最終話 卒業

年が明けて三月。英介と志乃生は高校を卒業した。


卒業式の体育館で、仰げば尊し、が、静かに、哀しく、歌われる。


英介と志乃生は目を合わせなかった。


式が終り、帰宅した英介は着替えると、一人海に来ていた。銃を持って。


すると、小さな影が、英介に近付いた。志乃生だ。


波の音か二人を包み込んだ。


「殺れよ!遠慮するな!!」


英介はそう言うと、所持していた銃を海に投げた。


志乃生は静かに、手に持っていた短刀の鞘を抜いた。


「だめ…。出来ない…。こんなのって。」


志乃生の目から涙が零れ落ちる。


すると英介が、志乃生にそっと近付いた。そして、優しく志乃生を抱き寄せると、静かに口付けをした。


瞳を閉じる志乃生。


英介は唇を志乃生から離すと、志乃生の短刀を持つ方の手を掴み、そのまま、自らの脇腹に短刀を突き立てた。


英介の口から、血が滴り落ちる。


「卒業…。おめでとうな…。」


英介はそっと、崩れ落ちた。


志乃生はいつまでも泣き続けた。



(10年後)


「姉さん、喜多の頭目、お亡くなりになりました。」


髙﨑箱の惣代が言った。


喜多箱頭目、つまり、英介の父は癌で亡くなった。


あの卒業式の日、英介が死んだ後、各箱は手打ちをして、抗争は終結していた。


「そう。じゃあ、準備しなきゃね。」


志乃生が惣代に言った。


箱の頭目になった志乃生は父の表の仕事も裏の仕事も引き継いだ。


何度目かの夏がやってきた。


志乃生は浴衣姿に日傘を差して、浜辺に来た。波が静かに打ち寄せる。


ふと目を遣ると、黒焦げになり、朽ち果てた漁船があった。


志乃生はあの夏休みの夜の「花火」を思い出した。


今日も街は闇に覆われていた。真夏の太陽が燦々と照り付けるというのに。


(終)

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得女梨鳥巣(エメリトス) 無邪気な棘 @mujakinatoge

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