第9話
温泉を満喫した三人は、湯上がりの心地よい疲れとともに、温泉ホテルの和食レストランへと向かった。
入り口をくぐると、和の雰囲気が広がる落ち着いた座敷。低い木製のテーブルの上には、繊細な和紙のランチョンマットが敷かれ、ふかふかの和座布団が三人を迎えていた。
「ふぅ~、気持ちよかったね~。」
今里裏すはが軽く伸びをしながら、座布団に腰を下ろした。
「ほんと、温泉最高だった。でも、すはちゃんが一番楽しんでたね。」
早百が微笑みながら言うと、今里裏すは、は嬉しそうにニコッと笑った。
「滝温泉、ほんと良かった!また来たいな~。」
合亜も頷きながら、メニューを広げた。
「そろそろ注文しよっか。」
三人はそれぞれ、温泉後の食事を楽しみにしながらメニューを選んだ。
今里裏すは、は湯葉御膳、早百は刺身定食、合亜は天ぷら御膳を注文した。
そして、料理が運ばれてくるのを待つ間――
ノートに何かを描く二人
早百と合亜は、持っていたノートを開き、ひそひそと何かを書き始めた。
今里裏すは、は、その様子をじっと見つめる。
「……ねぇ、何描いてるの?」
今里裏すは、が首をかしげながら尋ねると、早百と合亜は一瞬ビクッと肩を震わせた。
「えっ!? あ、いや、その……ちょっとね。」
「ほら、旅の記録! 温泉の感想とか、今日の出来事を書いてるだけ!」
二人は慌ててノートを閉じようとしたが、今里裏すは、は素早くその手を制した。
「ふーん。ちょっと見せて?」
「え、えーっと……」
早百と合亜は一瞬目を合わせた後、しぶしぶノートを開いた。
そこには――
丸がひとつ、ぽつんと描かれていた。
まるで饅頭のような、あるいは煎餅のような、シンプルすぎる円。
「……?」
今里裏すはは、眉をひそめてその絵をじっと見つめた。
「饅頭?……煎餅?」
ぽつりとつぶやくと、早百と合亜はさらに肩を震わせた。
「う、うん、まぁ、そういうこと!」
「そうそう! 温泉饅頭のこと考えてたの!」
二人は必死に誤魔化そうとする。
しかし、今里裏すは、はじーっと二人を見つめた後、
「……ふーん。」
とだけ言い、意外にもあっさりと引き下がった。
二人は内心、ほっと胸を撫で下ろした。
(危なかった……バレなかった……)
実は、そのノートに描かれていたのは、今里裏すは、の“足りない全然無いところ”のイラストだったのだ。
温泉に浸かりながら、二人は何気なく「すはちゃん、成長止まってる?」という話をしてしまった。
その勢いで、ついノートに今里裏すは、の胸部スケッチを描いてしまったのだ。
(絶対言えない……!)
早百と合亜は、密かに心の中で合掌し、二人同時にそっとノートを閉じた。
するとちょうどそのタイミングで、料理が運ばれてきた。
「わぁ!美味しそう~!」
今里裏すは、はすぐに気を取られ、目の前の湯葉御膳に夢中になった。
「いただきまーす!」
三人はそれぞれ食事を楽しみながら、温泉の余韻を味わった。
こうして、秘密のノート事件は、すはにバレることなく、静かに幕を閉じたのだった。
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