第23話 取り扱い注意

 とある朝――

 いつも通り農業班の班員たちが農地に向かうと、ポテト畑が荒らされた形跡があった。


「作物が……荒らされている……!!」


「この足跡はイノシシですね。やられました……」


 ルイーザは荒らされた場所を見て、肩を落とした。

 魔界のイノシシは大きいので、一回の被害も大きい。


「柵は軽々と破壊されています」


 班員がそう報告した。

 魔物のパワーから考えれば、柵なんてあってないようなもの。

 元々気休め程度のものである。


「おそらくはずっと隙を伺っており、ついに犯行に及んだということでしょう……」


 イノシシは臆病ではあるが、食べ物への執着は激しい。

 魔界の巨大イノシシも近い性質を持っているのだろう。


 ルイーザは頭を抱えた。

 畑は拠点の外れにあり、警備班の注意が十分に行き届かない。

 警備の強化を依頼する手もあるが、警備班の負担が増えてしまう。


 今年はまだ実験的に小規模な農地だが、来年以降はどんどん拡大していく予定だ。

 早急な解決策が求められた。


          *


 翌日――

 食堂では、とある会議が開かれていた。

 社長であるアルヴィン、社長秘書のミア、各班の班長たち、そしてクラリッサが出席している。


「それで、ストームの扱いをどうするかだね」


 アルヴィンはそう切り出した。

 つまりはドラゴンを飼い続けるのかどうかという会議である。


「エサは何とかなっているのだろ?」


 警備班のゴードンが言った。


「そうですね。問題は、ストームのコントロールはクラリッサさんの魔術に依存しているという点ですよね」


 ミアが心配そうに言った。


「僕としては、長距離の移動手段としては手放したくないな」


 空が飛べる極めて優れた乗り物である。

 今後の探索の役に立つだろう。


「クラリッサさんとしてはどうですか?」


 ミアは訊ねた。


「魔術というのはやってみないとわからないことが多くあります。これもその1つでしょう」


 クラリッサはいつもの無表情のまま、そう答えた。


「つまり、判断を僕たちに委ねるということかな?」


「そういうことになります」


「昨日報告しました通り、農地が魔物に荒らされることがありました。ストームを農地に置いていただけないでしょうか?」


 農業班のルイーザはそんな提案をした。

 ちなみに、現在はトーマスがよく鍛錬に使っている場所に置いている。


「つまり、それはストームを飼い続けるという前提に立っているよね?」


「ええ、そうです」


「ところでよ、ブリゲードタウンから帰還した後、宴が開かれたじゃん?」


 突然、エドワードがそんなことを言った。


「そうだけど、それがどうかしたのかい?」


 アルヴィンは問い返す。


「いや、クラリッサが酒を飲んでいたが、大丈夫だったのか?」


「絡み酒のこと?」


 クラリッサは絡み酒であり、普段は酒を飲ませないようにしていたが、あの時ばかりは特別に許していたのだ。


「いや、ストームのコントロールだ」


 それを聞いた瞬間、アルヴィンは背筋が凍る思いがした。

 自分の愚かさを悔い、問題が起こらなかった幸運に感謝した。


「でも、睡眠中でもコントロールに問題はありませんよね?」


 ミアが不思議そうに訊ねる。


「そうだが、酩酊状態ではどうなるかわからないぜ」


 エドワードは言った。


「というわけで、クラリッサは絶対禁酒とするよ。いいね?」


 アルヴィンはそう告げた。


「わかりました」


 クラリッサは素直に従った。 

 彼女は基本的に真面目なのだ。


「それはつまり、ストームは引き続き飼うということか?」


 ゴードンは確認した。


「そうだね。そして、普段は農地に配置して、獣害対策になるか試してみるよ。探索中は――素直に警備を増やすことにしようか」


「わかりました。近づく魔物を撃退するように指示しておきます」


「よろしくお願いします。くれぐれも畑を荒らさないように注意してください」


 ということで、ストームはこれからも強制的に公社の仲間であり続けるということになった。


 ちなみに、害獣対策としての効果は抜群だった。

 ドラゴンはいるだけで並の魔物に対する抑止力となるらしい。

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