第5話 箱

浩と正広は、ガタガタ震えだした。


すると社長が二人にそっと近くと、穏やかに話し掛けた。


「見られちゃったら仕方が無い。でもまぁ、この街で生まれ、この街で育ち、この街で生きる奴なら、いつかは通る道だ。」


社長はそう言うと、銃を一丁手にとって、続けて言った。


「二人とも、これ、撃ってみたくないかい?」


その日を境にして、二人はバイトの後で、社長から道具(武器)の使い方を教わった。


彼らの街を中心にした、この地方一帯には「箱」というものが存在する。


その起源は古く、戦国時代初期に遡る。住民らが大名の支配に抵抗するために組織した自警団が原型と言われる。


「箱」は、リーダーの「頭目」を頂点として、その下に「頭目代」或いは「惣代」がいて、さらにその下に、大体、5人から10人の「角頭」がいる。


また、組織の揉め事を調停するための「目付」という役目もいる。


頭目、惣代、角頭、そして、目付らには、それぞれ5人程度の「兵」が付き従い、守りを固める。


かつて、領主から年貢の強引な取り立てを受けた「箱」は、収入源を得るために「裏稼業」を生業にしていた。


また、時として、支配者側に牙を剥き、暗殺や謀略も司った。


その血塗られた遺伝子は現代も健在である。


半年ほど前の話だが、街の商店街の一角で、雑貨店を経営する男性が、頭部を銃撃されて即死した事件があった。


バイクに乗った二人組の犯行だったそうな。犯人はまだ逮捕されていない。


というか、警察はそもそも犯人を逮捕する気が無い。「箱」の資金に汚染されているからだ。


市役所も例外ではない。「箱」の関係者の生活保護を出し渋った職員が、遺体で発見された事がある。


市役所の職員全員が、心当りが無いと言う。本当は、分かっていたのだが、ここも「箱」の資金で汚染されているのだ。


商店街の喫茶店に、山岡が入ってきた。ある「箱」の「角頭」を務める男だ。


喫茶店のマスターは、封筒を山岡に渡した。中身を確認する山岡。


20万入っていた。


「マスター、安心しなよ。きっちり守ってやるからよぉ。来月も頼むわ。雑貨店の親父みたいになりたくねぇよな?」


山岡はそう言うと、次の集金先に向った。


山岡が所属する「箱」は、みかじめ料が収入源だ。雑貨店の店主はそれを断ったのだ。


だが、住民は、その店主に誰も同情しなかった。それどころか「自業自得だ。」と吐き捨てたのだった。

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