巨大熊の掌底大虐殺
両目洞窟人間
Shopping Mall Palm Hit Massacre
その日の14時、ショッピングモールのフードコートに突如巨大熊が出現。男子高校生のタケルが「でっか」と呟いた瞬間、掌底をくらった。
ぱんぶしゅるるる!!!と音が響き、タケルの身体は破裂し、骨が熊の足元に落ちた。
誰も何が起きたかわからなかった。
呆然とする人々は次々と掌底打ちされ、破裂していった。
中年男性がロリータ服を着た夏子のテーブルに倒れ込んだ。その時、夏子はイヤホンをして大音量でスマホを見ていて、その状況に気がついていなかった。夏子が驚き、立ち上がり、周りを見渡す。
「なにこれ」夏子が呟いた。
血まみれの人々が、我先に逃げようとしていた。一瞬にして異常が起きていた。
夏子の近くで中年の女性が「いやああ!!!」と叫んだ。その中年女性の前に巨大熊が立っていた。夏子は息を飲んだ。中年女性が目を見開き、後ずさる。「助けっ」その瞬間に巨大熊が掌底を打ち、ぱんぶしゅるるる!!!と中年女性は破裂した。
その血と肉片を夏子は被った。
巨大熊が夏子を見る。
あ、死ぬんだ私。
夏子の眼の前から巨大熊が消えた。
フードコートのどこかでぱんぶしゅるるる!!!って音が聞こえた。
夏子が呆然としていると、手を掴まれた。
先ほど、テーブルに倒れ込んできた中年男性だった。
「に、にに、逃げるぞ!」と言い、夏子を引っ張った。
巨大熊はフードコートだけでなく、ショッピングモールのあちこちで掌底を打ち続けた。男も女も、老人も子供も、携帯ショップの店員もウォーターサーバーの営業も見境なく掌底を打たれ、水風船のようにはじけた。
モールの床はあっという間に肉片と骨が浮かぶ血の海になった。
夏子と中年男性は楽器屋の真向かいにある、本屋に逃げ込んだ。
あれからも何時間か経ったはずだった。それでもあちこちから叫び声とぱんぶしゅるるる!!!が聞こえた。
その音を聞く度に夏子は目の前で中年女性が弾け飛んだ瞬間のフラッシュバックした。なんでこんな日にショッピングモールに来てしまったんだろう。
そしてこんなことになるんだったら。
「ロリ服着てくるんじゃなかった」夏子は呟いていた。
「……その服って高いの?おじさん、GUでさ」夏子を助けてくれた中年男性の「ヤマジ」は自分の血で濡れたスヌーピーのスウェットを指差した。スヌーピーの片目に肉片がへばり付いていた。ヤマジは多分和ませようとしていた。
近くでぱんぶしゅるるる!!!と音がした。夏子とヤマジは身を固くした。
しばらくすると「おかあさーん。おかあさーん」と子供の泣きじゃくる声が聞こえた。
夏子はその声を聞いて、立ち上がる。
「あ、あぶないよ」とヤマジが引き留めるのも気にせず夏子はその声のする方に向かう。
向かいの楽器屋からだった。
くるぶしまで浸かる血の川の通路を横切り、声のする方に行く。
店内奥のアコースティックギターが沢山置かれた場所に、血溜まりができていて、その真ん中に血まみれの小さな女の子がいた。
「おかあさん。おかあしゃん」
小さな女の子は泣きながら横たわる骨を揺さぶっていた。
夏子は状況を理解し、その子に近づいて、やさしく抱きしめた。
その女の子「ちはる」は夏子の膝の上で眠っていた。あれからちはるは泣き続け、そして糸が切れた人形のように眠ってしまった。
夏子はちはるの髪を撫でた。
ちはるは目の前で母を殺された。その気持ちをどう想像すればいいかすらわからなかった。
けれども、とても苦しく辛いことだけは夏子にもわかった。
ちはるの閉じた目から涙が流れ出た。
「……本屋を出る。ここから逃げる」夏子は呟いた。
「だ、だめだよ。あの熊はおかしい。よくわからないけども、"瞬間移動"してるかもしれない。見つかったら殺される」ヤマジは言う。
「でも、瞬間移動してるんだったら、ここにいても殺されるかもだよ。だって隠れてたんだよ、ちはるちゃんのお母さんは」
「……」
「…なんでちはるちゃんだけ助かったのかな。そういえば、私もそうだよ。あの熊と目があった。けども私は襲われなかった。もしかしたらあの熊って人間を襲うルールみたいなのがあるかも。もしかしたら音に反応してるとか。クワイエット・プレイスみたいに」
「わ、わからないよ。さっきまでちはるちゃん泣いてたけども襲われなかったんだよ。声や音は関係ないかもしれない。でも、何かが"トリガー"かもしれないんだ。な、夏子ちゃん。相手のルールがわからないうちは動いたらだめだ。ここで助けを待とうよ」
「でも……ちはるちゃんをここにいさせたくない。ちはるちゃんだけでも助けたい」
本屋を抜けて、100メートル歩くと、立体駐車場へ抜ける通路がある。
そこからなら、脱出できるかもしれない。
その計画を伝えても、ヤマジは「ぼ、僕はここで、助けを待つよ」と言った。
「ちはるちゃん。頑張れる?」
夏子が聞くとちはるは頷いた。
夏子は震える手で、ちはるの手を握った。
恐る恐る本屋から出て行く。
夏子とちはるは肉片と骨が散らばる血の川をばしゃばしゃと音を立てて歩く。
夏子の息が荒くなっていく。
いつあの巨大熊が現れるかわからない。
ごめんなさい。と呟いた。何に謝っているかわからなかったけども、そう呟かないといけない気がした。
50メートルほど歩いた。あと半分。
女児向けファンシーショップが左手に見える。そのレジに巨大熊が立っていた。
夏子は立ち止まり、恐怖から口が開く。ちはるの手を強く握る。
巨大熊はレジを出て、店内をゆっくり歩き、夏子たちの前に立った。
はああああああ。
巨大熊は息を吐いた。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
しゃんしゃんしゃんしゃん!!!とシンバルの音が鳴り響いた。
振り向くと楽器屋からだった。
「く、くそ熊!!こ、こっちだよ!!!」
ヤマジがドラムのシンバルを叩き、叫んだ。
夏子はヤマジさん、だめ、と叫ぼうとしたが声が出なかった。
巨大熊は楽器屋を見る。
ヤマジはシンバルを叩き続ける。
「ど、どうした!こっちに来いって!!」
風が吹く。巨大熊が夏子の目の前から消えていた。
瞬間、ヤマジと、夏子は目を瞑った。
しかし、楽器屋に巨大熊が現れない。夏子もヤマジも瞑っていた目を恐る恐る開け、周囲を見渡した。
しばらく時間が流れ、緊張が徐々に解けていく。
ヤマジが楽器屋から出てくる。
夏子とヤマジは目を合わせた。
オルガンの音が響いた。
店内アナウンスの導入音だった。
「まだ生き残っているお客様に連絡致します。巨大熊に襲われないためには、これからお伝えすることをお守りください。それは」
その瞬間、スピーカーからぱんぶしゅるるる!!!と音が響いた。
ヤマジの背後に巨大熊が立っていた。
「あっ」と夏子が呟いた瞬間、巨大熊は掌底を打った。
ぱんぶしゅるるる!!!
夏子にはもう出口に向かう勇気が無かった。夏子はちはるを抱き抱えて、来た道を引き返した。途中でヤマジの骨が漂っていた。それを見ないようにして、夏子は本屋に戻った。
それから、入り組んだ本棚の通路を歩く。
最奥の絵本コーナーに辿り着いた。
「ちはるちゃん。好きな絵本はある?」
そう言うと、ちはるは「うさこちゃんはじょおうさま」を持ってきた。
夏子はちはるを膝に乗せて、その絵本を読み始めた。
夏子には何もわからなかった。
何が"死のトリガー"を引くのか。
みんなは"何か"をした。私はまだ"それ"をしていない。
そして私は"それ"をしたくない。
夏子は絵本を読んだ。なるべく優しい声で。丁寧なトーンで。
「でも、なにか わるいことがおこって
だれかがかなしんで いるとき
こんなふうに そばに いって
なぐさめるのも じょおうさまです」
銃声が鳴り響いた。合間に爆発音も聞こえ、少し揺れた。
その後におびただしい量のぱんぶしゅるるる!!!が聞こえた。
夏子はちはるを抱きしめた。
「死にたくない。死にたくないよお。もうやだ。もうやだよお。」
夏子は泣き続ける。
どうやら泣くこと、そして心が折れることは死のトリガーではないようだった。
巨大熊の掌底大虐殺 両目洞窟人間 @gachahori
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