第19話 敵地潜入
敵の死体を担いだアルヴィンとトーマスを見て、社員たちは勝利を知った。
「「公社万歳!」」
称賛の中、アルヴィンとトーマスは担いでいた死体を降ろした。
「敵とはいえ、遺体を粗末に扱ってはいけないよ!」
アルヴィンは大きな声で厳命した。
「クラリッサ、ドラゴンの様子はどうだい?」
「このドラゴンは人の言うことを聞くように魔術が掛けられていました」
クラリッサはドラゴンの頭を撫でながら言った。
とりあえず、ドラゴンは大人しくしているらしい。
「なるほど。ドラゴンを操るほどの魔術か……」
「念のために、私が同等な魔術で上書きしておきました」
クラリッサの言葉を聞いて、アルヴィンとトーマスは目を見張った。
「マジかよ、さすが聖騎士サマだぜ」
「つまり、旅団にはクラリッサと同じタイプの魔術師がいるということかな?」
「少なくとも、この2人じゃねぇな」
トーマスは敵の死体を見ながら言った。
「収穫はありましたか?」
「ああ、これだよ」
アルヴィンはそう言って、地図を見せる。
「賭けには勝てましたね」
「ああ、本当によかったよ」
「この地図が本当にアテになるかはわからないが……」
「それも賭けるしかない」
「賭けの連続だな……」
「魔界に挑むということはそういうことだね」
「残念ながらそうだな」
「ドラゴンを操る魔術ということは、何か情報を得られるかい?」
「あくまで“ドラゴンの視点”ですが、少しは……」
「とりあえず名前だね」
「それは重要なのか……?」
「彼らには『ストーム』と呼ばれていたようです」
アルヴィンはストームを見る。
「――まぁまぁのネーミングセンスじゃないかな。他に気になることは?」
「特に気になるのは、このドラゴン――ストームを操っていた魔術師です。圧倒的な存在感を放っていました」
「ヴィクターだろうな……」
「何にせよ、今度はこっちが敵のアジトに向かう番だ。このドラゴンは使えるのかい?」
「はい、おそらく」
ドラゴンには丁度良い感じに、鞍と手綱が装着されている。
馬に近い感覚で操作できそうだ。
都合良く、鞍には3人分座る場所がある。
ドラゴンの鞍は専用に作ったものであろう。
敵はそういう技術を持っている。
つまりはそれだけの規模だと予測できる。
「とりあえず、ストームはどうやって操作するんだい?」
「基本的には言葉で命令できます。細かい操作は手綱を使用してください」
「なるほど。まずは僕が1人で乗って、操作できるか試してみよう」
そう言って、ストームの背に乗った。
「とりあえず、よし、ストーム! ゆっくり進め!」
アルヴィンがそう言うと、ドラゴンはのっしのっしと歩き出した。
「飛べ!」
ドラゴンは翼を大きく動かす。
カーティスタウンの人々と施設がどんどん小さくなる。
未だ見たことがない、広い視界がアルヴィンを圧倒する。
「これが空を飛ぶってことなんだ!」
アルヴィンは手綱を握りながら、感動を口にした。
しばらく飛び回った後、ストームを元の位置に降ろした。
「よし、ストームは使えるよ! 行こう!」
今度は探索班の3人を乗せてストームは飛び立った。
「こいつを本国に持ち帰ったら恐ろしい兵器になるぜ」
「敵はすでにそれができるということですね」
「そんな奴らは野放しにできないよ。魔界の力はエルヴェネラ王国が独占させてもらうッ!!」
アルヴィンは力強く言い放った。
……………………。
…………。
「煙が見える。あそこが敵の拠点だ」
「やれやれ、地図は正しかったということか。良かったぜ」
一行は安堵した。
ここまで来て実は空振りだった可能性も考えていたからである。
「人質を助けるまではこっそり動きたい。この辺りで降りよう」
ドラゴンは大きい、迂闊に近づくとすぐに捕捉されてしまう。
敵の拠点からかなり離れた位置でストームは地上に降りた。
「ここからだと遠すぎるから、歩いて接近するよ」
ある程度歩いたところで、小高い丘を見つけたので登った。
「まずは、ここから可能な限り様子を覗おう」
アルヴィンはそう言って、小型の望遠鏡を取り出した。
トーマスとクラリッサも同じものを取り出した。
3人で敵の拠点を観察する。
「ミアたちはどこか牢の様な場所に閉じ込められているはずだ。外観ではわからなそうだな」
「う~ん、わからないね」
「本当にそうでしょうか?」
「何っ!? 聖騎士サマは牢がどこかわかるのか?」
「いえ、そうではありません。例えば、このストームは物理的に拘束されていませんが、逃げたりしません」
クラリッサは淡々とそう答えた。
ここまで言われて、アルヴィンとトーマスも理解した。
「魔術で操られているということだね?」
「そうとは限りませんが、それが一番簡単です」
しばらく、拠点を観察し、ついに動くこととなった。
ストームを待機させ、一行は敵の拠点に向けて歩き出した。
敵の見張りに見つからないように、意図的に森の中を進む。
途中で魔物に襲われることもあったが、拠点が設けられるような場所である。
今のアルヴィンたちにとっては大した障害にならなかった。
無事に拠点が目と鼻の先まで迫ることにあっさり成功。
「さぁ、ここで暗くなるまで待つよ」
「闇に紛れて潜入か……。夜襲の経験はあるが、潜入はやったことがないな」
「潜入の件ですが、私1人に任せていただけないでしょうか?」
クラリッサは突然そんなことを言った。
「何か考えがあるのかい?」
「はい。まず、1人の方が目立ちません」
「それはわかるよ」
「その1人が私である理由ですが、私なら敵に案内させることができます」
「そうか! ドラゴンを操れるのだから、人間だって操れるよね」
「はい」
「なるほど、それはいけるかもしれない」
こうして、クラリッサに重要な役割が任された。
……………………。
…………。
暗くなるのを待って、クラリッサは動き出した。
草や小枝を大量に付けたマントを被ってカモフラージュし、匍匐前進だ。
見張りに気付かれないように、ゆっくりと、しかし、確実に……。
拠点に入り込めば、こちらのものだ。
見張り台にいる者の視線は基本的に外側を向いている。
ここからはカモフラージュ用のマントは捨てて行動する。
拠点はテントが多く、カーティスタウンよりはやや劣って見えた。
やはり、政府のバックアップがあるかの差は大きい。
基本的に想定している敵が魔物であり、人間がこっそり潜入してくることは想定していないのだろう。
その点ではカーティスタウンと同じだ。
まずは歩哨を見つける。
松明を持っているので、簡単だ。
後ろから忍び寄り、魔術で眠らせると、歩哨は倒れた。
いきなり操るよりも眠らせて隙を作ってからの方が成功しやすいとクラリッサは考えたのだ。
魔術での操作を開始すると、歩哨は起き上がった。
「人質の場所まで案内してください」
クラリッサがそう命じると、歩哨は返事をすることもなく歩き出した。
ひとまず成功である。
すぐにとある建物の中に入っていった。
歩哨に続いて入ると、ミアとジェロームがいた。
両者とも、瞳に力がない。
ワインバーグの装飾は剥ぎ取られ、衣服は見窄らしいものに変わっていた。
まぁ、当然だろう……。
クラリッサはまず、ミアの魔術を解いた。
「――――!?」
ミアは困惑しているが、敵の拠点の中であることを察して、口を開かなかった。
次にジェロームの魔術を解除した。
「おお、アークライト卿ではないか! 神は私を見捨てなかったのだな?」
「見捨ててませんから、黙ってください。敵の拠点の中です」
そう注意されて、ジェロームは慌てて自身の口を押さえる。
クラリッサは2人に新しい腕輪を渡した。
「静かに私に着いてきてください」
そう言って、クラリッサは歩き出した。
2人は言われた通りに静かに追う。
拠点の外に出る直前、クラリッサは立ち止まった。
「ドラゴンを待たせてあります。ここから走りますので付いて来てください」
「――ド、ドラゴン!?」
ジェロームは目を丸くした。
だが、細かいことを訊ねている余裕はない。
「途中で社長とトーマスさんも合流するはずです」
そう言って、クラリッサは松明を掲げて走り出した。
ミラとジェロームも慌てて後を追う。
暗闇ではあるが、腕輪の力で視力を上げて対応する。
さすがにすぐに気付かれた。
警鐘が鳴り響く。
構わず走り続ける。
「ぐおっ!!」
ジェロームが転けて、ちょっと遅れる!
ミアはジェロームを助け起こす!
「申し訳ありませんが、今は頑張ってください!」
「う、うむ!」
さすがに突然の出来事であり、すぐに追ってがやって来る様子はない。
予定通り、アルヴィンとトーマスが合流した。
「――社長!!」
ミアが声を上げる。
「感動の再開は後にして、走れ!」
トーマスが叫んだ。
「わ、わかっています!」
5人はストームの待つ場所目指して走る!
一番遅いワインバーグが足を引っ張る形になっているが、問題ない。
ただひたすら走る!
突如――
暗闇に紛れて、何かが進行方向から飛来する!
アルヴィンはそれに火炎弾をぶつけた!
「何物だッ!?」
アルヴィンは問う。
闇の中から、その男は現れた。
「オレの名前はレジナルド・ウェインっていうんだ……」
男は――ウェインは名乗った。
「ウェイン卿!?」
クラリッサが驚いた様子で言った。
「知っているのかい?」
「おや、アークライト卿ではないか!?」
ウェインも驚いている。
「ウェイン卿はかつては教会騎士でした……」
「……かつては?」
「ああ、つまり追放されたんだな?」
「はい、その通りです。素行に問題がありました」
「なるほど、それでヴィクターに拾われたというわけか」
トーマスは納得した様子で言った。
「まぁ、そういうことだが、教会騎士っていうのは何かと窮屈でな。辞められて清々しているぜ」
「そうですか、それはよかったですね」
「とりあえず、お前たち――逃さんぞ!」
ウェインはそう言い放った。
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