第17話 戦いの子
「……えっと、なんかキツネとカラスの軍隊がにらみあってて、がしゃどくろの様子うかがってる感じ。たぶん今は平気」
さっきそこでたおれていたハイラは、また情報収集をさせられていた。
「今のところ大丈夫そうだって」
あいも変わらず、ハイラの存在を認識できないクロカはシロハを通して会話している。
「よし、準備万端ってことで、お前らの出番だ!」
クロカはシロハと私の方に指をさした。
「わかった、ひとつ聞いてもいい?」
クロカは「どうぞ」と相槌をうつ。
「これから特攻するダイラとスイ……たしかにどっちも強い妖怪だから、単独行動しててもおかしくないけど」
ダイラとスイ。以前の昔話でも聞いた、集落の長のことだろう。
「部下もつれずに二人で塔にいる理由ってなんなの?」
「さぁね」
クロカはあっけらかんと答えた。
「あいつらの考えてることなんて、百年前からよくわかんないでしょ。ただ、事実としてあいつらが塔にいるから、そこにつっこんでこい!ってことよ」
クロカはとんっ、とシロハと私の背中を押す。
「いいか、キレない、なぐらない、燃やさない。だぞ!」
「わかってるわ!!」
クロカとの約束が気に食わないのか、もうシロハがキレているように聞こえるのは私だけだろうか。
「絶対に落ちないでよ、ゆかり。ちゃんと守るから、しっかりつかまって!」
「は、はい」
そういってシロハは私をかつぐと、すぐに景色は輪郭をうしなった。
「うわぁぁぁぁあああああああ!!」
シロハはとんでもないスピードで山をかけ、妖怪の塔へと向かっていく。
落とされちゃう、落とされちゃう、落とされちゃうぅぅ!!
いきおいに負けないように、私は力のかぎりシロハのうでをつかんでいた。
* * *
あの最悪のアトラクションから、何分たっただろうか。
いや、長く感じているだけで、実際はたぶん、一分もたってない。
なのにあんなに遠くにあった妖怪の塔が、もう目の前。
シロハの強さには感動をこえて、恐怖を感じることばかりだ。
「はぁ、はぁ……どうしましょうか。シロハさん」
塔の最上階はかなり上で、1階ずつ階段であがっていったら、日が暮れてしまう。
「……よし、あとちょっとだから、がんばって」
シロハは屈伸をして、伸びをして…と準備運動のようなものをすませると、また私をかついだ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」
シロハがぐぅぅっとしゃがみこむ。
次の瞬間、私たちは空をとんでいた。
地面は音を立ててくだけて、風そのものになったみたい。
気づけば、私たちは10階の屋根の上だった。
「えっ?は?いや―――」
「あと5回はやるわよ!」
シロハはビョンッッと屋根から屋根へのぼっていく。
今度も落ちたら本当にダメなやつ!!
さっきよりもさらに力をこめて、私はシロハの服をにぎった。
* * *
「そろそろ……か」
ダイラは中央に置かれた、砂時計をにらむ。
砂時計の中の砂は、もうほとんど落ちていて、あと数分もしないうちにすべて落ちきる。
「『この砂時計の砂が落ちきる前に、部下たちが勝敗をつけられなかった場合、先に我々が決着をつける』―――言い出したのはそちらでしたっけなぁ?」
スイは塔の窓を開けて外を見わたす。
「彼らには『がしゃどくろの動きを止めることだけに注力しろ』なんて、命じてあるのに、なんとお優しい。部下に戦わせる気なんてなかったのですねぇ」
ダイラはスイを鼻で笑う。
「それはお前も同じだろう。だからこの話にものってくれた―――違うか?」
スイは「いえいえ」と首を横にふる。
「そんなステキな心はもっておりません。妖狐では力のぶつかりあいである戦争は不向き。でしたら、私とあなたの一騎打ちの方が勝てると考えただけでして」
ダイラはスイに聞こえるように大きく舌打ちをする。
「気に食わないヤロウだ。その性根も、俺に少しでも勝てると思っているのも」
スイは何か話そうとして口あけたが、その口元は弧を描いて、笑い声に変わった。
「なんだ?なにがおかしい!?」
ダイラはスイに近づくと同時に、言葉をうしなう。
「……なにかが、急速に近づいている?」
「なにか、と言っても、こんなことができるのは一人しかおりませんが」
スイは窓際から少し離れると、その窓は何者かによって、たたきわられた。
「ダイラ!!スイ!!あんたらのケンカ、止めに来たわよ!!」
シロハは2人の間にわって入る。
もちろん、片手に私をかついで。
「「……人間?」」
ダイラとスイは私を注視する。
流石の集落の長でも、人間が来るのは予想外だったみたいだ。
それでも、私への興味なんて一瞬で、それからスイはすぐに動きだした。
「……あぁ!シロハ!やっと顔を見せてくれて嬉しいわぁ。この戦争にはあなたは不可欠。ぜひとも協力を―――」
「しゃべらないで」
シロハは冷たい視線を、スイにおくる。
「……ほんと、なんでかねぇ?」
スイは気味の悪い笑みをうかべた。
「あなたは『戦いの子』だというのに」
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