てた。
そんな結城の心境などつゆ知らず、さくらはお茶を淹れてくると出て行ってしまった。
(とりあえず、レポート用紙と印刷してきた写真を…)
カバンからレポートと写真を取り出す。
「あ、これは貼っておいて大丈夫そう」
ペンケースからノリを取り出していると、ガチャリとドアが開いた。
「結城さん」
「結梨ちゃん、お邪魔してます」
入って来たのは、さくらではなく妹の結梨だった。
彼女の腕には水無月アイドルのイトが抱かれている。
「さくらは、リビングに降りたみたいだよ」
「知ってます。結城さんに話があって来たんです」
「俺に?」
「はい、お姉ちゃんのことで」
さくらの妹である結梨から、直接話を聞けるのは大きいだろう。
(好きなタイプとか聞けたら嬉しいな)
「さくらが、どうしたの?」
「お姉ちゃん今は恋愛する気ないって言ってたけど、気になる人がいるみたいなんです」
「そうなの?さくらはそんな事言ってなかったけど」
「多分、自覚がないんですよ。家でもその人の事をよく話していますから」
「んー……さくらが気になってそうなヤツ、俺の周りにはいないみたいだけどな」
拓馬のことは何とも思っていないようだった。
「案外、近くにいるかもしれないですよ?」
結梨の言葉に、もしかしてと淡い期待が湧いてくる。
(そうだったら嬉しいけど、どうだろう?)
さくらは感情をあまり出さない。
無表情というわけでもないが、そういう性格なのだろう。
「結梨ちゃんは、さくらの考えてる事わかる?さくら、あまり感情が表に出ないだろ?」
「?」
結城の言葉に、結梨が意外だと言いたげに首を傾げた。
家では違うのだろうか。
「家では違うの?」
「はい。感情が出にくいのはそうですが、全く出ないわけじゃないんです」
「そうなんだ。確かに、友達と話してる時は楽しそうにしてるな」
「そうでしょう?結城さんと話してる時も、困った顔しながら、楽しそうにしてるはずですよ」
結梨の言葉に今度は結城が首を傾げた。
(俺といる時も楽しそう?)
ー本当にそうだったらいいのに。
そう思っていると、ガチャリとドアが開いた。
「あれ、結梨。来てたの」
「お姉ちゃんいなかったから、勝手に入っちゃった」
「別にいいのよ。結梨も、課題する間ここにいる?」
「いてもいいの?」
「もちろん。退屈かもしれないけど、いい?」
「漫画読んでるから」
結梨が本棚から漫画を取り出して、ベッドにもたれた。
漫画を読み始めた結梨を見て、さくらが柔らかな笑顔を浮かべる。
結梨の言っていた通りだ。
(単純に、ツンデレなだけなんだな)
いつも、結城につっけんどんな態度を取るけれど、嫌がっているように見えなかったのはそれが理由らしい。
(結梨ちゃんのおかげだな)
有力な協力者を得た事を喜びながら、レポート用紙をさくらに渡す。
「これ、写真貼ったんだけど、どうかな?」
「すごくいい!ありがとう、結城。今回はレポートを提出するだけ?」
「そうだよ。後は提出だけ」
「おー!今回は結構スムーズにできたね」
「うん、お疲れ様」
それまで漫画を読んでいた結梨が顔を上げてこちらにやって来る。
「課題、終わったの?」
「うん」
「ふーん」
漫画をベッドに置いて、結梨が結城のほうを向いた。
それから、さくらに目を向ける。
「結城さん、まだ時間大丈夫ですか?」「え?うん電車まだだし」
「そっか、それなら」
さくらの肩に抱きつく。
「お姉ちゃんと、お出かけして来たらどうですか?」
「え!?ちょっと結梨?」
「お姉ちゃん、買いたいものあるけど、荷物多くなっちゃうから困るって言ってたじゃん」
「そうだけど」
結梨の提案に、さくらが迷うように結城を見る。
結梨は楽しそうにニヤニヤしていた。
(これって…デートのセッティング!?)
結梨を見つめ返すと、グッと親指を立ててくる。
結城もコクリト頷いて、カバンを整理する。
「行こうよ、さくら」
「え?」
カバンを持ち上げながら言うと、さくらがポカンとして見上げて来た。
その間に結梨が立ち上がり、さくらのカバンを取り上げる。
「そろそろ暑くなってくるし、夏服でも買って来たら?」
「そうね、結城、荷物お願いしてもいい?」
「もちろん」
「よし、行きましょうか」
結梨からカバンを受け取り、さくらが部屋を出ていく。
その後ろを結梨と結城が続いた。
「ありがとう、結梨ちゃん」
「いいんですよ」
さくらに気づかれないように、ガッツポーズをした。
「駅から近いし、ここで買い物しようかな。電車、何分後?」
「1時間後に乗るから大丈夫だよ。何なら、1回帰る?」
「うーん、申し訳ないからいいわ」
ショッピングモールに入り、2階のさくらが好きな服屋に向かう。
店内にはシアーシャツや半袖の涼しげな夏服が並んでいた。
「これ、可愛い!」
さくらが小花柄のワンピースを取り上げる。
肩の部分が開いたオフショルのワンピースでさくらによく似合いそうだ。
「すごく可愛いよ。さくらに似合いそうだな」
「……なんか、すごく素直ね。この間まで避けてたくせに」
「それは」
反論しようとすると、さくらが楽しそうに笑った。
(ま、いいか)
レジに向かうさくらを見ながら、店の外へ出る。
「はー、楽しかったなぁ」
ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
さくらと出かけられて嬉しかった。
(これも、結梨ちゃんのおかげだな)
結城に協力的な結梨に感謝だ。
ーこれからも、頑張ろう。
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