第2話
小さいと見える景色はこんなになるんだな。階段を登るのに苦労しそうだ。
【歩く小さな視界の花】の葉っぱを動かして階段の端に掛けて、足の代わりの根っこも使って登っていく。
今回の【歩く小さな視界の花】が存在可能な時間は20分しかない。階段を登るのに1分以上も時間を使ってしまうので急がなければ!
葉っぱを伸ばして根っこを動かして登っていく。それを繰り返し行なってようやく階段を【歩く小さな視界の花】は登り切った。
「瓦礫が凄いな。」
校舎の倒壊はしていないが、校庭のある方向に繋がる壁は壊されて吹き抜けの状態になっていた。
崩れた壁の瓦礫が壁になっているせいで校庭の方は見えないが、外から差している日差しは夕方でオレンジ色になって見えている。
「外が見える位置に移動しないとな。」
瓦礫を壁にして隠れながら進む。瓦礫を崩さない様に気を付けながら進んで行き、ようやく瓦礫がなく校庭が確認できる位置まで移動する事が出来た。
「…………うっ…………。」
その確認できた景色を見て絶句していた俺は景色を認識して口に手を当てて吐かない様に我慢する。
【歩く小さな視界の花】が映し出した景色には大量の死んでいる、または手足を失って動けない生徒たちが山積みになっており、その生徒たちの山に手を突っ込んで食べている人喰い鬼の姿が見えていた。
どれだけの生徒が人喰い鬼の群れから逃げ出せたのだろうか。現在、見えている限りでは10体の人喰い鬼の姿が校庭にあるが、校庭側の高校の外に繋がる壁が壊されているのが見えているから、これだと高校の外に出ている人喰い鬼だっているだろう。
とにかく地下室から出て外に出るのは人喰い鬼が群れで校庭にいるせいで逃げる事は出来ないのが分かった。
「もう時間が来たのか。」
【歩く小さな視界の花】が消えて目を閉じて見えていた視界が消えて暗くなる。時間が来て消えてしまった様だ。
あの人喰い鬼たちをどうにかしないとどうにもならない事が分かったけど、それをするには異能をもっと使わないといけないな。
どうやって人喰い鬼を倒せるんだろうな。植物を作れる。どんな風に植物を作れば良いんだろうか?
一番最初に思い浮かべたのは忍者漫画の木遁だ。あれは木を使った忍術が多かった。俺も植物が作れるのだから似たような事は出来るはずだ。
手のひらから木の角材が出るイメージで異能を使う。
「出来た。けど……。」
手のひらの中央から角材の木が出てきたがこれじゃあの人喰い鬼に勝てる気がしない。
木遁を使う忍者は居たが、使う忍者が違う場合では木遁の規模が違うように、今の俺だとこの手のひらから出た角材をどう使っても人喰い鬼を倒すような効果はないだろう。
俺自身が直接出向いてあの人喰い鬼の群れを殺す。なんて事は出来そうにない。
そうなると、間接的に人喰い鬼を殺す手段を考えるしかないだろう。考えられるとしたら毒。でも、あの巨体に効くほどの毒を持つ植物を作れる気がしないな。
毒のある植物で思い付くのは有名なトリカブト、ニラと間違えるらしいスイセン、あとジャガイモも芽が毒だったと思う。
でもこれらの毒を持つ植物の毒の効果がどんな物なのかを俺は知らない。それなら想像上の毒を持つ植物を作る方がいい。その方が効果だってあるはずだ。
「じゃあどうやって毒にするか、だよな。」
食べさせる?それとも触れる事で毒にさせる?花粉を吸わせる?他にどんな方法があるかな。とりあえず思い付くだけ考えていこう。まだ気付かれていないんだから時間だってあるし。
「あ、でもこのままだと気付かれる可能性だってあるか。まずは地下室の拠点化から始めた方がいいかも。」
人喰い鬼に見つからない様にする。今も隠れている【隠蔽の蕾】の様な植物を想像して地下室自体の隠蔽を施していかないと。
それなら地下室が壊れない様に補強かな。地下室の壁のヒビ割れがあるし。あそこから崩落したら不味いだろうからな。
隠蔽と補強。この2つが同時に出来る様な植物を考えよう。別にいっぺんに地下室全体をやらなくてもいいんだし。そこも踏まえて考えないとな。
植物の生成は苔も生成可能な範疇に入る。その苔を使うイメージの物を作り出していこう。
効果としては覆う部屋の中の隠蔽。隠蔽の範囲も音や臭いに気配を。他には部屋の強度の補強だな。
苔のイメージとしては歩くのに問題がない程度の柔らかさ。色は濃い緑色かな。他に何か思い付いたら、その都度足していこう。
「これでどれくらいの範囲を補えるかな。出来ればそれなりの範囲だと嬉しいけど。」
【隠蔽の蕾】の外に出た俺はヒビ割れが少しある壁まで移動すると、壁に手を付けて先ほどイメージした通りの苔を壁に生やしていく。
手を触れた場所から【部屋を覆う補強隠蔽の苔】が生み出される。円形状に広がっていく【部屋を覆う補強隠蔽の苔】。そのまま広がって疲労感が出てきたタイミングで異能の発動を中断する。
大体直径1メートルくらいの大きさで円形状に【部屋を覆う補強隠蔽の苔】は広がっていた。
一度の生成でこれくらい広がるのなら明日の時間を全て使えば地下室全てを覆い尽くせるだろう。
地下室にある補給物資の中から食料と水を持って【隠蔽の蕾】の中に戻ると、蕾の中で寄りかかり休憩する。倒れるほどではないけど、かなりの疲労を感じる。
【部屋を覆う補強隠蔽の苔】は【隠蔽の蕾】と同じで俺のエネルギーを使えば枯れて消滅することはない。
今のところはエネルギーの回復分よりもエネルギーの消費は少ない。問題は地下室を苔が全て覆ったときのエネルギー消費の量がどれくらいかなのかくらいだ。
「飯食って早めに寝るか。あ、トイレをどうするか考えてなかったな。」
夕食を食べて少しでもエネルギーの回復をしてからトイレを作ろう。
「ん、思ったよりも美味しいな。」
臭いがしないシリアルバーを食べたのだが賞味期限が長い物なのに美味しい物だった。
シリアルバーを食べ、水を飲んで水分補給を行ない、この日の最後の食事を終えた。
「お、食べたらお腹が痛くなってきた。」
これは大の方が出る前兆だと、俺は急いで【隠蔽の苔】の外に出ると、地下室の入り口から遠い角に移動した。
食事中にイメージは考えておいた通りにトイレを生成していく。
木製の洋式トイレ。臭いを吸収。トイレの中に出した物を栄養として存在の維持。お尻を拭く用の柔らかな葉っぱが生える。
【木のトイレ】を生成する。家のトイレと変わらない形をしている木製のトイレが出来上がった。
すぐに【木のトイレ】の蓋を開けて座って用を出していくと、【木のトイレ】に生えた葉っぱをもぎ取ってお尻を拭いた。
「ふぅ、間に合って良かった。」
【隠蔽の蕾】の中でお腹を摩りながらゆっくりと寄りかかると、早めの就寝に目を閉じて眠りに付いた。
「ふぁー、よく寝た。疲れてたのかな?それにしても身体が痛い。」
ベットで寝ず横にもなれずにいたせいか身体のあちこちから痛みを感じるが、それを我慢しながら外に出て朝のご飯を用意して食べていく。
「さてと、やりますか。でも、その前にトイレだな。」
【隠蔽の蕾】から出てトイレの蓋を開けた。蓋を開けたトイレの中には機能した大便やお尻を拭いた葉っぱは入っていなかった。【木のトイレ】が栄養として吸収してくれた様だ。
【木のトイレ】の機能がちゃんとしていて良かった。でも、維持のエネルギーが少し足りてないか。小便が終わったら、エネルギーの補給もしておくかな。
小便を終わらせてからエネルギーの補給を【木のトイレ】に行なうと、今度こそ【部屋を覆う補強隠蔽の苔】で地下室を覆う作業を行なっていく。
生命エネルギーと精神エネルギーを消費して意識を失う限界の2歩手前まで消費して【部屋を覆う補強隠蔽の苔】を生成する。
それを繰り返すこと8回。昨日よりも多くの範囲を覆える様になっていたからか、部屋の半分以上が【部屋を覆う補強隠蔽の苔】に覆われた。
これなら本当に今日中に【部屋を覆う補強隠蔽の苔】で地下室を覆える様になるだろう。
出来れば今日中に地下室全てを覆える様にして、今日は苔をベットの代わりにして横になって眠りたい。
【隠蔽の蕾】の中でしか話すことも出来ないのも辛いし。早く終わらせる為にも【部屋を覆う補強隠蔽の苔】を生やしていく。
食事や水分補給に生命エネルギーと精神エネルギーの回復以外では常に【部屋を覆う補強隠蔽の苔】の生成をするのに時間を使って時間は分からないが地下室を【部屋を覆う補強隠蔽の苔】で覆い尽くす。
「やっと完成した〜!」
床に生やした【部屋を覆う補強隠蔽の苔】の上に横になる。歩くのを阻害しない程度の柔らかさだが、それでも横になれない辛さを思えば柔らかなベットの様に感じれる。
ゴロンゴロンと床に生やした【部屋を覆う補強隠蔽の苔】の上を転がっていたのを止めると、意識を今の生命エネルギーと精神エネルギーがどれくらいあるのかを意識していく。
「ギリギリ消費が多いな。仕方ない。」
このままだと【部屋を覆う補強隠蔽の苔】の維持が出来ない。維持をする為にも【隠蔽の蕾】を消去することにした。
触れた【隠蔽の蕾】が萎れて枯れるとそのまま粉々に【隠蔽の蕾】は消滅していく。
エネルギーの消費とエネルギーの回復量が回復量の方が多くなったと感じ取れる。
「これで消費よりも回復力の方が多くなったな。今日も疲れたし食べる物を食べて寝ないと。」
広々と過ごせるのは良い。シリアルバーを食べて水を飲みながらそう思う。これで人喰い鬼たちには気付かれないで過ごせると精神的にも楽になる。
「んー、と寝るかな。」
身体を伸ばしてから【部屋を覆う補強隠蔽の苔】の上に横になる。
明日からはどうしよう。地下室をより暮らしやすい様にするか。それとも外の様子を確かめる為に偵察をするか。他には人喰い鬼を倒せる様な植物を考えるなんてのも良いかもな。
色々と考えて過ごしている間にいつの間にか眠りに付いていた。
目覚めてから食事やトイレをしたりしてから午前中を偵察に時間を使うことにした。
行って来い。そう【歩く小さな視界の花】を見送ると、地下室のドアを閉じて地下室の中に戻って意識を【歩く小さな視界の花】に向ける。
前回の偵察よりも長く偵察させる為に今回の【歩く小さな視界の花】は、【歩く小さな視界の花】の活動可能なエネルギーがなくなるまで消えない様にして偵察に向かわせた。
1回目の偵察の時よりもスムーズに【歩く小さな視界の花】は階段を登っていくと、そのまま一昨日に人喰い鬼の群れを確認した位置まで移動した。
「減ってはいる。減っているけど、これは不味いな。」
死体の山。それは前回の偵察では高校の生徒たちがほとんどを占めていた。
でも今回の偵察で確認した死体の山に積もられている死体は、高校の生徒ではなく、私服を着ている老若男女が多数だ。
これを考えるに人喰い鬼たちは高校の外に出て人間を狩っている。そして高校を人喰い鬼たちの拠点にしていると言うことだと思われる。
「どうしたもんかな。人喰い鬼たちの数も増えてるし。流石に高校の外に出て活動している人喰い鬼だっているだろうし。それを考えたら、校庭にいるだけでも15はいるからそれ以上ってことだ。」
幸いなのかは分からないが校庭にいる人喰い鬼は皮の腰蓑をしていて武器は身に付けていない。
どうにかして倒せる方法を考えないといつまで経っても地下室から出ることが出来ないだろうな。はぁ。
「とりあえず【歩く小さな視界の花】を太陽の当たる位置まで移動させないとな。出来れば校庭を見渡せる位置がいいし。」
少し遠回りをしてでも人喰い鬼に【歩く小さな視界の花】の姿を見せない様にしながら移動させて行く。
「おっと、こっち見てるのがいるな。」
瓦礫の陰に【歩く小さな視界の花】を隠す。かくれんぼ系のゲームをしているみたいに感じる。
見つかったとしても人間じゃないから見逃してくれるとありがたいんだけど、それは俺の願望だよな。さっきの様に隠れて進むか。
「よし、こっちを向いてないな。」
【歩く小さな視界の花】を進ませる。瓦礫や障害物に隠れて人喰い鬼に見つからない様に進み続けて、【歩く小さな視界の花】はようやく校庭を見渡せる位置にまで移動が出来た。
校庭を見渡せる校舎近くの花壇の一画に【歩く小さな視界の花】は根を下ろした。
これで太陽からの光合成と地面からの栄養の摂取を【歩く小さな視界の花】は行なえる様になり、俺からのエネルギーを受け取らなくても問題はないはずだ。
そこのところは今後の課題として考えていこうと思いながら、俺は人喰い鬼と人喰い鬼が出て来た裂け目の観察を行なっていく。
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