巨大生物戦争
甲羅に籠る亀
第1話
「世界のアップデートを開始します。それに伴い、世界を保護していたシールドが解除されました。近隣世界と繋がりますので注意しましょう。また、アップデートに伴って人類に異能を獲得する者が現れました。異能者は近隣世界からの侵略の防衛をお願いします。」
昼食を食べていた食堂で聞こえた声にガヤガヤとしていた食堂はシーンと静かになっていた。
あの声はなんだったのか。気になるところだったが、今の俺はそれどころじゃない。突然、身体が熱くなり、脳裏に自身の知らない未知の力の使い方が流れ込んでいた。
テーブルに肘を付いて頭を抱えながら耐えていると、食堂が生徒たちで騒がしくなるその前に突如としてギシギシと軋む音が鳴り響く。
「な、なんだ!!?」
「見てあれ!!」
校庭が見える位置にいた生徒たちが騒ぐ声が聞こえる。
だいぶ落ち着いてきた俺は生徒たちが集まって見ている校庭に何が起きたのか気になるが、その前に先ほど手に入れた異能のことに意識が向いていた。
俺が手に入れた異能は植物を作り出して操ること。その作り出せる植物も地球になる植物から自分の創作した植物まで様々だ。
異能の植物を作り操るには肉体から生み出される生命エネルギーと魂から生み出される精神エネルギーの2つが必要らしく、今の俺は異能を行使する為に最低限だが、その生命エネルギーと精神エネルギーを操ることが出来る。
食堂から離れて人の居ない校庭が見える位置まで移動しようと、最後に食べる為に残していた唐揚げを口に含んで移動しようとした時に「きゃあーーーー!!!」と女子生徒の悲鳴があがった。
「なんだよ、あれ!!」
「デカいぞ!!」
「お、鬼だ!?」
「お、おい!人を食べてるぞ!!!?」
食堂の窓から校庭を見ていた生徒たちの怯えが混ざった声が聞こえる。ここからだと人集りで窓の外が見えないが、ヤバい事態が校庭で起こっているのは理解できた。
このままだと恐慌が起きて食堂の生徒たちはパニックを起こして大変な事になりそうだ。
食堂から逃げ出す生徒がまだ居ない今のうちに食堂を出よう。校庭に人を食べる脅威がいる様だし、その正体を確認してどうにか逃げないとな。
口に含んだ唐揚げを咀嚼しながら食堂を出て移動する。そうして二階の階段を登って校舎の二階から校庭を確認した。
「人喰い鬼……それにあのサイズは。」
校庭には逃げ遅れた生徒を貪っている1体の5メートルくらいはあるだろう緑色の肌をした小さな角が額に1本ある鬼の姿がそこにはあった。
一口で丸呑みも可能だろうに、あの鬼は捕まえた生徒の手足をもぎ取って苦しませながら食べているのだ。
そんな人喰い鬼は見えるだけで5体。それもどんどんと空間の切れ目から出て来ている。
あんな者と戦うのが異能を獲得した異能者である俺の役目なのかと絶望する。あんなサイズの人喰い鬼に敵うわけがない。
「ゲラゲラ」と嗤う人喰い鬼たちの姿に絶望している俺だったが、校舎から出て人喰い鬼の群れに向かう生徒が複数現れた。
「あれって生徒会長か?それに他の人たちも生徒会のメンバーだ。」
美男子や美少女の集まる生徒会メンバーがそこには居た。
校舎の中にいる生徒や先生たちは人喰い鬼に気付かれない様に静まり返っている中で、人喰い鬼の群れに立ち向かう様に進んでいく生徒会メンバーに「なんで逃げないんだ?」「死ぬ気か!」「あ、もしかしてあの声が言っていた異能者って奴なんじゃ!」なんて声が静まり返っていた校舎に聞こえ始める。
あんなサイズのそれも人を食べる様な存在と戦える異能を生徒会メンバーは手に入れたのか?
俺が持っている異能だと倒せない。あのサイズの敵に対して包丁を刺しても急所に命中しないと殺せないだろう。今の俺じゃ起こせる異能の規模が小さいから、あのサイズの敵を倒すのは無理だ。
あれから裂け目からどんどんと出て来ている人喰い鬼は、食事を止めて嫌らしい笑みを浮かべて生徒会メンバーが何をするのかを見ていた。
「これ以上の狼藉はさせないぞ!!ここでお前たちを殺して学校を、生徒を守る!!みんな、行くぞ!!」
「はい!」「分かったわ!」「やりましょう、みなさん!」
生徒会メンバーは生徒会長が光の剣を手に生み出し、副会長が水の玉を複数自身の周りに、会計が火を生み出し、書記が風を纏って人喰い鬼たちに対峙している。
その発生させている異能の規模は俺が行なえる異能の起こせる規模よりも大きく感じた。
多分だが俺が起こす異能である植物を作り出して操る異能は生命の創造かそれに近い事だろう。
そう考えれば今の俺が起こせる小規模の異能だと言うのも納得がいくしな。でもこれであの人喰い鬼たちを倒せるかも知れない。
そう思ったのは俺だけじゃなく校舎から多くの生徒たちの生徒会メンバーへの応援の声が送られ始めた。
気付かれていたかも知れないが、これで完全に人喰い鬼たちは校舎に大勢の人間が居ることを理解しただろう事を俺は認識するとすぐに走り出した。
ああ、不味いぞ。このまま生徒会長たちが、あの人喰い鬼の群れに勝てればそれで良い!でも勝てなかった場合、あの人喰い鬼たちは校舎を探すはずだ!
何処に逃げればいいかを考えながら走る。途中で応援している生徒たちの様子を見るに生徒会メンバーは人喰い鬼に負けてはいないだろう。
あの大きさなら校舎の中には入って来れない。それなら校舎を破壊するか、窓を破って手を入れるくらいしか手段はないはず!
息を切らしながら校舎の地下を目指す。そこは本来なら地震などの緊急事態の時に必要になる食料などの備蓄が置かれている場所だ。
「鍵がないと開けられない!」
ガチャガチャとドアを開こうとするが鍵がかかっていて開けられない。
「あ、これなら!」
鍵穴に指先を触れさせて異能を発動する。指先から鍵穴に合う様に木材を生成していく。
「出来た。開いてくれよ。」
鍵穴を塞いでそこから生成された木の鍵を使った。ガチャリと開錠する音が聞こえた。
「開いた!」
木の鍵を抜いて地下室の扉が開けて中に入る。地下室の中は開かれる頻度がそこまでないからか独特の匂いがする中で、地下室の電気を付けてから扉を閉めて鍵をかけた。
「ふぅ、これで一先ずは大丈夫なはずだ。」
扉を背にしてへたり込んだ俺はようやく落ち着いてスマホをポケットから取り出した。
「連絡が来てる。母さんからか。」
スマホのメールを確認すると、そこには俺を心配する母さんのメールが来ていた。俺は安全な場所に隠れたから大丈夫だと母さんにメールで伝える。
他にも今の状況を母さんだけじゃなく、父さんや兄さんにもメールを送って俺が通う高校には近寄らない様に伝えて置いた。
これで俺を心配した家族が人喰い鬼が現れる様になった高校に来ることはないだろう。
「あとは俺がどうやってあの人喰い鬼たちから逃げるか、だよな。生徒会メンバーが勝てるに越したことはないけど。」
最近掃除されたのか、埃が積もってはない地下室でこれからどうしようか考えていると絶望した様な悲鳴が聞こえてきた。
絶望した様な悲鳴が起きた後に地下室に振動が起こる。それも何度もだ。
「あぁ、負けたのか。」
俺よりも異能の規模が大きかったのに人喰い鬼に生徒会メンバーは負けたみたいだ。それならこの振動や助けを求める悲鳴は校舎を壊しながら人喰い鬼に喰われている生徒や先生たちの声のはずだ。
何度も何度も起こる振動や絶望の悲鳴に、1人で隠れている若干の罪悪感とここなら安全なはずだという安堵を感じている中、突然地下室のドアを開けようとする音が聞こえてきた。
誰か分からないけど、ここに逃げようとしているのか。人喰い鬼に気付かれるかも知れないだろうが。
このままだとこの場所も人喰い鬼に気付かれる可能性がある。どうするか、そう考えて異能で隠れる事を決めた。
俺がこの場所にいる事を隠蔽する。そんな効果のある植物をここで作り出すのだ。
イメージは俺を包み込む蕾。蕾と蕾の中の存在に気が付かない。気が付いたとしても、それは路傍の石の様に感じる。そんなイメージで異能を全力で発動した。
「うぅ……。」
肉体的な疲労。精神的な疲労。それが同時に凄まじく起き始めた。全身に力が入らなくなり、意識を保っていられなくなっていく。
そうして俺は床に倒れて動けなくなると意識を完全に失ってしまう中で、意識を失って床に倒れた俺を包み込むように蕾が生成される。
「ん、何が起こったんだ?」
目覚めた俺は辺りを確認したが、俺を包み込む柔らかな感触をする物に視界が覆われて周りを確認できない。そんな中でなんでこんな事になったのかを思い出した。
「そう言えば隠れる為に異能を使ったんだったな。意識を失うレベルの異能を使うとこうなるのか。」
どれくらいの間、俺は意識を失っていたんだと確認すると、スマホの時計は午後の5時37分を示していた。
「凄いメールが来てる。うぉ、また来た。」
スマホのメール通知が家族から何度も来ていた。両親も兄もメールの最新の内容を見る限りでは大丈夫の様だ。それに両親も兄も合流して、今は避難所の自衛隊の基地に居るとメールに書かれていた。
「俺が無事なことを伝えないと。」
無傷で大丈夫な事と今の現状をメールを家族全員に送る。これで生存を伝えられただろう。が、もうメールは出来そうにない。こんな事なら充電をしっかりすれば良かった。
何度もメールが来ていた影響もあってスマホは3%しかない。これだとすぐに、あっ。
「はぁー。」
俺がメールで無事を伝えたのに気が付いた家族からのメールの返信が届いたタイミングで完全にスマホは画面が暗くなった。
「安否は伝えたし、俺に異能があることも伝えた。あとは俺が生き残るだけだな。それが問題だけど。」
もう校舎を壊して起きる振動も絶望の悲鳴も起きないし聞こえない。それでも警戒しながら蕾を開いて外に出てみた。
地下室は棚が倒れて棚に置かれていた避難物資が床に落ちているくらいしか意識を失う前と変わらない。
「あ、でもヒビ割れがあるな。」
天井と壁の一部にヒビ割れが起きている事に気が付いた。そのヒビ割れもそこまで大きくはない。よっぽど大きな地震でもない限りでは問題ないはずだ。
地下室にまだ隠れる事が出来そうだと分かったが、地下室の外はどうなったのだろうか?
「俺が外に出て確認する訳にはいかないからなぁ。方法としたら異能で確認するしかないよな。」
外付けの視界。小さくて動ける。姿を隠して見つからない。俺が操作する。性能としてはこれくらいか?
二足歩行の根っこ。茎からは2枚の葉。花の中央に目。そんな姿のイメージを浮かべた。
更に条件付けをする。10分以内に作り出した植物は消滅する。そう条件付きにする事で異能の発動に消費するエネルギーの消費を削減するのだ。
「これなら意識を失うことなく作り出せるはずだ。でも、万が一があるから蕾に戻ってからやろう。」
【隠蔽の蕾】の中に戻ってから蕾の中で想像の植物を生成していく。
手のひらに生命エネルギーと精神エネルギーが集まり、想像上の植物がその姿を作り出される。
「おお、出来た。」
手のひらの上には20センチくらい根っこを2本に束ねた足を持ち、花の中央に目玉を持つイメージ通りの植物がそこに生まれていた。
目を閉じる。そうして手のひらの植物に意識を向けた。すると、目を閉じているのに俺の姿が見える。
「成功した。これなら外の様子を確認できる。よし!成功だ!!」
葉っぱを動かしたり、根っこを動かして歩いてみたり、その場で動いて視界を確認したりと色々な事をして性能の調査をしていると時間が来たのか、【歩く小さな視界の花】は突如枯れて粉々になって消えてしまう。
「こうなるんだな。さてと、もう一度作って外の様子を確認しますかあ。」
【隠蔽の蕾】の外に出て地下室の唯一の出入り口に向かった。鍵を開けてドアをゆっくりと開ける。
開いて良かったと内心で安堵する。最悪はドアの前に瓦礫があって開かなくなる事だった。
でもドアを開けられて運が良かったと思うが、その一方で地下室の前の壁や床に血飛沫があるのには嫌な気分になってしまう。
気にしても仕方ない。隠れていないと俺が危なかったんだから。手ぐらいは合わせておくか。
両手を合わせて黙祷してから【歩く小さな視界の花】を異能で作り出した。
疲労感はあるが意識を失うほどではない。これなら問題なく外の確認をする事が出来る。
【歩く小さな視界の花】を降ろして地下室の中に戻って鍵を閉めると、【隠蔽の蕾】の中に戻ってから【歩く小さな視界の花】を操作し始めていく。
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