第34話 ステラの証言

 

 《ステラの証言》

 え? スーザンを殺したこと?

 はい。後悔なんてしてませんよ。どうして……。どうしてって? 


 そうですね、ダーウィンの「種の起源」だったかな。知ってます?

 ああ、タイトルだけでいいです。タイトル長いですよね。そこに答えがあります。


 自然選択? 自然淘汰? 生存競争において有利な者が保存される……種の起源


 とかなんとか。自然界で起こる自然淘汰について言ってるんです。人間も同じでしょ?


 それで、この学園でも淘汰されたんですよ。

 みんなに迷惑をかけて、人に依存して干渉して、人を見下して、嘘もつく。

 だから僕は彼女を淘汰したんです。スーザンを。その方がクラスは上手くいくから。

 環境によって変わろうとしないやつは、生き残れないんですよ。


 スーザンがいなくなってほっとしている生徒は多い。実際に先生たちだってそうでしょう。すぐ転校したことにしたでしょ。

 これ、僕だけ罰せられるんですか?


 まあいいですけどね。他にも罪はあるし。


 クリスティーナを外に連れ出したこと? 別に……暇つぶしです。

 僕、保健係になったから彼女の様子を聞いていて……寝たままだとつまらないだろうと思ったんです。

 外の風景を見せてあげたくなって。


 動けないはず? それは僕にもわかりません。あのときは動いたし、歩けたんです。

 山の景色を見て、彼女、感動してましたよ。寝たままじゃなくて、たまには散歩させてくださいね。


 あ、先生を気絶させた……確かに!

あの先生、訴えないって? 本当にすみませんでした。クリスティーナのお世話をしてくれている先生たちなのに。


 クリスティーナとマリアンヌ……クリスティーナのほうが大事かって? そりゃそうだよ。クラスのマドンナですよ。いつも盛り上げてくれて、面白くて、そして美しい。最高だよ。


 マリアンヌは何度か話しかけましたよ。でも無視するからね、彼女。

 声が出ない病気? それは知らなかった。自閉症みたいな……そうか、それに近いんだ。


 でも、マリアンヌのことは尊敬してますよ、だってティーチャー・パンジーをペーパーナイフで刺したんだから! すごいよ。かっこいいな。


 そうだ! その記憶、消されていたんですよ。でも閉鎖病棟に隔離されてから、いろいろ記憶が戻ってきた。

 あれかな……僕は瞑想の時間に参加してないからかな。あのお香と音楽とビタミン剤……怪しいです。それも調べてください。


 この学園なかなか悪いことやってますよね? みんなの名前まで変えるって……レイモンド校長、やってくれますよね。


 あと違う記憶も思い出したんですけど。話すべきですか?


 マグノリア祭って男子寮の男の子たちと交流して、年に一度、ダンスを踊ることになってるけど……そもそも男子っているのかなって。


 この間のマグノリア祭、たくさんのおじさんがやってきて、ステンドグラスとか買っていって……女の子たちとダンスも踊ったんです。彼女たちも嬉しそうにしていたけど。


 でもマグノリア祭の次の日にはみんな……かっこいい男の子たちと踊ったって言ってたんです。僕も含めて。


 あぁ、これ……話すべきじゃなかったかな。僕、殺されるとか?


 兄を殺したかって? 僕が暴力を振るわれてた? あれは僕じゃなくて、兄貴は恋人を殴ってたんだ。

 だから兄が酔っ払って風呂に入ってるときに沈めた。僕があんなやつにやられるわけないだろう。僕の方が強いんだから。


 レイモンド? あいつはゲス野郎。死んで当然だよ。最高な死に方だったね!

 クリスティーナのこと、商品みたいな発言してただろ? 許せない。

 クリスティーナと踊るのはすごくいい値段なのかな。そんな言い方だったよ。


 そう。僕がレイモンドを殺した。

なんで?! どう見たって僕が殺したんだよ。僕が風見鶏を投げたじゃないか。そしてレイモンドの心臓に突き刺さった!

 あの距離じゃ無理? じゃあどうするわけ? 

 もともと風見鶏は朽ちていて、いつ落下してもおかしくなかった? 強風で落ちた……なんだよそれ……。

 僕が殺したことにしてくれよ。その方がクリスティーナも喜ぶから。


 あのとき黒い雨雲が突然できあがり、レイモンドに覆いかぶさったのを数名が確認している……あぁ、確かに。僕も見た。死神みたいな黒い雲……影が現れた気がして。あれはなんだったのだろう?


 じゃあ僕の罪は? 僕の罰は?

 嫌だよ、閉鎖病棟なんて。せめてクリスティーナの横においてくれないか?


 あぁ……どうして飛び降りさせてくれなかったんだよ。エミリーに見せたかった。僕がホバリングできるかどうか……。空中停止のこと。

 もしかしたらできたかもしれない。

 人間も環境によって進化するんだよ。淘汰されないためにね。


 ふふふ。あははははは!


 そういえば、幽霊になったスーザンが夢にでてきたんです。僕を恨んでいるか聞いたら、恨んでないって。逆にごめんと謝られました。

 幽霊になった彼女のほうが、憑き物が落ちたみたいで。すごくまともで、魅力的に見えましたよ。不思議だったな。


 彼女は言ってました。

 

---私たちは普通の学校で普通に過ごすことのできなかった生徒たち。


 精神が壊れ、犯罪者の烙印を押された少女たちなの。特別なテストをたくさん受け、この学園に連れてこられた特別な生徒。


 喜びもパニックも振動し共鳴し、伝染する……。マグノリア学園収容所---









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